2026年1月11日更新.2,715記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

記事

マラソン前に鎮痛薬を飲んでもいい?

マラソン前に鎮痛薬を飲んでもいい?―「ドーピング」と「安全性」の話―

マラソン大会のスタート前、
ロキソニンやイブプロフェンを飲んでからスタートラインに立つ――
そんな話を耳にしたことはないでしょうか。

「膝に少し違和感がある」
「後半で痛くなるのが怖い」
「完走だけはしたい」

こうした理由から、レース前に鎮痛薬を“予防的”に飲むランナーは、実は少なくありません。

では、この行為は

・ドーピングに当たるのか?
・身体にとって本当に安全なのか?

医学的・薬学的に勉強していきます。

結論を先に:ドーピングではないが、推奨もされない

まず最も多い疑問から。

ドーピング違反になる?
→原則として、なりません。

アセトアミノフェン、ロキソニン(ロキソプロフェン)、イブプロフェンなどの
一般的な鎮痛薬(NSAIDs含む)は禁止物質ではありません。

国際的な基準を定める
世界アンチ・ドーピング機構(WADA)や、
日本の
日本アンチ・ドーピング機構(JADA)
の禁止表にも、これらの薬は含まれていません。

つまり

「鎮痛薬=ドーピング」ではない

これは事実です。

それでも問題視される理由は「安全性」

ではなぜ、医療者の多くが
「マラソン前の鎮痛薬は勧めない」
と言うのでしょうか。

理由は単純で、マラソンという競技特性と、鎮痛薬の作用がかみ合わないからです。

マラソン中、体の中で起きていること

フルマラソンでは、走っている間に次のような変化が起こります。
・発汗による脱水
・腎臓への血流低下
・消化管(胃・腸)の血流低下
・電解質バランスの変動

これは健康な人でも避けられない生理的反応です。

ここに鎮痛薬が加わると?
特にNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、
・腎血流を維持するプロスタグランジンを抑制
・胃粘膜保護作用も抑制
します。

その結果、
・急性腎障害
・胃腸障害(腹痛・下痢・出血)
・低ナトリウム血症の悪化
といったリスクが、レース中に一気に高まるのです。

「少量だから大丈夫」は通用しない

よくある声に、こんなものがあります。

「1錠だけだから」
「普段も飲んでる薬だし」
「みんな飲んでるから」

しかしマラソン中の体は、
日常生活とはまったく別の環境に置かれています。

✔ 脱水
✔ 血流低下
✔ 極度の身体ストレス

この状態では、
“いつも安全な薬”が、いつも通りに安全とは限りません。

痛みを消す=ケガのサインを消す

もう一つ重要なのが、痛みの意味です。

痛みは

「これ以上負荷をかけるな」という身体からの警告

鎮痛薬でそれを消すと、
・フォームが崩れる
・無理な着地を続ける
・疲労骨折・腱障害を悪化させる

といったことが起こりやすくなります。

実際、
疲労骨折を起こしたランナーの中には、レース前後で鎮痛薬を常用していた人が多い
という報告もあります。

実際、どれくらいの人が飲んでいる?

調査によって差はありますが、
・市民ランナー:20〜50%前後
・エリート選手:10〜20%前後

とされることが多く、
「少数派」とは言えません。

特に市民ランナーでは、
・途中棄権したくない
・参加費が高い
・応援に来てもらっている

といった心理的要因も重なり、
“お守り代わり”に飲む人が多いのが実情です。

「飲んでもいいケース」はある?

では、絶対にダメなのか?
というと、話はそこまで単純ではありません。

医学的に考えられる例
・医師の指示で
・持病の治療として
・用量・タイミングを厳密に管理

されている場合には、個別判断になります。

ただしこれは
「自己判断で予防的に飲む」
こととは、まったく別の話です。

どうしても不安な人はどうする?

薬に頼らず、現実的にできる対策はあります。

レース前
・テーピング・サポーター
・フォームの見直し
・スタートから抑えめのペース設定

レース中
・早めの給水
・違和感が出たらペースダウン
・無理なら勇気あるDNF(途中棄権)

レース後
・アイシング
・必要に応じて鎮痛薬(ここはOK)

薬剤師・医療者として伝えたい一言

要点を、あえて一文にまとめるなら――

「鎮痛薬は“走る力を上げる薬”ではなく、“危険を感じにくくする薬”」

です。

マラソン前の鎮痛薬は
・ドーピングではない
・しかし、安全とは限らない

この2つは、同時に成立します。

まとめ

マラソン前に鎮痛薬を飲んでもドーピング違反ではない

しかし
・腎障害
・胃腸障害
・ケガの悪化
といった医学的リスクが高い

予防目的での使用は推奨されない

痛みは「止まれ」というサイン

本当に大切なのは
走り切ることより、走り続けられる体

コメント


カテゴリ

検索

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ
マンガでわかる!薬剤師がm3.comに登録するメリット | m3.com

プロフィール

yakuzaic
名前:yakuzaic
職業:薬剤師
出身大学:ケツメイシと同じ
生息地:雪国
著書: 薬局ですぐに役立つ薬剤一覧ポケットブック
薬剤一覧ポケットブックの表紙

SNS:X/Twitter
プライバシーポリシー

最新の記事


人気の記事