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抗うつ薬と痛み止めの併用で消化管出血?
公開. 投稿者:うつ病.この記事は約5分8秒で読めます.
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SSRIによる出血
パキシルなどのSSRIの添付文書には「出血の危険性を高める薬剤を併用している患者、出血傾向又は出血性素因のある患者」について、慎重投与となっている。
「皮膚及び粘膜出血(胃腸出血等)が報告されている」ためである。
セロトニンによる出血の副作用に関しては、選択的5-HT2受容体拮抗薬であるアンプラーグ(サルポグレラート)が、抗血小板薬として用いられていることから、想像しやすい。
そのため、パキシルの相互作用には、
止血・血液凝固を阻害する薬剤
非ステロイド性抗炎症剤、アスピリン、ワルファリンカリウム等
という記載があり、SSRIとNSAIDsの併用には注意を要する。
抗うつ薬の中で、痛みによく用いられるサインバルタはSNRIであるが、添付文書上同じような注意書きが見られるので、併用に際しては消化管出血に注意する必要がある。
サインバルタと痛み
抗うつ薬に分類されるSNRIのひとつ、サインバルタという薬がある。
効能効果は、以下のようになっている。
○ うつ病・うつ状態
○ 下記疾患に伴う疼痛
糖尿病性神経障害
線維筋痛症
慢性腰痛症
うつ病のみならず、痛みにも効果がある。
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が、セロトニンやノルアドレナリンの働きを高めることによって、痛みを抑制する神経の働きを高めることができる。
この「痛みを抑制する神経」のことを「下行性疼痛抑制系」という。
リリカやノイロトロピンも同様の作用機序だ。
サインバルタと糖尿病神経障害
中枢神経には、末梢から脳に痛みを伝える上行性疼痛伝導系と、脳から末梢に痛みを抑制する信号を伝える下行性疼痛抑制系があるが、糖尿病神経障害の痛みは、糖尿病により高血糖状態が続くことで神経が傷つき、上行性疼痛伝導系が過敏になることが原因の一つと考えられている。
この痛みは、局所のけがや炎症を原因とした一過性の痛みとは異なる種類の痛みであり、プロスタグランジンの産生を抑えて痛みを抑制する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの鎮痛薬は効きにくい。
そのため、治療には、上行性疼痛伝導系を遮断する、あるいは下行性疼痛抑制系を活性化する薬剤が用いられる。
サインバルタと下行性疼痛抑制系
デュロキセチンには、神経のシナプス間隙で一度放出されたセロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害して、シナプス部のセロトニンやノルアドレナリンを高濃度に保つ作用がある。
セロトニンやノルアドレナリンには痛みを抑制する下行性疼痛抑制系を活性化させる働きがあるため、同薬を服用すると鎮痛効果が現れると考えられている。
モルヒネなどのオピオイドμ受容体を作動する鎮痛薬は、上行性疼痛伝導系の抑制に加え、下行性疼痛抑制系を活性化することで神経障害の痛みを軽減するとの報告がある。
また、カルシウムチャネルα2σリガンドのプレガバリン(リリカ)も上行性疼痛伝導系と下行性疼痛抑制系に作用することが示唆されている。
抗うつ薬が痛みに効く?
痛みがあれば通常痛みどめが処方されます。
しかし、痛みどめだけでは痛みが治まらないということはよくある。
そんな時、精神系の薬が追加されたりします。
神経因性疼痛などの難治性の痛みは非オピオイド鎮痛薬とオピオイドの併用だけでは除痛できないことがあります。
その場合は、抗うつ薬、抗けいれん薬、抗不整脈薬、副腎皮質ステロイドなどの鎮痛補助薬が使用されます。
三環系抗うつ薬あるいはSSRIといった抗うつ薬は慢性疼痛に有効である。
これは、慢性疼痛が中脳から脊髄後角へと投射して痛みを調節する経路である下行性痛覚抑制系においても重要な神経伝達物質として作用しているためである。
そのため、セロトニン系あるいはノルアドレナリン系単独に作用する薬物よりも双方に影響する薬物のほうが鎮痛効果は高く、ミルナシプラン(トレドミン)が推奨されている。
抗うつ薬の鎮痛効果は、発現が4~5日と早く、また抗うつ効果を期待する用量の1/3以下で達成されることがあり、抗うつ効果と鎮痛効果は別の機序によると考えられている。
ラットではこの下行性痛覚抑制系を電気刺激すると、無麻酔で開腹手術が可能となることも報告されている。
慢性疼痛に抗うつ薬?
近年、うつ病と慢性疼痛との関連性が話題になっています。
セロトニンとノルアドレナリンが減った状態が慢性的になると、原因のない慢性疼痛が引き起こされる可能性があるということが示唆されたのです。
うつ病の主たる治療薬が三環系抗うつ薬であった頃には、まだ慢性疼痛のメカニズムが明らかではありませんでしたが、すでに慢性疼痛の症状には抗うつ薬が改善をもたらすことが臨床経験的にわかっていました。
神経伝達物質についての研究が進むにつれて、モノアミン量を増加させる抗うつ薬が慢性疼痛に奏功することから、
慢性疼痛の発現メカニズムには何らかの神経伝達物質の減少がかかわっていると予測されていました。
近年、下行性抑制系機能の低下が神経伝達物質セロトニンとノルアドレナリンの濃度低下で引き起こされることがわかってきました。
その結果、抗うつ薬が慢性疼痛の改善効果をもたらすという生物化学的な証拠が示されたのです。
また逆に、セロトニンとノルアドレナリンの減った状態(=うつ病の状態)が慢性的になると、原因のない慢性疼痛が引き起こされる可能性があるということも示唆されました。
最新の抗うつ薬はセロトニンやノルアドレナリン量を選択的に増やすことができ、その他の神経伝達物質への影響が比較的少ないことから、今後慢性疼痛における治療薬として抗うつ薬がさらに注目されるようになると考えます。
痛みとステロイド
ステロイド系抗炎症薬ががん疼痛を抑えるメカニズムは明確にはわかっていません。
痛みを感知する部位の浮腫の軽減、プロスタグランジン、ロイコトリエンなどの炎症物質の軽減が関与していると考えられます。
がんそのものが痛みを発するということはありません。
がん細胞が増殖して大きくなることで、痛みを感じる組織や臓器(神経や骨など)を圧迫したり、直接浸潤することで痛みが発生します。
この圧迫を軽減することがステロイド系抗炎症薬の鎮痛効果の発現機序と考えられます。
痛みと抗不安薬、睡眠薬
痛みに伴う不安、焦燥、不眠に対して用いるだけではなく、筋緊張の緩和作用を期待して用いられます。
抗不安作用、筋弛緩作用などによって使い分ける。
長期投与による耐性や依存性があるので、できるだけ長期投与にならないように減量するのが望ましい。
抗うつ薬がかゆみに効く?
セロトニンは末梢では痛みを起こし、脊髄内では痛みを調節する役割があると考えられている。
また、セロトニンはかゆみも引き起こし、真性多血症ではかゆみの原因となる。
5-HT3受容体拮抗薬であるオンダンセトロンについて、かゆみの自覚症状を改善した報告がある一方、掻き回数には明らかな差がなかったという報告がある。
そのほか、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)がかゆみを改善したという報告もあり、セロトニンのかゆみに関する作用は一定していない。
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