2025年8月5日更新.2,564記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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痛み止めで胃に穴があく?NSAIDs潰瘍とそのリスク

痛み止めで胃に穴が開く?─NSAIDs潰瘍とそのリスク

「痛み止めを飲んだら胃に穴が開くって本当?」

そんな疑問を持つ方は多いと思います。NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)による胃潰瘍・消化管障害の実態、なぜ胃を荒らすのか、どんな対策ができるのか、そして坐薬や低用量アスピリンとの関係まで、勉強します。

NSAIDsとは?その作用と副作用

NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)は、解熱・鎮痛・抗炎症作用を持つ薬剤群で、ロキソニン、イブプロフェン、ボルタレン、インドメタシンなどが含まれます。

これらは「プロスタグランジン(PG)」という体内物質の生成を阻害することで、炎症や痛みを抑えます。しかしこのプロスタグランジンには、胃粘膜を保護する働きもあります。そのため、NSAIDsは胃の防御機構を弱め、胃潰瘍や消化管出血のリスクを高めてしまうのです。

NSAIDs潰瘍の実態と統計データ

ピロリ菌が胃潰瘍の主因ですが、2番目に多いのがNSAIDs潰瘍。

米国では、NSAIDsによる消化管障害で年間10万人以上が入院、1万6500人が死亡(American Journal of Medicine)

1ヶ月以上の服用で、約10%の人に潰瘍発症とも言われています

特に長期服用が必要な関節リウマチや変形性関節症の患者、高齢者、低用量アスピリンを服用している心血管疾患予防の患者はリスクが高いとされています。

なぜ胃に穴が開くのか─NSAIDsの作用機序

プロスタグランジンは胃の中で以下の役割を果たしています:

・粘液・重炭酸イオンの分泌促進(胃酸から保護)
・胃粘膜血流の維持
・細胞の修復促進

NSAIDsはこれらの保護作用を弱めるだけでなく、以下の直接的障害作用も持ちます:

・胃酸中のH+と結合→胃粘膜を透過→細胞内アシドーシス
・ミトコンドリアへの影響→細胞死誘導

つまり、胃粘膜保護能の低下+細胞毒性によって、潰瘍・穿孔(穴が開く)・出血などのリスクが高まるのです。

「胃に穴が開きます」は言い過ぎ?服薬指導の工夫

「胃に穴が開きます」とストレートに伝えると、服薬アドヒアランスが下がる可能性があります。そのため、薬剤師は「胃を荒らすことがあります」など、やわらかい表現で伝える工夫が必要です。

ただし、長期服用者や高リスク患者には、リスクと必要性のバランスをしっかり説明し、予防策を講じる重要性を伝えることが大切です。

NSAIDsと胃薬の併用─本当に守れるのか?

NSAIDs服用時には、以下の胃腸保護薬が併用されることが多いです:

・ムコスタ(レバミピド)・セルベックス(テプレノン):胃粘膜保護薬
・H2ブロッカー(ファモチジンなど):胃酸分泌抑制
・PPI(プロトンポンプ阻害薬):最も強力に胃酸を抑える

例:タケプロンは「低用量アスピリン投与時の潰瘍再発抑制」に保険適用あり

寝る前にNSAIDsを飲むのは大丈夫?

・横になると薬が胃内に停滞→直接粘膜を刺激→胃を荒らす要因に
・就寝前にどうしても服用する場合は、何か軽く口にしてから飲むなどの工夫が必要
・夜間頻尿目的で処方された場合、水分摂取のジレンマも考慮

発見が遅れるNSAIDs潰瘍─無症候性の危険

NSAIDsは痛みを抑える作用そのものが潰瘍の症状をマスクすることがあり、以下のようなケースで見逃されやすくなります:

・関節リウマチ患者での長期投与
・胃痛を感じにくい

気づかないまま黒色便・貧血(Hb低下)として発見される

処方箋に検査値が記載されている場合は、ヘモグロビン値の低下=消化管出血のサインとして注視が必要です。

潰瘍患者に使える痛み止めはある?

NSAIDsは「消化性潰瘍のある患者」には添付文書上は禁忌です。

・NSAIDs(ロキソニン等):禁忌(PGE2合成阻害による防御能低下)
・ソランタール(チアラミド):禁忌(NSAIDs様機序)
・アセトアミノフェン:禁忌ではない

アセトアミノフェンについては近年の添付文書改訂により、”消化性潰瘍”は禁忌事項から削除されました。ただし、個別の症例に応じた慎重な使用判断は引き続き求められます。

重度の痛みには代替がなく、リスクとベネフィットを天秤にかける必要があります。

坐薬なら胃に優しい?─あまり変わらないという現実

よく「坐薬なら胃に優しい」と言われますが、これは直接粘膜への接触を避けるという意味では正しいです。しかし:

・坐薬も血中にNSAIDsを送り込むため、PG合成阻害作用は経口薬と同様
・実際、経口薬と坐薬で胃粘膜障害の頻度に差はないという報告もあります

低用量アスピリンなら安全?

低用量アスピリンは血栓予防で広く使われますが、COX-1を強く阻害するため、胃粘膜への影響は用量に関係なく発現します。

・消化性潰瘍の約25%がNSAIDs潰瘍
・その25%が低用量アスピリンによるもの
・1年継続服用で1~2%が潰瘍を発症

そのため、PPI併用や定期的な内視鏡検査などの予防対策が欠かせません。

まとめ:NSAIDs使用時に気をつけるべきこと

・胃潰瘍リスク:NSAIDs、特に長期・高齢者・低用量アスピリンで増加
・機序:PG合成阻害+直接粘膜障害
・予防:PPI併用、適切な服用タイミング、内視鏡検査
・坐薬:直接接触は避けられるが全身作用は同じ
・服薬指導:リスクと必要性のバランス説明が重要

「胃に穴が開く」リスクは誇張ではありませんが、正しい知識と対策があれば、多くは防げる副作用です。薬剤師・医師の立場から、適切な服薬指導とリスク管理を心がけましょう。

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