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透析患者にNSAIDsは禁忌?
公開. 更新. 投稿者: 14,063 ビュー. カテゴリ:痛み/鎮痛薬.この記事は約10分36秒で読めます.
透析患者に使える痛み止めは?NSAIDsは使えない?

透析患者が、
「腰が痛い」
「膝が痛い」
「頭痛がする」
と訴えたとき、どの痛み止めを使えばよいのでしょうか。
腎機能が低下している患者ではNSAIDsによる腎機能悪化が問題になるため、
「透析患者にはロキソニンは使えない。カロナールなら使える」
と覚えている人も多いでしょう。
しかし、透析患者まで進むと話は少し複雑になります。
すでに腎機能がほぼ廃絶し、無尿となっている患者では、
「NSAIDsを使っても、これ以上悪くなる腎機能がないのでは?」
という考え方もあるからです。
一方、透析患者でも残存腎機能が残っている人はいます。
さらにNSAIDsには、腎障害以外にも消化管出血や心血管系への影響があります。
透析患者の鎮痛薬は、「腎機能が悪いからNSAIDsは禁止」と単純に考えるのではなく、
残存腎機能・薬物の腎排泄・透析による除去・腎臓以外の副作用
を考えて選ぶ必要があります。
透析患者の痛み止めはアセトアミノフェンが第一選択
まず比較的使いやすいのが、
アセトアミノフェン(カロナールなど)
です。
CKD・透析患者の疼痛管理では、アセトアミノフェンが第一選択として挙げられることが多くなっています。
NSAIDsと比べると、腎血流への影響が少ないことが大きなメリットです。
そして重要なのが添付文書上の扱いです。
アセトアミノフェンは、
「透析患者だから禁忌」ではありません。
腎機能障害患者では注意が必要ですが、透析患者であることを理由として使用できない薬ではありません。
そのため、
「透析患者の一般的な痛みに何を使う?」
と聞かれれば、まずアセトアミノフェンを検討しやすいでしょう。
ただし、アセトアミノフェンなら何mgでも安全というわけではありません。
肝障害、飲酒状況、併用薬、総投与量などにも注意する必要があります。
NSAIDsはなぜ腎臓に悪い?
ロキソプロフェン、ジクロフェナク、セレコキシブなどのNSAIDsは、COXを阻害してプロスタグランジンの産生を抑えます。
プロスタグランジンは炎症や痛みに関係しますが、腎臓では腎血流を維持する働きもしています。
NSAIDsによってプロスタグランジン産生が抑えられると、腎血流量が低下し、GFRが低下することがあります。
そのため腎機能が低下している患者では、
NSAIDs → 腎血流低下 → さらに腎機能低下
という問題が起こりやすくなります。
これが「腎機能低下患者ではNSAIDsを避ける」といわれる大きな理由です。
でも透析患者なら、これ以上腎機能は悪くならない?
ここが透析患者の面白いところです。
透析患者の中でも、
ほとんど尿が出ない無尿の患者
では、すでに腎機能がほぼ廃絶しています。
そうなると、
「NSAIDsで腎血流量が低下して腎機能が悪化する」
という問題は、保存期CKD患者とは意味合いが変わってきます。
実際、透析患者の疼痛管理に関する文献では、
無尿の透析患者ではNSAIDsを減量せず使用可能
とする考え方があります。
「これ以上悪くなる腎機能がほとんど残っていない」という理屈には、一理あるわけです。
透析患者にも「残存腎機能」がある
しかし、
透析患者=腎機能ゼロ
ではありません。
透析を始めた後でも尿が出ている患者は珍しくありません。
こうした患者では、わずかでも残っている腎機能、つまり残存腎機能をできるだけ維持することが重要です。
残存腎機能があれば、水分や尿毒素の排泄を自分の腎臓でも行うことができます。
そのため、
残存腎機能のある透析患者にNSAIDsを使って、その腎機能をさらに低下させる
ことは避けたいわけです。
したがってNSAIDsについては、
保存期CKD
↓
透析導入後・尿がまだ出る
↓
無尿の透析患者
という連続した状態として考えたほうがわかりやすいでしょう。
「透析しているかどうか」だけではなく、「腎機能がどの程度残っているか」が重要なのです。
無尿ならNSAIDsは安全?
