2025年10月3日更新.2,640記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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ドーピング禁止物質一覧

▶主なドーピング禁止物質一覧

分類禁止される理由医薬品名
S1. 蛋白同化薬・いわゆる筋肉増強剤として、筋力の強化と筋肉量の増加によって運動能力を向上させ、同時に闘争心を高める目的で使用され、様々な投与方法で大量に使用されるため禁止。
・肝臓癌など致命的な有害作用が発生。脂質異常症、HDLコレステロールの低下、血圧上昇など心血管系障害の発症も示唆。
・女性では多毛、嗄声などの男性化や痤瘡が発現。
・男性では女性化乳房、無精子症、インポテンツが発現。
・ジルパテロール、ゼラノールは、主に動物に肥育ホルモンとして利用され、体重増加など成長促進作用を有するので禁止。
・選択的アンドロゲン受容体調節薬(SARMs)は、筋萎縮症の治療とアンドロゲン代替治療のために開発中。作用機序からドーピング物質とされている。
ダナゾール(ボンゾール)
メテノロン(プリモボラン、他)
クレンブテロール(スピロペント、他)
オシロドスタット(イスツリサ)
S2. ペプチドホルモン、成長因子、関連物質 および模倣物質・エリスロポエチン等は、赤血球生成促進因子であるため酸素運搬能が上昇し、持久力が必要な運動種目では運動能力の強化につながるため禁止。
絨毛性ゴナドトロピン(CG)及び黄体形成ホルモン(LH)等は、男子不妊症や男性の下垂体性性腺機能不全の治療に投与され、男性ホルモンの産生量を増加させるため、男性においてのみ禁止。
・コルチコトロピン類(ACTH)は副腎皮質を刺激し、血中の糖質コルチコイド、鉱質コルチコイドを上昇させ弱い男性ホルモンの分泌促進作用を有するため禁止。
・成長ホルモンは、脂肪組織におけるトリグリセリドの加水分解、肝臓でのグルコース排泄促進作用などを有するが、筋肉増強を期待する乱用はアレルギー症状や糖尿病を誘発し、大量投与で末端肥大症などの有害作用が発現するため禁止。
HIF活性化薬[ダプロデュスタット(ダーブロック)、モリデュスタット(マスーレッド)、ロキサデュスタット(エベレンゾ)、バダデュスタット(バフセオ)]
ゴナドトロピン(ゴナドトロピン、他)
GnRHアゴニスト[ブセレリン(スプレキュア、他)、ゴナドレリン(ヒポクライン、他)、ゴセレリン(ゾラデックス)、リュープロレリン(リュープリン、他)、ナファレリン(ナサニール、他)]
成長ホルモン[ソマプシタン(ソグルーヤ)、ソムアトロゴン(エヌジェンラ)、ソマトロピン(ジェノトロピン、他)]
グレリン様作用薬[アナモレリン(エドルミズ)]
線維芽細胞成長因子[トラフェルミン(フィブラストスプレー)]
インスリン様成長因子-1(ソマゾン、他)
S3. β₂作用薬・気管支拡張薬は、交感神経興奮作用、蛋白同化作用による筋組織量の増加を期待して使用されるため、常時使用禁止。 フェノテロール(ベロテック、他)
ホルモテロール(オーキシス*吸入は例外、他)
ヒゲナミン
インダカテロール(オンブレス、他)
オロダテロール(スピオルト)
プロカテロール(メプチン、他)
サルブタモール(サルタノール*吸入は例外、ベネトリン、他)
サルメテロール(セレベント*吸入は例外、他)
テルブタリン(ブリカニール、他)
トリメトキノール(イノリン、他)
ツロブテロール(ホクナリン、他)
ビランテロール(アノーロ*吸入は例外、他)
S4. ホルモン調節薬および代謝調節薬・アロマターゼ阻害薬、選択的エストロゲン受容体調節薬(SERMs)等は、乳癌治療薬、骨粗鬆症治療薬、排卵誘発剤として使われるが、抗エストロゲン作用を有するため禁止。
・ミオスタチン阻害薬は、筋肉の増強を抑制するミオスタチンを阻害することにより、筋力向上等が期待できるため禁止。
・インスリンは筋肉におけるグルコースの利用とアミノ酸の貯蔵を促進し、蛋白の合成を刺激し分解を抑制するため禁止。その他の糖尿病用薬は、インスリン分泌非促進系(ビグアナイド薬、チアゾリジン薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬)だけでなく、インスリン分泌促進系(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、テトラヒドロトリアジン系薬、SU薬、グリニド薬)は禁止されない。
