2025年7月30日更新.2,552記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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神経障害性疼痛は治らない痛み?

神経痛は治らない?─神経障害性疼痛と共に生きる

「薬を飲んでも痛みが引かない」
「治ると言われたのに、ずっとしびれている」
「もう一生この痛みと付き合っていくしかないのか…」

神経痛、医学的には「神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)」は、こうした患者さんの“あきらめ”や“孤独”と向き合うことになる慢性痛のひとつです。

神経痛とは─「治らない痛み」の正体

神経痛(神経障害性疼痛)は、神経そのものが損傷したり、過敏になったりすることで生じる特殊な痛みです。

皮膚や筋肉のように目に見える傷がなくても、体の中の神経が誤作動を起こし、痛みのスイッチが入りっぱなしの状態になっているのです。

この痛みは、次のような特徴を持っています。

・ピリピリ、ビリビリとした電気のような痛み
・チクチクする灼熱感、ヒリヒリ感
・軽く触れるだけで強く痛む(アロディニア)
・しびれ、感覚の鈍さや異常な過敏さ

こうした症状は、慢性的に続きやすく、完治が難しいものです。

神経障害性疼痛の原因と分類

神経障害性疼痛は、原因となる場所によって次のように分けられます。

●末梢性神経障害性疼痛
体の末端の神経が損傷を受けて起こる痛み。

・糖尿病性神経障害(足のしびれ)
・帯状疱疹後神経痛(皮膚が治っても痛い)
・坐骨神経痛、三叉神経痛など

●中枢性神経障害性疼痛
脳や脊髄といった中枢神経が傷ついて起こる痛み。

・脳卒中後の痛み
・脊髄損傷後の痛み
・パーキンソン病や多発性硬化症の合併痛 など

これらはいずれも、神経がもとどおりになることが難しく、痛みが長期化する可能性が高いのです。

「神経痛は治るのか?」─答えは、簡単ではありません

残念ながら、神経障害性疼痛は「根本から治す」ことが難しい痛みです。

なぜなら、「神経の損傷」や「過敏な回路」は、時間が経っても元には戻らないことが多いからです。

もちろん、薬や生活習慣の改善で、痛みを和らげたり、軽く保つことは可能です。

しかし、「薬を飲んでも痛みがゼロにならない」「治らないことへの不安や怒り」を抱える患者さんも少なくありません。

神経痛に使われる薬─“感じにくくする”ことが目標

神経痛に効く薬は、ロキソニンやカロナールといった一般的な鎮痛薬ではなく、神経の興奮を抑える薬です。

●プレガバリン(リリカ)
・神経の信号をブロックして痛みをやわらげる
・「神経痛の主役」ともいえる薬
・めまい・ふらつき・眠気に注意
・副作用による転倒や交通事故の報告あり

●デュロキセチン(サインバルタ)
・抗うつ薬として開発された薬
・神経の過敏性と感情面のストレスを同時に和らげる
・慢性痛と気分の低下がセットのときに有効

●その他の薬
・ミロガバリン(タリージェ)…リリカより副作用が軽い新薬
・アミトリプチリン…古くからある三環系抗うつ薬
・トラマドール…やや麻薬的な成分も含む中間的な鎮痛薬

これらの薬の目的は、「痛みの信号を和らげる=感覚を少し鈍らせる」ことにあります。

感覚を鈍らせるということ─「痛みを消す」とは違う

ここが重要なポイントです。

痛みを完全に消すということは、感覚そのものを消すということ。

痛みはつらいものですが、私たちに「異常」を教えてくれる大切な信号でもあります。

痛みをまったく感じない状態(無痛症)は、ケガや病気に気づけず、逆に命にかかわることもあります。

ですから、薬で「まったく痛みを消してしまう」ことは理想ではないのです。

少し感じるけれど、日常生活に支障がないくらいに保つ。
それが現実的で、安全な治療目標です。

「薬が効かない」と感じたら…

「リリカを飲んだけど効かない」
「薬を飲んでるのにまだ痛い」

こうした声は本当によく聞きます。

でも、そう思う方にこそ知ってほしいのは、薬は“痛みをゼロにするため”ではなく、“痛みの質と程度を変えるため”に処方されている、ということです。

薬が効いても「チクチクする感じは残っている」こともありますし、「痛みの回数が減っただけ」ということもあります。それでも、それが回復への一歩です。

神経痛とどう付き合うか─“痛みと共に生きる”という選択肢

神経障害性疼痛(=神経痛)は、完全には治らないかもしれない痛みです。

でも、それは「苦しみが永遠に続く」という意味ではありません。

・痛みを理解してくれる人がいること
・自分に合う薬が見つかること
・痛みをやわらげる工夫を重ねること
・痛みとうまく付き合える日常を作っていくこと

これらの積み重ねで、痛みのある人生でも、自分らしく暮らせるようになるのです。

薬剤師から伝えたいこと

私は薬剤師として、「神経痛の薬を出されたけど、効かないからやめた」「副作用が怖くて飲んでない」という患者さんを何人も見てきました。

そういう方に伝えたいのは、

「治らない痛み」を受け入れることは、あきらめではなく、前向きな選択である

ということです。

薬は、痛みをゼロにするための“魔法”ではありません。
けれど、痛みと共により快適に生きるための“道具”にはなります。

「どうせ治らない」と一人で抱え込まず、医師や薬剤師、看護師など、周囲の人と一緒に、“痛みとの付き合い方”を探していくことが大切です。

まとめ─“完全に治す”より、“一緒に歩く”

・神経痛=神経障害性疼痛は、治りにくい慢性の痛み
・薬の目標は「痛みをゼロにする」ことではなく「生活に支障がない程度に和らげる」こと
・感覚を鈍らせる薬には副作用もあるが、うまく使えば生活が楽になる
・痛みと共に生きることは、決して後ろ向きではない

痛みがあるからこそ、優しくなれることもある。
痛みを知っているからこそ、人のつらさに気づけることもある。

あなたのその痛みも、意味のある“感覚”です。
焦らず、諦めず、「共に生きる道」を探していきましょう。

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名前:yakuzaic
職業:薬剤師
出身大学:ケツメイシと同じ
生息地:雪国
著書: 薬局ですぐに役立つ薬剤一覧ポケットブック薬局ですぐに役立つ薬剤一覧ポケットブックの表紙
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