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ビタミンK1は添付文書通りに投与してはいけない?
公開. 更新. 投稿者:栄養/口腔ケア.この記事は約4分56秒で読めます.
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ケーワン錠の用量は添付文書通り?実際の使用量との違い

ケーワン錠(一般名:フィトナジオン、ビタミンK₁製剤)は、止血関連で頻繁に使用される薬剤のひとつです。添付文書には「低プロトロンビン血症等に対して20〜50mgを分割経口投与する」と記載されていますが、実際の臨床現場では「そんな高用量、まず見ない」と感じたことがある薬剤師の方も多いのではないでしょうか。
ケーワン錠とは?
ケーワン錠は、合成ビタミンK₁(フィトナジオン)を有効成分とするビタミン製剤です。ビタミンKは肝臓でのプロトロンビンなどの凝固因子(第II、VII、IX、X因子)のγ-カルボキシ化に必須のビタミンであり、止血機構を支える重要な役割を担っています。
主な適応:
・ワルファリンなどのクマリン系抗凝固薬の過量投与による出血傾向の改善
・ビタミンK欠乏による低プロトロンビン血症(抗菌薬長期投与、脂質吸収不全、胆道閉塞など)
・新生児・乳児におけるビタミンK欠乏性出血症の予防・治療(粉末や注射薬で対応)
・肝疾患に伴う凝固障害の補助
添付文書に記載された用量とその内容
ケーワン錠5mgの添付文書(2024年改訂時点)には以下のように記載されています。
効能又は効果に関連する使用上の注意:
薬剤投与中に起こる低プロトロンビン血症等には 1日量として20~50mg を分割経口投与する。
この記載だけを見ると、「ビタミン剤にしては随分と高用量だな」と感じるかもしれません。特に、抗菌薬による腸内細菌叢の撹乱や、脂溶性ビタミンの吸収不全などの場面では、もっと少量で対応していることが多い印象です。
実際の現場での使用量:どれくらい使われているのか?
実際の処方において、ケーワン錠は 5mg/日以下で処方されることが大半 です。以下に、よく見られるケースを紹介します。
ケース①:抗菌薬長期投与時の予防的投与
処方例:ケーワン錠5mg 1錠 週1回
目的:腸内細菌叢撹乱によるビタミンK欠乏の予防
抗菌薬の長期使用時、腸内細菌がビタミンKを産生しなくなることで、プロトロンビン時間が延長する可能性があります。その予防目的でケーワン錠を「週1回」などで使用するケースが見られます。
ケース②:肝機能障害や栄養障害による軽度の凝固異常
処方例:ケーワン錠5mg 1日1回~隔日投与
目的:PT延長や出血傾向の改善
血液検査でPT(プロトロンビン時間)が延長していたり、肝機能が低下していたりする場合に、様子を見る形で少量投与されることがあります。
ケース③:ワルファリン過量時の拮抗
処方例:ケーワン錠10mg~15mg 単回投与
目的:過度なINR上昇時の是正
ワルファリンの過量投与や、INRが想定以上に上昇した場合に、ケーワン錠を10~15mgほど単回で投与することがあります(注射薬で対応されることもあります)。
なぜ添付文書と実際の用量に差があるのか?
理由①:添付文書は“最大用量”に近い設定
添付文書にある20~50mgは「低プロトロンビン血症等に対する治療量」として記載されています。これは、ある程度症状が進行した場合に想定される用量であり、必ずしも全例に必要な量ではありません。予防目的や軽症例では、はるかに少ない用量で効果があるため、現場ではそれに準じた使い方をしています。
理由②:患者背景による個別対応
肝機能障害の程度、抗菌薬の種類と投与期間、食事摂取状況などにより必要なビタミンK量は変わります。血中INRやPT-INRをモニタリングしながら、個別に調整されるため、添付文書の用量そのまま使うケースはむしろ稀です。
理由③:保険請求・査定の観点
高用量(20mg以上)の連日投与となると、医療保険の審査上疑義照会が必要になることもあります。医師もそのことを理解しており、最小限必要な量を使う傾向があります。
ビタミンK製剤の過量投与の注意点は?
ビタミンKは比較的安全性が高いとされるビタミンですが、過剰投与によって以下のような注意点があります。
・ワルファリンの効果を著しく阻害し、血栓形成リスクを高める
・稀に過敏反応(皮疹など)
・新生児では高ビリルビン血症や溶血性貧血(主に旧型ビタミンK₃での報告)
したがって、必要最小限の投与が基本となります。
ケーワン錠の適正使用に向けて:薬剤師の関わり方
薬剤師としては以下のような点に注目しながら、医師と連携することが求められます。
・INRやPTなどの血液データの確認
・抗菌薬の投与歴・内容の把握
・脂溶性ビタミンの吸収に影響する病態の確認(脂肪制限食、胆道閉塞など)
・ワルファリンとの相互作用への注意喚起
また、「添付文書通りじゃない」から間違いではないという臨床の現場感覚も共有しながら、最適な投与量とタイミングの判断をサポートすることが重要です。
まとめ
ケーワン錠の添付文書に記載された「20~50mg分割投与」という用量は、特定の重篤な低プロトロンビン血症に対する治療量として記載されたものであり、実臨床ではそのような高用量での使用はまれです。
むしろ、多くのケースでは 5mg/日以下の少量使用 が主流であり、予防や軽度の凝固異常に対応しています。これは患者個々の状態に合わせた「適正使用」であり、添付文書を超えるものではありません。
薬剤師としては、添付文書を形式的に捉えるのではなく、実際の使用実態との整合性や医学的根拠を理解したうえでの運用が求められます。