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ファンコニー症候群と間質性腎炎の違いは?
公開. 更新. 投稿者:てんかん.この記事は約3分7秒で読めます.
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間質性腎炎とは違う?ファンコニー症候群

「ファンコニー症候群」という病名をご存知でしょうか。近年、抗てんかん薬「デパケン(バルプロ酸ナトリウム)」や紅麹を含むサプリメントの副作用として報告され、医療関係者の注目を集めています。
しかしその一方で、「間質性腎炎」との違いが分かりづらく、実臨床では見逃されがちな副作用でもあります。
ファンコニー症候群とは?─「再吸収」の障害
ファンコニー症候群(Fanconi syndrome)は、腎臓の近位尿細管の広範な機能障害によって、体に必要な成分が再吸収されず、尿中に流出してしまう病態です。
近位尿細管は本来、以下の物質を血中に再吸収する役割を担っています:
・ブドウ糖
・アミノ酸
・リン酸
・ナトリウム
・カリウム
・重炭酸イオン(HCO₃⁻)
これらが尿中に異常排泄されることで、以下のような代謝異常が引き起こされます。
異常項目と症状例
・低カリウム血症:脱力感、筋力低下、心電図異常
・アシドーシス:呼吸促進、吐き気
・尿糖:血糖正常でも尿に糖が出る
・高リン酸尿:骨の脆弱化(くる病・骨軟化症)
・腎性アミノ酸尿:成長障害(特に小児)
間質性腎炎との違いとは?─病態の焦点が異なる
よく混同される「間質性腎炎」とは、尿細管の周囲の「間質」と呼ばれる組織に炎症が起こる病気です。
特徴 | ファンコニー症候群 | 間質性腎炎 |
---|---|---|
主な病態部位 | 近位尿細管 | 尿細管周囲の間質 |
主症状 | 再吸収障害による電解質異常 | 炎症による腎機能低下、発熱、発疹 |
原因 | 薬剤、遺伝、ミトコンドリア障害 | 薬剤、感染症、自己免疫 |
検査所見 | 尿糖、アミノ酸尿、アシドーシス | 白血球尿、好酸球増加、尿たんぱく |
発症までの期間 | 長期投与後が多い | 投与初期が多い(数日〜数週) |
回復までの時間 | 数ヶ月〜数年 | 数週〜数ヶ月 |
見落とされやすい理由
添付文書や腎生検所見では「間質性腎炎」と診断されていても、実態としては再吸収障害を伴うファンコニー症候群であるケースがあります。
症状が非特異的なため、倦怠感や骨痛を「年齢のせい」と見過ごしてしまうこともあります。
デパケン(バルプロ酸ナトリウム)による症例
●特徴的な症例報告
・小児例が多い
・長期服用後の発症が多い
・初期は非特異的な倦怠感・骨痛のみ
・薬剤中止で改善するが、回復には時間がかかる
●発症機序の仮説
・ミトコンドリア毒性(尿細管細胞のエネルギー代謝障害)
・薬物過敏症による免疫反応
・カルニチン欠乏による腎機能障害
バルプロ酸は、抗てんかん薬、躁うつ病治療薬として広く用いられる薬剤ですが、その副作用として腎性の再吸収障害=ファンコニー症候群があることは、添付文書でも「重大な副作用」として記載されています。
紅麹とファンコニー症候群:サプリメントによる腎障害
2024年、日本国内で市販されていた「紅麹コレステヘルプ」(小林製薬)が自主回収され、大きなニュースとなりました。
●紅麹に含まれていた成分
・異常なモナコリン類似物質(スタチン類似)
・製造過程での未知の化合物生成が疑われる
●報告された副作用例
・腎障害(ファンコニー症候群を含む)
・急性腎不全
・横紋筋融解症
サプリメントだからといって安全とは限らない、という警鐘でもあります。食品や健康補助食品による副作用でファンコニー症候群が報告されたのは極めて稀ですが、今回のケースは異例であり、今後の研究が待たれます。
他にファンコニー症候群を引き起こす薬剤
医療用医薬品でも、以下のような薬剤でファンコニー症候群の報告があります。
・デパケン(バルプロ酸):抗てんかん薬
・テノゼット、ビリアード:抗ウイルス薬
・ジャドニュ:鉄キレート剤
これらの薬剤はいずれも尿細管への毒性をもつ可能性があり、長期使用や高用量使用の際には腎機能の定期検査が必須です。
予防と対応:医療者としての視点
●投与前・投与中の注意点
・リスクのある薬剤を把握
・患者に倦怠感・骨痛・多尿などがないか確認
・定期的な電解質・尿検査を実施
●疑われたらどうするか?
・速やかに原因薬剤を中止
・電解質補正、アルカリ化療法などの対症療法
・重症例では腎臓専門医と連携
まとめ:見逃さないために
ファンコニー症候群は、添付文書上では重大な副作用として記載されていても、実際の現場では「間質性腎炎」として見逃されがちな疾患です。
特に長期服用中の患者に見られる倦怠感や骨痛は、加齢や他の病気のせいにされやすい症状です。しかし、その背後にある慢性的な再吸収障害=ファンコニー症候群に気づけるかどうかは、医療者の視点にかかっています。
また、サプリメントのような非医薬品による発症も報告された今、「腎臓にとって安全かどうか」という視点は医薬品以外にも広げるべき時代に入っています。