では、
「無尿ならロキソニンを普通に使ってよい」
のでしょうか。
そう単純でもありません。
NSAIDsの副作用は腎機能障害だけではないからです。
例えば、
- 消化性潰瘍
- 消化管出血
- 血小板機能への影響
- 血圧上昇
- 心血管系への影響
- 体液貯留
などがあります。
つまり、
「NSAIDsで腎機能が悪化しない」=「NSAIDsが安全」
ではありません。
無尿になれば「残存腎機能を失う」という問題は小さくなりますが、NSAIDsそのものが持つ腎外の有害作用は残ります。
さらに問題になる「添付文書上の禁忌」
薬剤師としてもう一つ無視できないのが、添付文書です。
例えばロキソプロフェンの電子添文では、
「重篤な腎機能障害のある患者」
は禁忌とされています。
理由として、腎血流量低下作用によって腎機能障害を悪化させる可能性が示されています。
ここに少し不思議な状況が生まれます。
無尿の維持透析患者では、
薬理学的には「これ以上失う残存腎機能がほとんどない」
という考え方ができます。
しかし、
添付文書上は「重篤な腎機能障害」が禁忌
なのです。
したがって、
「無尿の透析患者ならNSAIDsを普通に使える」
と一律に説明するのは適切ではありません。
臨床的な薬理学の考え方と、個々のNSAIDsの添付文書上の扱いは分けて考える必要があります。
セレコキシブなら安全?
「ロキソニンがダメならCOX-2選択的NSAIDsのセレコキシブならよいのでは?」
とも考えたくなります。
COX-2選択的NSAIDsは、従来型NSAIDsより消化管障害を軽減できる可能性があります。
しかし、
COX-2選択的だから腎臓に安全
というわけではありません。
COX-2も腎臓で重要な働きをしているため、腎血流や体液・電解質への影響は起こり得ます。
また、心血管系リスクについても考える必要があります。
「透析患者だからセレコキシブなら安全」と単純に置き換えることはできません。
プレガバリンは透析患者にも使える?
痛み止めというとNSAIDsやアセトアミノフェンを思い浮かべますが、痛みの種類によって使う薬は異なります。
例えば、
ビリビリする
ジンジンする
電気が走るように痛い
といった神経障害性疼痛では、プレガバリン(リリカなど)が使われることがあります。
しかしプレガバリンは、アセトアミノフェンとは全く違う注意が必要です。
プレガバリンは主として腎臓から排泄されるため、腎機能が低下すると体内に蓄積します。
透析患者に通常量をそのまま投与すれば、
- 傾眠
- めまい
- ふらつき
- 意識障害
などの副作用につながる可能性があります。
そのため腎機能に応じた大幅な用量調節が必要です。
さらにプレガバリンは血液透析によって除去されるため、透析後の補充投与が設定されています。
つまり、
「透析患者にも使えるが、普通の患者と同じ使い方はできない薬」
の代表例です。
ガバペンチンも同様に腎排泄性が高く、透析患者では用量調節が重要です。
トラマドールは?
トラマドールも透析患者では注意が必要です。
トラマドール本体だけでなく、その代謝物も腎機能の影響を受けます。
腎機能低下によって排泄が遅延すれば、
- 悪心・嘔吐
- 傾眠
- 意識障害
- 痙攣
- 呼吸抑制
などの副作用が問題になる可能性があります。
したがって、
「NSAIDsが使いにくいからトラマドールに変更すれば安心」
という単純な話ではありません。
透析患者では薬剤ごとの投与量や投与間隔を確認する必要があります。
モルヒネは透析患者で使いにくい
強い痛みではオピオイドが必要になることがあります。
ここでも「オピオイド」という一つのグループとして考えてはいけません。
特に注意したいのがモルヒネです。
モルヒネは肝臓で代謝されますが、その代謝物には活性を持つものがあり、腎臓から排泄されます。
腎機能が高度に低下すると代謝物が蓄積し、
傾眠や呼吸抑制などのオピオイド毒性
が問題になります。
そのため透析患者では、モルヒネは使いにくいオピオイドの一つです。
フェンタニルやブプレノルフィンは比較的使いやすい
一方、
フェンタニル
ブプレノルフィン
などは腎機能低下患者でも比較的使用しやすいオピオイドとして挙げられます。
オキシコドンも選択肢になりますが、腎機能低下時には慎重な使用が必要です。
したがってオピオイドについても、
モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルは「強い痛み止め」という意味では似ていても、透析患者における使いやすさはかなり違う
ということになります。
デュロキセチンは?
