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低用量アスピリン服用中にNSAIDs使っちゃダメ?
公開. 更新. 投稿者:痛み/鎮痛薬.この記事は約6分32秒で読めます.
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低用量アスピリン服用中のNSAIDsはダメ?
「アスピリンもサリチル酸系NSAIDsなので、NSAIDsと併用しちゃダメなんじゃないの?」と聞かれて困る私です。
バファリン(アスピリン)とイブプロフェンを同時に服用すると、アスピリンの血小板凝集抑制作用が減弱するという報告があります。
そのため、低用量アスピリンを服用している患者には、イブプロフェン製剤を服用しないように伝えます。
バイアスピリン服用中の患者にブルフェン処方とか、たまにありますが。
アスピリンに加えてNSAIDsを1年に60日以上服用している患者は、アスピリン単独服用の患者に比べて心筋梗塞のリスクが2.8倍になったという報告もあります。
アスピリンによる抗血小板療法を行っている患者へのNSAIDsの投与にあたっては、アスピリンの抗血小板作用を減弱させないような服薬方法についての情報提供、場合によっては相互作用の少ない代替薬の提案なども必要だと考えられます。
COX1は、細長い疎水チャネルを通って、基質であるアラキドン酸が活性部位に結合するという特徴ある構造をしています。
アスピリン以外のNSAIDsのカルボキシル基は、疎水チャネルの入り口近くにある120位のアルギニン残基に可逆的に結合してチャネルを塞ぐため、アラキドン酸やアスピリンは疎水チャネルの奥に進めなくなってしまいます。
アスピリンによるセリン残基のアセチル化は、アスピリンが初回通過効果により脱アセチル化されてサリチル酸になる前、すなわち体循環に入る前に限られます。
アスピリンの半減期は非常に短いため、可逆的な結合によっても大きく阻害される可能性があります。
ただ、その影響の程度はNSAIDsのCOX1に対する親和性、COX2選択性により異なるため、個々の薬剤について検討する必要があります。
イブプロフェンとアスピリン
NSAIDsのうちイブプロフェンに関しては、アスピリンとの併用により、アスピリンの抗血小板作用を減弱させることが広く知られており、添付文書にも記載されています。
イブプロフェンのTmax、T1/2はそれぞれ2時間程度なので、アスピリンをイブプロフェンの2時間後に投与した場合、COX-1にはすでにイブプロフェンが結合しており、アスピリンはセリン残基をアセチル化することができません。
さらに、アスピリンのT1/2は15~30分程度と短く、代謝物のサリチル酸にはアセチル化の能力はないため、血中濃度低下によりイブプロフェンがCOX-1の結合部位から離れても、セリン残基にアセチル化は起こらず抗血小板作用は減弱します。
イブプロフェンにもCOX-1阻害による抗血小板作用は認められますが、可逆的なためイブプロフェンの血中濃度低下に伴い消失します。
そのため、イブプロフェンの最終投与後は時間とともに抗血小板作用は低下していきます。
イブプロフェンとアスピリン速溶錠を併用する場合の服用方法について、米国食品医薬品局(FDA)は、イブプロフェンはアスピリン服用の少なくとも30分以上後、あるいは8時間以上前に服用することで相互作用が回避できるとしています。
ただしアスピリン腸溶錠は相互作用を回避できない可能性がある。
ロキソプロフェンとアスピリン
ロキソプロフェンとアスピリンの併用については添付文書には記載されていませんが、イブプロフェンの場合と同様の相互作用を示唆する研究結果が報告されています。
ロキソニン錠60mgとバファリン配合錠A81を用いた研究によれば、単回投与の場合、ロキソプロフェンとアスピリンを同時に投与、ロキソプロフェンを2時間前に投与のいずれの場合においても、アスピリンの抗血小板作用は減弱することが報告されています。
一方、ロキソプロフェンを2時間後に投与した場合の抗血小板作用は、アスピリン単独投与と同等であることが示されています。
ロキソプロフェンとアスピリン速溶錠の併用については、試験結果からロキソプロフェンをアスピリン服用の2時間以上後、あるいは12時間以上前に服用すれば相互作が回避されることが示されています。
速溶錠のバファリン配合錠A81を1日1回朝食後に服用中の患者に、ロキソニン錠60mg1回1錠1日3回毎食後という処方が追加された場合、朝食後のロキソニン錠60mgを朝食2時間後に変更すればアスピリンの抗血小板作用に影響を与えず、ロキソニン錠60mgを服用することも可能です。
また、ロキソニン錠60mgを屯服で使用する場合には、イブプロフェンの場合と同様に相互作用の可能性は小さいと考えられます。
ただ、いずれの場合でも空腹時の服用となる場合には、胃腸障害についてよりいっそうの配慮が必要です。
アスピリン腸溶錠とNSAIDs
アスピリンにはバファリン配合錠A81のような素錠(速溶錠)だけでなく、バイアスピリン錠のような腸溶性の製剤もあります。
アスピリン腸溶錠81mg投与後2時間、7時間、12時間後にイブプロフェン400mgを投与した場合の血小板凝集抑制効果は、アスピリンを先に投与しているのにもかかわらず、時間とともに減弱されたと報告されています。
これは、腸溶錠は放出が遅く素錠に比べて吸収が遅延するため、後から投与されたイブプロフェンによって抗血小板作用が阻害されるためと考えられます。
