2025年6月26日更新.2,507記事.

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夜間頻尿にロキソニンが効く?NSAIDsの意外な使い道

夜間頻尿にロキソニンが効く?―NSAIDsの意外な使い道とそのメカニズム

「夜中に何度もトイレに起きて眠れない」
そんな悩みを抱える方にとって、ロキソニン(ロキソプロフェン)などのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が効く、という話は少々意外に聞こえるかもしれません。
一般にNSAIDsは痛みや炎症を抑える薬として知られていますが、その副作用を逆手に取った「夜間頻尿への応用」が一部で試みられているのです。

NSAIDsとは?ロキソニンの基本作用

NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)は、炎症、発熱、痛みを抑える薬剤群であり、解熱鎮痛薬として広く使用されています。

代表的な薬:
・ロキソプロフェン(ロキソニン)
・ジクロフェナク(ボルタレン)
・セレコキシブ(セレコックス)
・メフェナム酸(ポンタール)など

NSAIDsは共通して、シクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害し、プロスタグランジン(PG)の産生を抑えます。これにより炎症や痛みが和らぐのですが、同時にPGが担う「生理的な機能」も抑制してしまうため、消化管障害や腎機能障害などの副作用も発現します。

この副作用の中に、「腎血流量の低下」や「尿量の減少」が含まれます。

夜間頻尿とNSAIDsの関係:副作用を利用する処方?

夜間頻尿(Nocturia)とは、夜間睡眠中に1回以上排尿のために起きることを指します。高齢者に多く、QOL(生活の質)を著しく低下させる症状です。

夜間頻尿の原因は様々ありますが、大きく以下の3タイプに分けられます:
・夜間多尿:夜間の尿量が過剰になる(1日の尿量の33%以上が夜間)
・膀胱容量減少型:夜間に限らず1回の排尿量が少ない
・混合型:上記の両方を併せ持つ

NSAIDsが有効とされるのは「夜間多尿型」の頻尿です。

NSAIDsによる尿量減少のメカニズム

NSAIDsは、以下のような作用を通じて尿の生成を抑制します。

●プロスタグランジンE2(PGE2)の抑制
・PGE2は、腎臓において輸入細動脈を拡張し、糸球体濾過量(GFR)を維持・増加させる役割を担っています。
・また、遠位尿細管ではNa⁺と水の再吸収を抑制し、尿量を増やす方向に働きます。
・集合管では抗利尿ホルモン(ADH)と拮抗して、水の再吸収を妨げます。

これらのPGE2の生理作用がNSAIDsによって抑えられることで:
・腎血流量が低下し、GFRが減少
・Na⁺と水の再吸収が増加し、尿量が減少
・ADHの作用が強まり、水が再吸収されやすくなる

結果として「夜間の尿量が減る」=夜間頻尿が改善する可能性があるというわけです。

実際の処方例と用法

医療現場では、次のような処方例が一部で報告されています:
・ロキソプロフェン 60mgを就寝前に1回服用
・目的は「夜間の排尿回数を減らすため」
・特に他の治療で効果が見られなかった場合や、高齢者で抗コリン薬などの使用が困難な場合に選択されることがあります

ただし、これは添付文書上の適応外使用であり、医師の裁量で処方されるケースに限られます。

注意すべき副作用とリスク

NSAIDsは尿量を減らす効果がある反面、腎血流を低下させることから、特に以下のような患者ではリスクが高まります:

リスク因子
・慢性腎臓病(CKD):腎機能がさらに低下する危険性あり
・高齢者:年齢による腎予備能の低下があるため
・利尿薬との併用:腎血流の減少により利尿作用が相殺されることも
・心不全:水分貯留が増す恐れあり
・消化性潰瘍歴:NSAIDsは胃粘膜を障害する作用がある

副作用としては:
胃痛、胃潰瘍、腎障害、浮腫、高血圧の増悪などが報告されています。

他の夜間頻尿治療との違い

薬剤作用機序夜間多尿への効果注意点
抗コリン薬膀胱の過活動を抑制高齢者ではせん妄のリスク
β3作動薬(ミラベグロンなど)膀胱弛緩高血圧に注意
デスモプレシンADH作用を模倣し、尿生成を抑制低Na血症に注意
NSAIDsPGE2抑制により腎血流・尿量を減少腎障害・胃障害に注意

NSAIDsは「即効性」「安価」「市販薬で手に入る」という利点もありますが、継続使用は原則推奨されません。

まとめ:NSAIDsの頻尿改善作用は“使いどころ”がカギ

ロキソニンなどのNSAIDsには、思いがけず「夜間頻尿の改善」という副次的な作用があります。これはプロスタグランジンの産生抑制による腎血流の低下と尿生成抑制を通じて得られるものです。

ただし、それはあくまで副作用の一部であり、適応外使用である点と腎・胃への負担を伴う点を十分に理解した上で、慎重に使用すべきです。

夜間頻尿は、生活の質に大きく関わる症状です。多様な選択肢の一つとして、NSAIDsの特性を正しく理解して活用することは、患者さんにとって有益なアプローチになりうるかもしれません。

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