・トリメタジジンは、心臓代謝の調節薬として禁止される。
抗エストロゲン薬・SERMs[バゼドキシフェン(ビビアント)、クロミフェン(クロミッド、他)、シクロフェニル(セキソビット)、フルベストラント(フェソロデックス)、ラロキシフェン(エビスタ、他)、タモキシフェン(ノルバデックス、他)、トレミフェン(フェアストン、他)]
アロマターゼ阻害薬[アナストロゾール(アリミデックス、他)、エキセメスタン(アロマシン、他)、レトロゾール(フェマーラ、他)]
インスリン
冠血管拡張薬[トリメタジジン(バスタレルF)]
S5. 利尿薬および隠蔽薬利尿薬が禁止される理由には、以下が考えられる。
①排出する尿量を増加させ、尿中に排泄する禁止薬物や代謝物の尿中濃度を下げて禁止物質の検出を逃れること。
②柔道、ボクシング、重量挙げなどの体重別種目で競技成績を有利に導くため、体水分の排泄を促して体重を急速に減量すること。
利尿薬[アセタゾラミド(ダイアモックス)、フロセミド(ラシックス、他)、インダパミド(ナトリックス、他)、スピロノラクトン(アルダクトンA、他)、チアジド系(フルイトラン、他)、トラセミド(ルプラック、他)、トリアムテレン(トリテレン)、トルバプタン(サムスカ)]
尿酸排泄促進薬[プロベネシド(ベネシッド)]
抗利尿ホルモン剤[デスモプレシン(ミニリンメルト、他)]
S6. 興奮薬・ 中枢神経系を刺激して敏捷性を高め、疲労感を低減して競争心を高める効果を有するが、疲労の限界に対する正常な判断力を失わせ、ときには競技相手に危害を与えかねないため禁止。
・ アンフェタミンは有害な中枢神経興奮作用をもち、オリンピック大会の自転車競技で本剤に起因する死亡事故が発生しているため禁止。
・ エフェドリンは中枢神経興奮作用をもち、大量投与で精神を高揚させ、血流を増加させるため禁止。
コカイン塩酸塩
リスデキサンフェタミン(ビバンセ)
メタンフェタミン(ヒロポン)
モダフィニル(モディオダール)
昇圧薬[エチレフリン(エホチール、他)]
エピネフリン(ボスミン、エピペン、他)
メクロフェノキサート(ルシドリール)
気管支拡張薬[メチルエフェドリン(メチエフ、他)、エフェドリン]
メチルフェニデート(リタリン、他)
ペモリン(ベタナミン)
プソイドエフェドリン(ディレグラ)
セレギリン(エフピー、他)
ストリキニーネ(ホミカエキス)
S7. 麻薬・ 麻薬は鎮痛、鎮静による精神・心理機能の向上とリラクゼーション、また、陶酔感、多幸感を期待して使用されるため禁止。
・ 副作用として、呼吸抑制、呼吸麻痺、依存性、血圧降下、ショック、めまい、眠気、嘔吐、虚脱、便秘、筋萎縮、視調節障害が見られる。
ブプレノルフィン(レペタン、ノルスパン、他)
フェンタニル(アブストラル、イーフェンバッカル、デュロテップMT、フェントス、ワンデュロパッチ、他)
ヒドロモルフォン(ナルラピド、ナルサス)
メサドン(メサペイン)
モルヒネ(オプソ、アンペック、MSコンチン、MSツワイスロン、モルペス、パシーフ、他)
オキシコドン(オキシコンチンTR、オキノーム、他)
ペンタゾシン(ソセゴン)
S8. カンナビノイド ・ 思考、知覚、気分を異常に変化させ、多幸感、高揚感を期待して使用されるため禁止。
・ 憂うつ感、被暗示性の増強、錯乱、幻覚を伴うことがある。選手が競技に対する不安や焦りから逃避する目的で嗜癖に陥る危険性がある。
大麻由来物質(ハシシュおよびマリファナ)および大麻製品、天然および合成テトラヒドロカンナビノール(THCs)、THCの効果を模倣する合成カンナビノイド 等
S9. 糖質コルチコイド ・ エネルギー代謝を活性化させ、競技力向上を狙って使用される。あるいは、陶酔感を期待して使用されるため禁止。
・ 炎症を抑える作用があるため、ケガをしていても競技を継続できてしまうことがあるので注意。
・ 感染の増悪、続発性副腎機能不全、消化性潰瘍が発現する。
コルチゾン(コートン、他)
デキサメタゾン(デカドロン、アフタゾロン、デキサルチン、他)
トリアムシノロンアセトニド(レダコート、アフタッチ、オルテクサー、他)
ヒドロコルチゾン(コートリル、テラ・コートリル、デスパコーワ、ヒノポロン、他)
ブデソニド(ゼンタコート、レクタブル、他)
プレドニゾロン
ベクロメタゾン(サルコートカプセル、他)
ベタメタゾン(リンデロン、他)
メチルプレドニゾロン(メドロール、他)