神経障害性疼痛に使われる薬として、デュロキセチン(サインバルタ)もあります。
糖尿病性神経障害や慢性腰痛症などで使われるため、
「透析患者の神経痛にも使えそう」
と思うかもしれません。
しかし、デュロキセチンは高度の腎機能障害患者では使用できません。
したがって、透析患者の神経障害性疼痛では、プレガバリンなどとは扱いが異なります。
「神経障害性疼痛に効く薬だから」という理由だけで選ぶことはできません。
透析患者の鎮痛薬を整理すると
大まかな考え方を整理すると次のようになります。
| 薬剤 | 透析患者での考え方 |
|---|---|
| アセトアミノフェン | 比較的使いやすく第一選択になりやすい |
| NSAIDs | 残存腎機能があれば避けたい。無尿では腎機能悪化の問題は小さくなるが、消化管・心血管系などに注意。個々の添付文書も確認 |
| セレコキシブ | COX-2選択的でも腎・心血管系への影響に注意 |
| プレガバリン | 使用可能だが大幅な用量調節が必要。透析による除去にも注意 |
| ガバペンチン | 使用可能だが大幅な用量調節が必要 |
| トラマドール | 蓄積・副作用に注意し慎重に投与 |
| モルヒネ | 活性代謝物が蓄積するため使いにくい |
| オキシコドン | 使用されるが慎重な用量設定が必要 |
| フェンタニル | 腎機能低下時にも比較的使いやすい |
| ブプレノルフィン | 腎機能低下時にも比較的使いやすい |
| デュロキセチン | 高度腎機能障害では使用できない |
ただし、これは「○なら安全、×なら危険」という単純な一覧ではありません。
患者の痛みの原因、残存腎機能、透析方法、併用薬、年齢、肝機能などによって選択は変わります。
「透析で抜けるか」も重要
透析患者ではもう一つ、
その薬が透析によって除去されるか
という問題があります。
透析で薬が除去されれば、透析後に血中濃度が低下します。
逆に透析でほとんど除去されない薬では、透析をしても蓄積した薬を十分取り除けない場合があります。
そのため、
「腎排泄されるか」
だけでなく、
「透析で除去されるか」
まで考える必要があります。
プレガバリンのように、この点が投与設計に直接関係する薬もあります。
「痛み止め」ではなく「痛みの種類」から選ぶ
透析患者では、
「腎臓が悪いからどの鎮痛薬を使うか」
だけを考えるのでは不十分です。
そもそも痛みの種類によって適切な薬が違います。
例えば、
腰痛・関節痛など
→ アセトアミノフェン、場合によってNSAIDsなど
神経障害性疼痛
→ プレガバリン、ガバペンチンなど
がん疼痛などの強い痛み
→ オピオイド
といった具合です。
透析患者だからこそ、
「とりあえずロキソニン」ではなく、何が原因の痛みなのかを評価して薬を選ぶ
ことが重要になります。
まとめ
透析患者に使える痛み止めはあります。
一般的な疼痛では、アセトアミノフェンが比較的使いやすく、第一選択になりやすい薬です。
一方NSAIDsは少し複雑です。
保存期CKDや残存腎機能のある透析患者では、NSAIDsによる腎血流低下によって残された腎機能を失う可能性があるため、できるだけ避けたい薬です。
しかし、完全に無尿となった透析患者では、
「これ以上悪化する残存腎機能がほとんどない」
ため、NSAIDsによる腎機能悪化という問題は小さくなります。
だからといって、
「透析患者ならNSAIDsを自由に使える」
わけではありません。
消化管障害、出血、心血管系への影響などは残りますし、ロキソプロフェンなど個々の薬剤には添付文書上「重篤な腎機能障害」が禁忌となっているものがあります。
さらにプレガバリンやガバペンチンのように、
使えるけれど大幅な減量が必要な薬
もあれば、モルヒネのように、
腎排泄性の活性代謝物が蓄積するため使いにくい薬
もあります。
透析患者の鎮痛薬を考えるときには、
「腎臓に悪い薬か」だけではなく、「残存腎機能はあるか」「腎排泄されるか」「透析で除去されるか」「腎臓以外の副作用は何か」
という複数の視点で考える必要があります。
「透析患者だから使えない」ではなく、透析患者だからこそ、薬ごとの性質を理解して使い分けることが重要なのです。
参考資料
日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」
PMDA 各医薬品電子添文
『臨牀透析』「痛みの治療(1)薬物療法」
『臨床雑誌 内科』「鎮痛薬と疼痛管理」
日本緩和医療学会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」



