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キプレスは寝る前じゃなきゃダメ?
公開. 更新. 投稿者:花粉症/アレルギー.この記事は約3分27秒で読めます.
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「1日1回就寝前」という指示、厳守すべきか?

「キプレス(モンテルカスト)は寝る前に飲んでください」
添付文書上、キプレスの用法は「就寝前」になっている。
しかし、実際には夕食後に処方されていることも多い。
「寝る前に噛むのは虫歯が心配」と言われる
そもそも飲み忘れなければいいのでは?
疑義照会すべきかどうか迷う…
キプレス/シングレアとは?どんな薬?
一般名:モンテルカストナトリウム
商品名:キプレス・シングレア
薬効分類:ロイコトリエン受容体拮抗薬
主な適応症:気管支喘息、アレルギー性鼻炎
ロイコトリエンとは?
ロイコトリエンは、気道における炎症・収縮に関与する生理活性物質です。喘息発作の誘因となるこの物質を抑えることで、キプレスは症状の改善や悪化の予防に寄与します。
添付文書とインタビューフォームからみる「就寝前」の根拠
添付文書における用法用量
【成人・小児共通】
通常、成人にはモンテルカストとして10mgを1日1回、就寝前に経口投与する。
この「就寝前」という記載は、日本国内で標準的な処方スタイルです。
なぜ「就寝前」?
製薬会社が公開しているインタビューフォームには、以下のような記述があります。
「喘息の症状は早朝に悪化することが知られており、モンテルカストの血漿中濃度を早朝に高く保つために就寝前投与とした。」
つまり、「夜に飲むことで、明け方に効果が発揮されるよう設計された」という理屈です。これは、喘息が夜間から明け方にかけて悪化しやすい“日内変動”に対応するための工夫です。
実際には「夕食後」で処方されるケースも多く見られます。これは以下のような理由によると考えられます。
〇小児の服薬リズムに合わせるため:
・子どもが寝る直前に薬を飲むのは難しい
〇歯磨き後に噛むと虫歯が気になる(後述)
〇飲み忘れの防止:
・寝る前だと忘れやすい
・食後の服薬ならルーチン化しやすい
〇医師の裁量による現場判断:
・大人であっても、服薬タイミングの厳密性より継続性を重視する場合もある
チュアブル製剤と虫歯の関係
「チュアブルは甘いから虫歯になるのでは?」という疑問:
キプレスチュアブル錠は、フルーツ味で甘味があり、「寝る前にこんな甘いもの噛んで大丈夫?」と不安に思う保護者や患者さんも多いです。
虫歯リスクはあるの?
実は、チュアブル錠に使用されている甘味料は「アスパルテーム」「マンニトール」などの非う蝕性甘味料。つまり、虫歯菌のエサにはならない成分です。
歯磨きの後に噛んでも、虫歯のリスクは非常に低いとされています。
ただし、摂取後に口腔内に薬の成分が残らないように、うがいや少量の水を飲むことは推奨されます。
疑義照会すべきか?薬剤師の葛藤
処方箋に「夕食後」と書かれていた場合、「就寝前じゃないけど大丈夫?」と疑義照会するか悩むことがあります。
しかし実際には、以下のような柔軟な対応が望まれます。
・薬効の持続時間(約24時間)を考えると、数時間のズレは大きな問題ではない
・飲み忘れ防止のため、患者のライフスタイルに合わせることが現実的
・「就寝前でなければ効果がない」と誤解されるリスクも考慮
そのため、「医師の指示が明確であれば疑義照会は不要」「患者への説明を丁寧に行う」ことが薬剤師としての対応のポイントです。
海外ではどうか?国際的な用法との比較
米国FDAの添付文書では「1日1回、1日の同じ時間に服用」とあり、「bedtime(就寝前)」の指定はありません。つまり、1日1回の服薬で血中濃度が安定すれば、タイミングにはそれほどこだわらなくてもよいというスタンスです。
このことからも、日本国内の「就寝前」指定は、あくまで製薬企業が推奨した基準であり、臨床ではもっと柔軟な運用がされているという背景がわかります。
結論:キプレスは寝る前じゃなきゃダメ?
必ずしも「寝る前でなければいけない」わけではありません。
むしろ、重要なのは以下のポイントです。
・1日1回、継続して忘れずに服用すること
・服用タイミングは患者の生活に合わせる
・医師の処方意図を確認し、説明は丁寧に行う
・チュアブル錠でも虫歯リスクは低いことを説明する
薬剤師としては、「添付文書の通りに」だけでなく、「実際の患者さんの生活に即した提案」が求められます。
・キプレス/シングレアは「就寝前」指示があるが、厳密に守らなければいけないわけではない
・服薬時間よりも「継続」が最優先
・チュアブル錠の虫歯リスクは実際は低い
・薬剤師は「疑義照会すべきか?」より「どう説明するか?」に注力すべき
就寝前という“言葉”だけに縛られず、患者さんの目線で柔軟に対応していくことが、不安の少ない服薬指導につながるのではないでしょうか。