うっかりドーピング

2021年に行われた東京オリンピックに向けて、2009年度からスポーツファーマシストの認定制度も始まり、ドーピングに反対する「アンチ・ドーピング」の機運が高まった。

ドーピングと聞くと、運動能力を上げるために薬物を使う、つまり、意図して薬を使っているものだという思い込みがあるが、日本においては、意図せずにドーピングしてしまう「うっかりドーピング」の方が多い。風邪をひいて葛根湯を使ってドーピングに引っかかったり、脱毛症の薬でドーピングに引っかかったというスポーツ選手のニュースをたまに聞く。これらの意図しない、うっかりドーピングを防ぐためにも、薬剤師の役割は大きい。

ドーピング禁止物質をすべて覚えておく必要は無いが、聞かれたときに調べられるよう、情報源は把握しておこう。

薬剤師がドーピングの相談を受けたときに参考にすべき資料

ドーピングに関する国際機関としては、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)がある。
その下に日本アンチ・ドーピング機構(JADA)がある。
スポーツファーマシストはJADAに属する。

JADAのホームページから、禁止薬物の検索ができる「Global DRO」というページを確認することができる。
Global DRO

ステロイドとドーピング

スポーツ選手がドーピングで使うステロイドと、医療用のステロイドを混同して、ステロイドは危ないものというイメージを持っている人がいる。

ドーピングで使うステロイドはアナボリックステロイド(男性ホルモン作用タンパク同化ステロイド)のことで、筋肉増強作用がある。しかし、医療用の副腎皮質ステロイド=糖質コルチコイドもドーピング禁止物質に挙げられている。

蛋白同化ステロイドがドーピングとして禁止される理由は「筋肉量、筋力増加」「赤血球新生の増加」などであるが、糖質コルチコイドが禁止される理由は、中枢作用(興奮を高める、高揚感・陶酔感)や、代謝作用(糖質・蛋白質・脂質代謝などエネルギー代謝を活性化させる)といった理由からである。

糖質コルチコイドのうち、注射剤や経口剤はもちろん禁止であるが、外用剤については判断に迷うことがある。皮膚に塗るステロイド外用薬は禁止ではない。点眼薬や点鼻薬、吸入ステロイドも禁止ではない。しかし、経直腸投与の坐薬や経腸液は禁止である。注意すべきは、口内炎に用いられるアフタゾロンやアフタッチといった口腔内局所用のステロイドについても禁止されている点である。

市販薬でもステロイドを含む口内炎治療薬があるので販売時には注意が必要である。

利尿薬とドーピング

利尿剤もドーピングの禁止物質に指定されている。筋肉増強剤などのように直接ドーピングできるわけではなく、ドーピングで使用した薬物を利尿して隠ぺいする目的で使われる。

