2025年12月5日更新.2,679記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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ラコールとワーファリンを併用しちゃダメ?経腸栄養剤中のビタミンKの影響

経腸栄養剤中のビタミンKはワルファリンにどこまで影響する?

ワルファリン服用中の患者をみていると、
「納豆・青汁は禁止」「青野菜は食べ過ぎ注意」
といったビタミンKの話題は頻出です。

そこに経腸栄養剤が絡んでくると、

「ラコールにはビタミンKが入っているからワルファリンと相性が悪いのでは?」
「NFって“ノン・フィトナジオン(ビタミンK無し)”って意味じゃないの?」
「経腸栄養剤を始めたらINRが下がった、これって全部ビタミンKのせい?」

という疑問が出てきます。

実際のところ、現在の半消化態栄養剤に含まれるビタミンK量は、ワルファリン療法を破綻させるほどではないと考えられています。
ただし、「開始・中止・製品変更のとき」にはINRが変動しうるため、薬剤師によるモニタリングと説明が重要です。

・ラコールがラコールNFになった経緯
・経腸栄養剤中のビタミンKとワルファリンの理論的な関係
・現在主流の経腸栄養剤のビタミンK含有量と、その臨床的な評価
・実務で薬剤師が押さえておきたいポイント

を勉強していきます。

ラコール→ラコールNFになった経緯

NFは「Non-Phytomenadione」ではなく「New Formula」

まずよくある誤解から。

ラコールNFの “NF” は “New Formula(新処方)” の略であり、
“Non-Phytomenadione(ビタミンK無し)” ではありません。

栄養剤とワルファリンの相互作用が話題になる中で、「NF=ビタミンK除去版」と誤解されがちですが、実際には、
・流動性・味・浸透圧・微量栄養素バランスの見直し
・下痢や嘔気などの副作用を減らす目的の改良
といった処方全体のアップデートを行ったことを示す名称です。

旧ラコールは、ビタミンK含量が比較的多かったことから、
ワルファリン患者に使用する際の“不安” が長らく指摘されていました。

これは「危険」という意味ではなく、
“製品変更時にINRが変動しやすい” → 管理しにくい
という問題です。

そのため、NF化を「ビタミンK無添加化」と誤解する声が生まれました。
実際にはそこまで極端な変更ではないものの、NFになって、
結果として、ビタミンK供給量が“過剰にならない設計”へ調整された
というのが、臨床的に妥当な解釈です。

経腸栄養剤中のビタミンKとワルファリンの関係

ワルファリンの作用機序とビタミンK
ワルファリンは、ビタミンK依存性凝固因子(II・VII・IX・X)およびProtein C/Sの肝臓での活性化に必要な、ビタミンKエポキシド還元酵素を阻害することで、抗凝固作用を示します。

つまり、

ビタミンKの摂取量が増えると、ワルファリンの効果は弱まりやすい
→ INRが下がる方向に働く

このため、ビタミンKを豊富に含む食品(納豆、緑黄色野菜、青汁など)は、摂取量の急な変化が禁忌に近い扱いを受けます。

経腸栄養剤のビタミンKは「大量」ではない
一方、経腸栄養剤は
・食事がとれない・摂取量が安定しない患者に
・必要な栄養素を「標準的な量」で、バランス良く供給する
ことを目的として設計されています。

ビタミンKも、欠乏による出血傾向や骨代謝への悪影響を防ぐために必要な量が添加されているに過ぎません。

多くの半消化態栄養剤では、
・1日必要量(成人でおおよそ100~150µg程度)をカバーするかどうか
・あるいはやや少なめ~同程度
くらいの設計になっており、「納豆を毎日たっぷり食べる」といったレベルには到底及びません。

現在の主な経腸栄養剤のビタミンK含有量とその評価

※細かい数値は製品ごとに異なりますが、ここでは代表的な傾向と考え方を示します(具体的な値は最新の添付文書・インタビューフォームで確認を)。

半消化態栄養剤(ラコールNFなど)
ラコールNFをはじめとする半消化態栄養剤は、
・1kcalあたりのビタミンK含有量は数十ng~0.1µg前後
・1日800~1500kcal程度使用して、ようやく1日の推奨量前後
という設計が多く、「極端に多い」わけではありません。

この程度のビタミンK量では、
・ワルファリン服用患者でも、一定量を継続摂取している限り大きな問題は起こりにくい
・むしろ、急に栄養剤を中止・変更したときにINRが変動する
という見方が一般的です。

逆に、ビタミンKをほとんど含まない設計の栄養剤もあります。
(例としてエネーボはビタミンK含量が極めて少ない設計で知られています。)