ロキソニンとアスピリン腸溶錠の相互作用を調べたデータはありませんが、イブプロフェンの場合と同様に考えて、NSAIDsの併用が必要な場合には、相互作用の少ないものを選択する必要があります。
アスピリンとその他のNSAIDs
インドメタシン、ナプロキセン、チアプロフェン酸はイブプロフェンやロキソプロフェンと同様、前投与によってアスピリンの抗血小板作用に影響を与えるという報告がある一方、COX-2選択性の高いセレコキシブ、メロキシカム、ジクロフェナクはアスピリンの抗血小板作用に影響を与えないことが示唆されています。
COXのうち炎症時などに誘導されるCOX2に対して選択的な作用をもつセレコキシブやロフェコキシブは、COX1には影響を与えないため、アスピリンの作用を阻害しないと考えられる。
しかし、イブプロフェンなどと同様にCOX1とCOX2に対して非選択的な作用をもつと考えられるジクロフェナク、アセトアミノフェン、スリンダクがアスピリンの作用に影響を与えない理由は明確にはわかっていない。
ただし、ジクロフェナクやアセトアミノフェンは、COX1への結合が触媒部位への接触をあまり阻害しないのではないかと考えられる。
イブプロフェンとアスピリンの相互作用
・イブプロフェン200mgを低用量アスピリン(81mg)投与後1時間以内に投与した場合は、抗血小板効果は顕著に低下することが予測された。
・同様に2時間以上空けて投与した場合には、抗血小板効果の減弱は認められなかった。
・低用量アスピリンの投与0~12時間前にイブプロフェンを投与した場合は、アスピリンの抗血小板効果は全く認められなかった。
・低用量アスピリンを1日1回連日投与、イブプロフェン200mgを1日3回3日間、アスピリン投与2時間後から5時間間隔で投与した。
その結果、1日目はアスピリンの効果の減弱は認められなかったが、2日目には効果の減弱が認められ、その影響は3日目のイブプロフェン投与中止後3日間は持続した。
イブプロフェン150mgについても同様の結果が得られた。
・2剤の投与タイミングにより低用量アスピリンの効果は顕著に減弱することが明らかになった。
OTC薬として使用される用量においても相互作用は認められたため、医療関係者は低用量アスピリンが処方されている患者には注意する必要がある。
参考書籍:調剤と情報2011.8、調剤と情報2012.3
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6 件のコメント
こんにちは。Twitterからです。
いまバイアスピリンとイグザレルトを同時服用しています。
ひどい腰痛でNSAIDs系のモービック*1とロルカム*3を使っています。ロキソニンは合わないみたいでひどい腹痛になるので使わないように先生に言ってます。
この処方もあまり良くないのでしょうか?整形の先生は気にする風もなくいろんな鎮痛剤出そうとします。
バイアスピリンの効果が半減してもイグザレルトのほうが抗凝固作用が強いのであまり気にしなくていいのかな?とか思ったりもしています。
コメントありがとうございます。
整形外科の医師はあまり気にせず処方しているんでしょうね。
腰痛の訴えをいかに解消するかに力を注いでいます。
モービックとロルカムをどのように使っているか、という形にもよるでしょうけど、両方とも毎日連用しているのであればバイアスピリンの効果はほぼ期待できないかと思われます。
それ以上にモービック、ロルカムの連用による副作用、消化器、腎機能障害などのほうが不安ではありますが。
有難うございます。モービックは仕事の時のみで週3〜4錠くらいです。
ロルカムは完全屯用に使ってるので1日3錠くらい(最高)です。全く使わない日も週の半分くらいあります。
本当はもっと使いたいのですが出来る限り使わないようにしています。
胃腸障害もひどいので、消化器内科の先生から
オメプラール、アルサルミン、ガスロンN、セレキノンが処方されています。
すみません、今勉強中です。
COX2は影響を与えないのはほかの文献でも読んだことがあるのですが2、セレコキシブは警告欄にも血管系血栓塞栓性事象のリスクの記載があり、調べ始めたら鎮痛剤の使用での心筋梗塞のリスクがからんできて一緒に飲むことに違和感を感じています。
セレコキシブは病状ではさけて他を選ぶにしてもロキプロフェンならいいのかというのも・・。
なんだか迷宮に入ってしまいました。
コメントありがとうございます。
アスピリンの抗血小板作用を他のNSZAIDs服用が打ち消してしまうかどうかという問題なのかと思いますが、実際のところ鎮痛目的で処方されているNSAIDsを患者がどの程度処方通りに飲んでいるのかというのも不透明な部分がありますし、なるべく服用を控えている患者もいるし、バイアスピリンとの飲む間隔のズレによってバラつきが出そうなので、学術的には証明は難しそうな気がします。
ただ実務的には、例えばNSAIDsの服用がアスピリンの効果を半減させてしまうとしても、痛みを訴えている患者に痛み止めすら処方できないというのは医師の武器を奪ってしまうことにもなるので、今現状薬剤師としてできることは、患者に副作用のリスクも伝えたうえで鎮痛目的で処方されているNSAIDsについては漫然と服用せず痛みに合わせて服用してもらうように努めることしかないのかなあと思っています。
求めている答とは違うかも知れませんが。
有難うございます。
これからも参考にさせていただきます。