2025年8月8日更新.2,569記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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薬のせいで赤ちゃんに異常?先天異常と薬の関係

先天異常と薬の関係を冷静に考えるために

もし自分の赤ちゃんに生まれつきの異常があったら――
そして、妊娠中に薬を飲んでいたとしたら、きっと多くの方が「薬のせいではないか?」と疑ってしまうことでしょう。

それは決して不自然な感情ではありません。
大切な命に起きた出来事に、理由を求めたくなるのは人としてごく自然な反応です。

しかし実際には、妊娠中の薬の服用が「赤ちゃんの先天異常の原因になるケース」は非常にまれであることが、多くの疫学研究からわかっています。

先天異常とは?

先天異常(congenital anomalies)とは、出生時あるいはその後に判明する、身体の構造や機能、代謝などの異常のことです。

大きく分けて以下のようなタイプがあります:

・形態異常(外から見てわかる形の異常:心臓、四肢、口唇口蓋裂など)
・機能異常(代謝異常や感覚障害など)
・知的発達や行動の異常(発達障害や学習障害など)

発生頻度は?

実は、先天異常は珍しいものではありません。

・出生時に確認される明らかな異常:約1~3%
・その後にわかるものを含めると:約3~5%

つまり、100人の赤ちゃんのうち3~5人には、何らかの先天的な異常があるということになります。

その原因は薬?それとも…

赤ちゃんに異常があったとき、「何が原因だったのか」を知りたいと思うのは当然です。
しかし、先天異常の多くは“原因が特定できない”ことのほうが多いのです。

原因の内訳(おおよその目安)
・不明(65~75%):単一の原因が特定できない。偶発的な遺伝的要因などが関与している可能性。
・遺伝要因(約15~25%)染色体異常(例:ダウン症)、一部の遺伝病など
・環境要因(約5~10%)母体の病気や感染症、薬剤、放射線など

その中でも「薬剤」が原因とされるケースは、全体の1%未満とされています。

薬による先天異常リスクは本当にあるのか?

答えは「一部の薬にはあるが、多くの薬にはない」です。

◆一般的な医薬品と先天異常の関係:
現在使われているほとんどの医薬品は、妊娠中の使用によって先天異常を大きく増加させることはないとされています。
なぜなら、製薬会社も行政も、安全性に関するデータが不十分な薬については妊婦への使用を推奨しないよう、添付文書などで厳しく制限しているからです。

一方で、明らかに催奇形性(先天異常のリスク)を持つ薬剤も存在します。

◆有名な例:サリドマイド(現在は使用制限)
1960年代に起きた「サリドマイド事件」では、つわり薬として使われていたこの薬によって、多くの赤ちゃんに四肢短縮症などの重い先天異常が確認されました。
この事件をきっかけに、「妊娠中の薬の安全性評価」が世界的に強化されるようになりました。

妊娠中に薬を飲んだことが不安なとき

「妊娠していることに気づかずに薬を飲んでしまった」
「持病があってどうしても薬をやめられない」

そんなケースも多くあります。ここで大切なのは、「飲んだ薬が本当に危険だったのかどうか」を事実に基づいて判断することです。

◆判断材料として知っておきたいポイント
・薬の種類:安全性の高い薬か、妊娠中の使用が禁忌とされている薬か。
・服用した時期:妊娠のどの段階で薬を使用したか(週数によってリスクは異なる)。
・量と期間:一度だけか、継続的に服用したか。

妊娠週数と先天異常への影響の目安

妊娠週数発育段階薬剤の影響
0~2週着床前期「全か無かの法則」:影響があれば流産、なければ発育継続
3~8週器官形成期最も重要な時期:催奇形性のリスクが最も高い
9週以降成長・機能発達期機能的な異常や成長への影響のリスクが中心

このように、妊娠のどの時期にどの薬をどの程度使ったかによって、リスクの大きさはまったく異なります。

医療者が伝えたいこと:思い込みではなく相談を

私たち医療従事者が強調したいのは、「一人で不安を抱え込まないでほしい」ということです。

薬剤師や医師、そして「妊娠と薬情報センター(Teratology Information Service, TIS)」など、薬の安全性に関する情報を提供してくれる機関が存在します。

◆相談できるところ
・主治医・産婦人科医
・かかりつけ薬剤師
・国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」
(https://www.ncchd.go.jp/kusuri/)

これらの専門機関では、信頼できる根拠に基づいて評価された情報をもとに、個別の状況に応じたアドバイスを受けることができます。

最後に:赤ちゃんの命に向き合うということ

赤ちゃんに何か異常があったとき、「もしかしてあの薬のせいだったのでは」と自分を責める妊婦さんが少なくありません。
しかし、実際には大半の先天異常は原因が特定できず、薬との因果関係は証明されないことがほとんどです。

私たちは、過去を悔やむよりも、今できる正しい行動をとることが何よりも大切だと考えます。

・妊娠中の薬は自己判断せず、必ず医師・薬剤師に相談する
・不安があるときは「情報」を探すのではなく、「信頼できる人」に相談する
・何より、妊婦さん自身の身体と心を大切にする

赤ちゃんの健康はもちろん大事ですが、それと同じくらい、お母さん自身の健康と安心も大切なのです。

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