2025年8月21日更新.2,592記事.

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エフメノカプセルは食後に飲んじゃダメ?

エフメノは天然の黄体ホルモン製剤?

更年期障害や月経異常、ホルモン補充療法(HRT)などで用いられる「黄体ホルモン製剤」。これまで日本では、合成ホルモンであるジドロゲステロン(デュファストン)やメドロキシプロゲステロン酢酸エステル(プロベラ)が主流でしたが、2022年に登場した「エフメノ®カプセル」は、「天然型プロゲステロン」の経口剤として注目を集めています。

商品名一般名規格・剤形
デュファストンジドロゲステロン錠5mg
ヒスロンメドロキシプロゲステロン酢酸エステルH錠200mg、錠5mg
プロベラメドロキシプロゲステロン酢酸エステル錠2.5mg
ルトラールクロルマジノン酢酸エステル錠2mg
ディナゲストジエノゲスト錠0.5mg、錠1mg、OD錠1mg
ミレーナレボノルゲストレル子宮内黄体ホルモン放出システム
エフメノプロゲステロンカプセル100mg
ノルレボレボノルゲストレル錠1.5mg

天然型プロゲステロンとは?

黄体ホルモン(プロゲステロン)は、排卵後に黄体から分泌され、子宮内膜の維持や妊娠の成立に欠かせないホルモンです。

「天然型プロゲステロン」とは、生体内で産生されるプロゲステロンと分子構造が全く同じ化学構造を持つものを指します。天然といっても、植物から抽出した原料(例:ヤムイモ由来のジオスゲニン)を化学的に変換した「バイオアイデンティカルホルモン(Bioidentical Hormone)」が実体です。

従来の合成プロゲスチン(例:デュファストン、プロベラ)は、人工的に構造を変えており、プロゲステロン受容体以外にも作用するため、子宮内膜症、血栓症、乳がんなどのリスクに影響する可能性が指摘されていました。

天然型プロゲステロンはそのリスクが低く、「より自然に近い選択肢」として注目されています。

なぜこれまで経口剤がなかったのか?

「天然型プロゲステロン」が経口で使えなかった理由は、主に以下の3点です。

① 吸収率が極めて低い
プロゲステロンは脂溶性が高く、水に溶けにくいため、消化管からの吸収が悪いです。

② 肝初回通過効果で代謝される
わずかに吸収されても、肝臓で急速に分解されてしまい、血中にほとんど届かない(=バイオアベイラビリティが低い)という問題がありました。

③ 中枢副作用が出やすい
経口で大量に投与すると、代謝物がGABA受容体などに作用し、強い眠気やめまいといった副作用が出やすくなります。

このため、天然型プロゲステロンは「注射剤」や「腟剤」などの非経口投与が中心でした。

注射剤や腟剤では使われていた

実際、海外では以下のような天然型プロゲステロン製剤が長年使用されてきました。

・プロゲステロン筋注:体外受精後の黄体補充などで使用。1日1回の筋肉注射が必要で、痛みやしこりなどの局所反応が課題。
・腟用ゲル・腟坐薬:吸収性がよく、全身性副作用が少ないため、海外では不妊治療に広く使用。

一方、日本ではこうした剤形が限定的であり、特に経口で使える天然型製剤は存在しませんでした。

エフメノの登場:経口天然型プロゲステロン製剤

富士製薬工業が開発した「エフメノ®カプセル100mg」は、国内で初めて保険適用された天然型プロゲステロン経口製剤です。

製剤工夫のポイント
・マイクロ化(micronization)により粒子を微細化し、吸収率を大幅に改善
・軟カプセルに油性成分とともに封入することで、生体利用率を確保
・就寝前服用を基本とし、副作用(眠気やふらつき)を日常生活に影響しにくく配慮

これらの工夫により、1日1回の内服で十分な血中濃度を保てる天然型プロゲステロンが誕生しました。

効能・効果と使い方

◎ 効能・効果(2025年8月現在)
エストロゲン製剤との併用により、子宮内膜増殖症を予防

閉経後女性に対するHRTで、エストロゲン単独投与は子宮内膜増殖症のリスクを高めるため、プロゲステロンを併用する必要があります。

エフメノはこの「プロゲステロン補充」に使われます。

◎ 用法・用量の2パターン
持続的併用法(continuous combined therapy)
 → エストロゲンと同日から毎日100mgを就寝前に内服

周期的併用法(sequential therapy)
 → エストロゲンの15日目から28日目までの14日間、200mgを就寝前に内服

投与パターンは年齢や子宮の状態、出血パターンに応じて医師が決定します。

◎ 食後服用は避ける?
食後に内服すると、プロゲステロンの吸収が過剰となり、Cmax(最高血中濃度)が3倍以上になることがあります。これは副作用(眠気・めまい)や、予期せぬホルモン反応のリスクを高めるため、空腹時、特に就寝前の内服が推奨されています。

安全性と副作用

国内試験での結果
国内第III相試験では、52週間の持続投与で子宮内膜増殖症の発生は0件(95% CI 上限 2.0%)と良好な結果が示されました。

主な副作用
・不正出血(約30〜35%)
・乳房不快感
・めまい・ふらつき
・眠気
・下腹部痛
・腸管症状(便秘・膨満感など)

副作用の多くは投与初期や周期変化時に出現しますが、次第に軽快することが多いです。

注意すべき点(禁忌・慎重投与)
・血栓塞栓症の既往
・診断不明の性器出血
・乳がんや子宮体がんの既往
・肝機能障害
・妊娠・授乳中(母乳移行あり)

合成プロゲスチンとの違い

項目天然型プロゲステロン(エフメノ)合成プロゲスチン(例:デュファストン)
分子構造生体同一改変構造
作用部位プロゲステロン受容体のみ他の受容体にも作用
乳がんリスク低い可能性(データ増加中)一部はやや上昇の報告あり
血栓リスク低い傾向高め(種類による)
鎮静作用ややあり(GABA様)ほぼなし

まとめ

・エフメノは、日本で初めて保険適用された天然型プロゲステロンの経口薬
・長年課題だった吸収性と肝代謝を、製剤技術で克服
・HRTにおける子宮内膜保護の選択肢として、より生理的かつ安全性の高い治療が可能に
・合成プロゲスチンに比べ、乳がんや血栓症のリスクが低い可能性がある

天然型プロゲステロンの登場は、ホルモン補充療法におけるパラダイムシフトとも言える変化です。エストロゲン補充にプロゲステロンが必須となる患者に対し、より自然な選択肢として「エフメノ」が今後ますます注目されていくことでしょう。

処方例

エフメノカプセル100mg 2cap  
 1日1回就寝前 14日分

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