この場合、
それまで半消化態栄養剤+食事である程度ビタミンKを摂取していた患者が
他の栄養剤中心の食事に切り替わる
と、

体内のビタミンK供給が減少 → ワルファリンが効きやすくなる → INRが上昇

という方向の変化が起こり得ます。

「経腸栄養+普通の食事」の場合
経腸栄養を併用しながら、ある程度普通の食事もとっている患者では、
・食事由来のビタミンK
・栄養剤由来のビタミンK

の両方が混在します。
このとき重要なのは、トータルとしての摂取パターンが安定しているかどうかです。

「ビタミンK量そのもの」より「変化」がINRに響く

ワルファリン療法のキモは「一定のビタミンK摂取」
ガイドライン・レビューなどでも、

ワルファリン服用中は「ビタミンKをゼロにする」のではなく、「毎日ほぼ同じ量を摂る」ことが大事

と繰り返し述べられています。

経腸栄養剤についても同様で、

ラコールNFを毎日800kcal続けている
→ それに見合ったワルファリン用量が決まれば、その後は栄養剤を急に増減しない限り大きな問題は起きにくい

一方で、
・ラコールNFを突然中止して、ビタミンKの少ない栄養剤に切り替えた
・食事がほぼ経腸栄養だけになった/逆に普通食を再開した
といった摂取パターンの変化が、INRの大きな変動要因になります。

「ラコールNFだから危ない」ではなく「変更が危ない」

よくある誤解は、
「ビタミンKを含む栄養剤=ワルファリンに禁忌」
という考え方です。

実際には、
・ラコールNF自体のビタミンK量は、標準的な食事に含まれる量の範囲内
・ワルファリンを服用していても、一定量を摂取し続けるなら十分にコントロール可能

むしろ、
・ラコールNF→エネーボ
・ラコールNF 800kcal→1500kcalに増量
・経腸栄養をやめて普通食へ完全移行

などの「変化」のタイミングこそが、INR監視のポイントになります。

薬剤師が押さえておきたい実務ポイント

経腸栄養剤の名前と量を薬歴に必ず残す

ワルファリン服用患者では、栄養剤の種類・1日使用量・投与期間は重要な情報です。
・どの製品を
・1日何本/何袋
・どれくらいの期間続けているのか
を薬歴に記録しておくと、

・INR変動時に「何が変わったのか」を遡って確認できる
・医師に対して栄養剤変更の影響を提案しやすくなる

といったメリットがあります。

変更・開始・中止のタイミングでINR測定を促す

次のような場面では、積極的に「INRフォローが必要」であることを提案すべきです。

・ラコールNFを新規開始する/増量する/中止する
・半消化態栄養剤から成分栄養剤(ビタミンKほぼ無し)へ変更
・在宅→施設・病院など、栄養剤のラインナップが変わる場面

患者・家族には、

「お薬の効き目を安定させるために、食事や栄養剤を変えたときには、念のため血液検査(INR)を早めに1回確認してもらうと安心ですよ」

と説明しておくと良いでしょう。

「ビタミンKだからダメ」ではなく「急な変化は危険」と伝える

患者から、
「ラコールにはビタミンKが入っているから、ワルファリンと一緒だと危ないんですか?」
と聞かれたときは、次のように整理すると理解してもらいやすくなります。

・ラコールNFのビタミンKは、「普通の食事に含まれる範囲の量」
・いけないのは“ゼロから一気に増える・急にゼロになる”こと
・医師・栄養士が決めた量を、毎日同じくらい使っている限りは大きな問題にはなりにくい
・ただし、栄養剤を変えたときにはワルファリンの効き目も変わることがあるので、INRを測ってもらう

というメッセージにしてあげるのがおすすめです。

まとめ:ラコールNF時代の「ビタミンKとワルファリン」の考え方

最後に、ポイントを整理します。

・ラコールNFの「NF」はNew Formulaであり、ビタミンK無添加を意味しない。
・現在の半消化態経腸栄養剤に含まれるビタミンK量は、1日の推奨摂取量を大きく超えるほどではなく、一定量を継続摂取している限り、ワルファリン療法を破綻させるレベルではない。
・問題になるのは「量そのもの」ではなく、栄養剤の 開始・中止・製品変更・大幅な増減 といった “変化” のタイミング。
・成分栄養剤のようにビタミンKがほとんど含まれない製品もあり、半消化態→成分栄養剤 への切り替えでは、INR上昇(ワルファリン過効) に注意。

薬剤師は、
・栄養剤の種類と量を薬歴に記録する
・変更時にはINR測定を医師に提案する
・患者には「ビタミンKをゼロにするのではなく、一定に保つことが大事」と説明する

ワルファリンと経腸栄養剤の関係は、
「この製品はダメ・あの製品はOK」という単純な話ではなく、
“ビタミンKを含む栄養環境がどう変化したか” を追いかける仕事
と言い換えることができます。

ラコールNFという「新処方」の時代にこそ、
薬剤師は “ビタミンK=悪者” というステレオタイプから一歩進んで、
栄養と抗凝固療法をつなぐ役割 を担っていきたいところです。

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