2026年1月10日更新.2,714記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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歯科医は入れ歯安定剤が嫌い?

歯科医は入れ歯安定剤が嫌い?

「歯医者さんは入れ歯安定剤を嫌うって聞いた」
「安定剤を使っていると怒られるらしい」

薬局や介護の現場で、こうした話を耳にしたことがある人は少なくないでしょう。
入れ歯安定剤はドラッグストアでも簡単に購入でき、高齢者を中心に使用経験者も多い製品です。一方で、「歯科医は安定剤が嫌い」という、半ば都市伝説のような言説が広く流布しています。

では実際のところ、
歯科医は本当に入れ歯安定剤を嫌っているのでしょうか?

結論から言うと、この問いに対する答えは
「半分は本当で、半分は誤解」
です。

・なぜ「歯科医は入れ歯安定剤が嫌い」と言われるようになったのか
・歯科医が問題視している“本当のポイント”
・入れ歯安定剤の医学的・臨床的な位置づけ
・薬剤師が担える重要な橋渡しの役割

について、勉強していきます。

入れ歯安定剤とは何か ― まず基本を整理する

入れ歯安定剤は、義歯(入れ歯)と歯ぐきの間に用いることで、

・吸着力を高める
・ズレや浮き上がりを抑える
・食事や会話時の不安を軽減する

ことを目的とした補助製品です。

重要なのは、
入れ歯安定剤は「治療器具」ではない
という点です。

・入れ歯を修理するものではない
・噛み合わせを改善するものではない
・歯ぐきの形を変えるものでもない

あくまで「一時的・補助的な役割」を担う存在です。

なぜ「歯科医は入れ歯安定剤が嫌い」と言われるのか

この言説が広まった背景には、いくつかの理由があります。

理由① 合っていない入れ歯を“隠してしまう”から
歯科医にとって最大の懸念点は、ここにあります。

本来、入れ歯は、
・歯ぐき(顎堤)の形
・噛み合わせ
・吸着・安定性

を細かく評価しながら、
調整・修理・作り直しによって適合性を保つ医療器具です。

ところが入れ歯安定剤を使うと、
・浮いている
・ズレている
・合っていない

といった問題が、一時的に分からなくなることがあります。

その結果、
・歯ぐきに過剰な圧がかかる
・顎堤の吸収が進む
・粘膜の傷や炎症が慢性化する

といった問題が、見えないところで進行する可能性があります。

歯科医の感覚としては、

「壊れている車をガムテープで固定して走り続けている」

ような状態に近い、と表現されることもあります。

理由② 使いすぎによる口腔内トラブルが多い
歯科医が実際に診察室で目にするのは、
「理想的な使い方」ではなく「問題のある使い方」です。

例えば、
・安定剤を大量に使用
・毎日使用し続けている
・外さずに就寝
・洗浄が不十分

といったケースは、決して珍しくありません。

その結果、
・粘膜炎
・口内炎
・義歯性口内炎
・カンジダ性口内炎

などが生じ、
「入れ歯が合わない」「歯ぐきが痛い」と訴えて受診する患者が現れます。

歯科医から見ると、

「問題の原因は安定剤の使い方なのに、
入れ歯そのものが悪者にされている」

という状況になりがちです。

理由③ 診断・調整の妨げになる
歯科医は入れ歯の調整時、
・どこに圧がかかっているか
・どこがズレているか
・痛みの原因が何か

を、非常に繊細に評価します。

しかし、安定剤が付着していると、
・本来の適合状態が分からない
・圧の分布が変わってしまう
・問題点が見えにくくなる

という問題が生じます。

そのため歯科医の中には、
「安定剤は診断の邪魔になる」
という感覚を持つ人も少なくありません。

理由④ 昔の歯科教育の影響
これは世代差の影響も大きいポイントです。

かつての歯科教育では、
「良い入れ歯は安定剤が不要」
「安定剤は技術不足の象徴」
と教えられていた時代がありました。

その価値観のまま臨床を続けている歯科医にとっては、
入れ歯安定剤=好ましくないもの
という印象が根強く残っている場合があります。

では、歯科医は本当に入れ歯安定剤が嫌いなのか?

答えは、NOです。

正確には、

歯科医が嫌っているのは「入れ歯安定剤そのもの」ではなく、
「安定剤に頼り続ける使い方」
です。

現在の歯科医療における考え方

近年の歯科医療では、入れ歯安定剤に対する考え方も変化しています。

現在の主流に近いスタンス
・一時的・補助的な使用は容認
・QOL向上のための選択肢として認める
・ただし常用は問題視する

特に、
・新しい入れ歯に慣れるまで
・外出や会食など、心理的安心感が必要な場面
・調整・作り直しまでの「つなぎ」

といった使用は、
現実的で合理的と考える歯科医も増えています。

歯科医が「嫌がらない」使い方

歯科医が比較的納得しやすいのは、次のようなケースです。

・使用が一時的・限定的
・痛みや傷がない
・歯科受診を前提としている
・量を最小限にしている

つまり、

「調整の代わりに使っていない」

ことが重要です。

歯科医が「嫌がる」典型的な使い方

一方、次のような使い方は、歯科医の強い懸念を招きます。

・毎日・長期間使用している
・痛みがあるのに使い続けている
・安定剤がないと噛めない
・歯科受診を避けるために使っている

この場合、歯科医は
「安定剤が悪い」ではなく「状態が危険」
と判断しています。

薬剤師が果たせる重要な役割

ここで重要になるのが、薬剤師の立ち位置です。

薬局は、
・入れ歯安定剤を購入できる場所
・患者が歯科医より先に相談する場所
でもあります。

薬剤師が伝えるべき軸

「入れ歯安定剤は“治療の代わり”ではなく“応急的な補助”」

この一言を伝えられるかどうかで、
・患者の誤解
・歯科医との認識のズレ
を大きく減らすことができます。

患者さんへの説明で使える言い回し

「歯医者さんが安定剤を嫌がることがあるのは、
安定剤そのものが悪いからではなく、
入れ歯の問題が見えなくなるのを心配しているからなんです。」

「毎日使わないといけない状態なら、
一度歯医者さんで調整してもらうのがおすすめですよ。」

介護・高齢者の視点での注意点

高齢者や要介護者では、
・つけすぎによる誤嚥
・清掃不十分による口腔内感染
・認知機能低下による誤使用

といったリスクもあります。

介護者や家族への説明も、
薬剤師が関われる重要なポイントです。

まとめ

・「歯科医は入れ歯安定剤が嫌い」という話には背景がある
・嫌われているのは
 安定剤そのものではなく、使い方
・一時的・補助的な使用は、現在は容認される傾向
・常用は「入れ歯が合っていないサイン」
・薬剤師は、歯科医と患者をつなぐ調整役になれる

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出身大学:ケツメイシと同じ
生息地:雪国
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