2025年7月25日更新.2,542記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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バファリンを海外旅行に持って行っちゃダメ?出血熱とアスピリン

デング熱とアスピリン

海外旅行の荷物に、解熱鎮痛剤を入れておくのは常識──そんなふうに考えている人は少なくありません。頭痛、発熱、歯痛、筋肉痛など、いつ起こるかわからない体調不良に備えて、薬を持ち歩くのはごく自然な行動です。

しかし、持って行く薬の種類によっては、現地で思わぬリスクを招く可能性があることをご存知でしょうか?

とくに、「バファリン」などアスピリンを含む解熱鎮痛薬を熱帯地域に持って行くことには注意が必要です。理由は、現地で感染する可能性のある「デング熱」との相性が悪いためです。

デング熱とは?

デング熱は、デングウイルスに感染した蚊(主にネッタイシマカやヒトスジシマカ)に刺されることで感染するウイルス性疾患です。感染後、2〜15日の潜伏期間を経て発症します。

◆主な症状:
・突然の高熱(38〜40℃)
・頭痛
・筋肉痛・関節痛(「骨が折れるような痛み」とも)
・発疹
・全身倦怠感

多くの場合、これらの症状は1週間ほどで軽快しますが、まれに重症化し、「デング出血熱(Dengue Hemorrhagic Fever)」や「デングショック症候群(DSS)」に進展することがあります。

出血熱とアスピリンの危険な関係

デング出血熱において問題となるのが、血小板数の減少と毛細血管透過性の亢進による出血傾向です。この状態でアスピリンのような抗血小板作用を持つ薬剤を服用すると、出血リスクがさらに高まる可能性があります。

◆アスピリンの抗血小板作用:
アスピリン(アセチルサリチル酸)は、COX-1を阻害し、トロンボキサンA2の生成を抑えることで血小板凝集を抑制します。これは脳梗塞や心筋梗塞の予防に役立ちますが、出血傾向のある疾患においてはリスク要因となります。

◆出血熱とNSAIDs全般:
バファリンに限らず、ロキソニン(ロキソプロフェン)、イブプロフェンなどのNSAIDsも、程度の差はあれど抗血小板作用を有するため、同様に注意が必要です。

なぜアセトアミノフェンが推奨されるのか

デング熱に対して、特効薬やワクチンは基本的に存在しないため、対症療法が基本となります。その際に解熱・鎮痛薬として推奨されるのがアセトアミノフェンです。

◆アセトアミノフェンの特徴:
・中枢性に作用し、抗炎症作用が弱く、血小板機能にほとんど影響を与えない
・比較的副作用が少なく、出血傾向のある疾患にも使用しやすい
・デング熱を含むウイルス性出血熱において、もっとも安全性が高いとされる解熱鎮痛薬

WHOやCDC(米国疾病予防管理センター)などのガイドラインでも、デング熱の対症療法においては「NSAIDsを避け、アセトアミノフェンを使用すること」が推奨されています。

バファリンを持っていくと、なにが問題?

「海外旅行にバファリンを持って行ってはいけない」というわけではありません。しかし、デング熱やその他のウイルス性出血熱が流行している地域においては、使用が危険となる場面があるということです。

特に注意すべき地域:
・東南アジア(タイ、ベトナム、インドネシアなど)
・南アジア(インド、バングラデシュなど)
・中南米(ブラジル、ペルー、コロンビアなど)
・カリブ海諸国
・アフリカ熱帯地域

これらの地域では、デングウイルスの感染リスクが通年あるため、万一発熱した際に誤ってNSAIDsを服用しないよう注意が必要です。

ある例では、海外渡航中に高熱と関節痛を訴えた旅行者が、市販のアスピリン製剤を自己判断で服用。数日後に出血斑や血尿が出現し、現地病院でデング出血熱と診断されたというケースがあります。

このように、一見無害に見える解熱鎮痛薬が、出血性疾患においては病態を悪化させるリスクをはらんでいることを、医療従事者はしっかりと理解しておく必要があります。

薬剤師ができる対応とアドバイス

薬局の現場でも、「旅行に持っていく薬を選びたい」という相談は少なくありません。その際、薬剤師ができる重要な役割があります。

提案すべきポイント:
「熱帯地域に渡航予定なら、NSAIDsではなくアセトアミノフェン製剤を」
「発熱時は自己判断で服薬せず、現地で必ず医師に相談を」
「デング熱流行地では蚊よけ対策も重要」

また、必要に応じて「渡航前外来(トラベルクリニック)」の利用を勧めるのも良い選択です。

まとめ:知らずに持って行く“リスク”を避けよう

海外旅行に薬を持参することは大切ですが、「どの地域に」「どんなリスクがあるか」を踏まえて選ぶことが重要です。

「バファリンを持って行っちゃダメ」というよりも、「バファリンが“危険になる場面”を知っておこう」というのが本質です。

とくにデング熱のようなウイルス性出血熱がある地域では、アスピリンやNSAIDsを避け、アセトアミノフェンを選ぶというのが鉄則。

薬剤師としては、患者の「安心の旅」をサポートできるよう、**服薬指導とともに健康リスクについても啓発できる存在でありたいものです。

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