最近は降圧剤の配合薬に含まれているヒドロクロロチアジドが検出されるケースが多いという。患者自身も利尿薬を飲んでいるという自覚はなかったりする。

また、逆に尿量を減少させる作用があるデスモプレシンも、血漿増量物質として禁止物質の検出を隠蔽するために使用される。

漢方薬とドーピング

漢方薬は西洋薬に比べ、副作用が少なく、マイルドに働くというイメージから、ドーピングにはなりにくいという印象をもつスポーツ選手もいるが間違っている。軽い気持ちで葛根湯などを飲んでしまうと、ドーピングに引っかかる。

エフェドリンを含む麻黄(マオウ)、半夏(ハンゲ)、ストリキニーネを含むホミカ、またホルモン物質を含む海狗腎(カイクジン)、麝香(ジャコウ)、鹿茸(ロクジョウ)などの動物生薬はドーピングで引っかかる可能性がある。

構成生薬にいずれの記載がない場合でも、漢方(生薬)は、すべての含有物質が明らかになっているわけではない。したがって、その製品が禁止物質を含まないという保証はできないので、市販の漢方薬やサプリメントを使用するのは避けた方がよいだろう。

のど飴とドーピング

「南天のど飴」がドーピングになるということが一時期話題になった。原因物質は「ヒゲナミン」という成分である。ヒゲナミンにはβ₂刺激作用があり、気管支拡張作用があるので、呼吸が楽になる。

ヒゲナミンは植物のイボツツラフジの成分で、ヒゲナミンが含まれるとされる成分および生薬には以下のようなものがある。

・Norcoclaurine(ノルコクラウリン)・Demethylcoclaurine(デメチルコクラウリン)・Tinospora crispa(イボツツラフジ)・附子・丁子・細辛・南天実・呉茱萸

「ヒゲナミン」は、ゴシュユ(呉茱萸)、ブシ(附子)、 サイシン(細辛)、チョウジ(丁子)、 ナンテン(南天)などの生薬に含まれている。

南天のど飴は南天を含み、そのなかにヒゲナミンが含まれている。
浅田飴には、キキョウ根エキス、トコンエキス、マオウエキス、ニンジンエキス、カッコンエキス、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、クレゾールスルホン酸カリウム、セチルピリジニウム塩化物水和物を含む製品があり、これらは麻黄やメチルエフェドリンが含まれているので禁止薬物である。

しかし、龍角散ののどすっきり飴には、カミツレ、カリン等が含まれているが、禁止薬物は含まれていないので、使用可能である。

特定競技において禁止される物質

ドーピング禁止物質のなかには、すべての競技で禁止されているわけではなく、特定の競技において禁止されている物質がある。

不整脈などで用いられるβ遮断薬は、アーチェリー、自動車、ビリヤード、ダーツ、ゴルフ、ミニゴルフ、射撃、水中スポーツ(フリーダイビング、スピアフィッシング、ターゲットシューティング)といった競技で、禁止物質に指定されている。理由として、『静穏作用のため選手の不安解消や「あがり」の防止、また、心拍数と血圧の低下作用で心身の動揺を少なくするため禁止』と記載されている。

保険適応外でインデラルをあがり症に使用することもあり、β遮断薬は緊張状態の緩和に効果がある。特に集中力を要するスポーツでは有利に働くため、上記の競技では禁止物質に指定されている。

▶特定競技において禁止される物質

分類理由医薬品名
P1. β遮断薬 静穏作用のため選手の不安解消や「あがり」の防止、また、心拍数と血圧の低下作用で心身の動揺を少なくするため禁止。 アセブトロール (アセタノール)
アテノロール (テノーミン、他)
アルプレノロール
エスモロール
オクスプレノロール
カルテオロール (ミケラン、他)
カルベジロール
セリプロロール (セレクトール、他)
ソタロール (ソタコール)
チモロール (チモプトール点眼液、他)
ナドロール (ナディック)
ネビボロール
ビソプロロール (メインテート、ビソノテープ、他)
ピンドロール (カルビスケン、他)
ブノロール
プロプラノロール (インデラル、他)
ベタキソロール (ケルロング、ベトプティック点眼液、他)
メチプラノロール
メトプロロール (セロケン、他)
ラベタロール(トランデート、他)
レボブノロール
ラベタロール(トランデート、他)
レボブノロール

参考:
薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック2025年版
一般社団法人 和歌山県薬剤師会:禁止物質について

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