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神経障害性疼痛は治らない痛み?
公開. 更新. 投稿者:痛み/鎮痛薬.この記事は約4分16秒で読めます.
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神経痛は治らない?─神経障害性疼痛と共に生きる

「薬を飲んでも痛みが引かない」
「治ると言われたのに、ずっとしびれている」
「もう一生この痛みと付き合っていくしかないのか…」
神経痛、医学的には「神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)」は、こうした患者さんの“あきらめ”や“孤独”と向き合うことになる慢性痛のひとつです。
神経痛とは─「治らない痛み」の正体
神経痛(神経障害性疼痛)は、神経そのものが損傷したり、過敏になったりすることで生じる特殊な痛みです。
皮膚や筋肉のように目に見える傷がなくても、体の中の神経が誤作動を起こし、痛みのスイッチが入りっぱなしの状態になっているのです。
この痛みは、次のような特徴を持っています。
・ピリピリ、ビリビリとした電気のような痛み
・チクチクする灼熱感、ヒリヒリ感
・軽く触れるだけで強く痛む(アロディニア)
・しびれ、感覚の鈍さや異常な過敏さ
こうした症状は、慢性的に続きやすく、完治が難しいものです。
神経障害性疼痛の原因と分類
神経障害性疼痛は、原因となる場所によって次のように分けられます。
●末梢性神経障害性疼痛
体の末端の神経が損傷を受けて起こる痛み。
・糖尿病性神経障害(足のしびれ)
・帯状疱疹後神経痛(皮膚が治っても痛い)
・坐骨神経痛、三叉神経痛など
●中枢性神経障害性疼痛
脳や脊髄といった中枢神経が傷ついて起こる痛み。
・脳卒中後の痛み
・脊髄損傷後の痛み
・パーキンソン病や多発性硬化症の合併痛 など
これらはいずれも、神経がもとどおりになることが難しく、痛みが長期化する可能性が高いのです。
「神経痛は治るのか?」─答えは、簡単ではありません
残念ながら、神経障害性疼痛は「根本から治す」ことが難しい痛みです。
なぜなら、「神経の損傷」や「過敏な回路」は、時間が経っても元には戻らないことが多いからです。
もちろん、薬や生活習慣の改善で、痛みを和らげたり、軽く保つことは可能です。
しかし、「薬を飲んでも痛みがゼロにならない」「治らないことへの不安や怒り」を抱える患者さんも少なくありません。
神経痛に使われる薬─“感じにくくする”ことが目標
神経痛に効く薬は、ロキソニンやカロナールといった一般的な鎮痛薬ではなく、神経の興奮を抑える薬です。
●プレガバリン(リリカ)
・神経の信号をブロックして痛みをやわらげる
・「神経痛の主役」ともいえる薬
・めまい・ふらつき・眠気に注意
・副作用による転倒や交通事故の報告あり
●デュロキセチン(サインバルタ)
・抗うつ薬として開発された薬
・神経の過敏性と感情面のストレスを同時に和らげる
・慢性痛と気分の低下がセットのときに有効
●その他の薬
・ミロガバリン(タリージェ)…リリカより副作用が軽い新薬
・アミトリプチリン…古くからある三環系抗うつ薬
・トラマドール…やや麻薬的な成分も含む中間的な鎮痛薬
これらの薬の目的は、「痛みの信号を和らげる=感覚を少し鈍らせる」ことにあります。
感覚を鈍らせるということ─「痛みを消す」とは違う
ここが重要なポイントです。
痛みを完全に消すということは、感覚そのものを消すということ。
痛みはつらいものですが、私たちに「異常」を教えてくれる大切な信号でもあります。
痛みをまったく感じない状態(無痛症)は、ケガや病気に気づけず、逆に命にかかわることもあります。
ですから、薬で「まったく痛みを消してしまう」ことは理想ではないのです。
少し感じるけれど、日常生活に支障がないくらいに保つ。
それが現実的で、安全な治療目標です。
「薬が効かない」と感じたら…
「リリカを飲んだけど効かない」
「薬を飲んでるのにまだ痛い」
こうした声は本当によく聞きます。
でも、そう思う方にこそ知ってほしいのは、薬は“痛みをゼロにするため”ではなく、“痛みの質と程度を変えるため”に処方されている、ということです。
薬が効いても「チクチクする感じは残っている」こともありますし、「痛みの回数が減っただけ」ということもあります。それでも、それが回復への一歩です。
神経痛とどう付き合うか─“痛みと共に生きる”という選択肢
神経障害性疼痛(=神経痛)は、完全には治らないかもしれない痛みです。
でも、それは「苦しみが永遠に続く」という意味ではありません。
・痛みを理解してくれる人がいること
・自分に合う薬が見つかること
・痛みをやわらげる工夫を重ねること
・痛みとうまく付き合える日常を作っていくこと
これらの積み重ねで、痛みのある人生でも、自分らしく暮らせるようになるのです。
薬剤師から伝えたいこと
私は薬剤師として、「神経痛の薬を出されたけど、効かないからやめた」「副作用が怖くて飲んでない」という患者さんを何人も見てきました。
そういう方に伝えたいのは、
「治らない痛み」を受け入れることは、あきらめではなく、前向きな選択である
ということです。
薬は、痛みをゼロにするための“魔法”ではありません。
けれど、痛みと共により快適に生きるための“道具”にはなります。
「どうせ治らない」と一人で抱え込まず、医師や薬剤師、看護師など、周囲の人と一緒に、“痛みとの付き合い方”を探していくことが大切です。
まとめ─“完全に治す”より、“一緒に歩く”
・神経痛=神経障害性疼痛は、治りにくい慢性の痛み
・薬の目標は「痛みをゼロにする」ことではなく「生活に支障がない程度に和らげる」こと
・感覚を鈍らせる薬には副作用もあるが、うまく使えば生活が楽になる
・痛みと共に生きることは、決して後ろ向きではない
痛みがあるからこそ、優しくなれることもある。
痛みを知っているからこそ、人のつらさに気づけることもある。
あなたのその痛みも、意味のある“感覚”です。
焦らず、諦めず、「共に生きる道」を探していきましょう。