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利尿薬を夜飲んじゃダメ?
公開. 更新. 投稿者:心不全/肺高血圧症.この記事は約3分16秒で読めます.
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利尿薬を夜飲むとどうなる?

「利尿薬を夜に飲んだら、夜中にトイレに行きたくなって眠れなくなるんじゃない?」
薬剤師や看護師であれば、一度は患者さんにこう尋ねられたことがあるのではないでしょうか。
利尿薬は心不全や腎疾患、高血圧、浮腫など幅広い疾患に使われる基本的な薬ですが、服用時間によって患者さんの生活の質(QOL)が大きく左右されます。特に夜間頻尿は高齢者にとって転倒リスクとも直結する重要な問題です。
利尿薬を夜に飲むと何が問題?
夜間頻尿による睡眠障害
利尿薬は体内の余分な水分やナトリウムを尿として排泄させる薬です。そのため服用後は尿量が増加します。夜に服用すると、睡眠中にトイレに行きたくなり、睡眠が分断されます。睡眠不足は高血圧や心不全の悪化にもつながりかねません。
高齢者に多い転倒リスク
夜間に頻繁にトイレに行くことで、暗い中での移動・ふらつきが増え、転倒・骨折のリスクが上がります。特に骨粗鬆症を合併している高齢者では致命的な事故につながることがあります。
夜間安静の妨げ
心不全や腎疾患の患者にとって、夜間の休息は治療上も重要です。利尿薬が原因で十分に休めないのは避けるべきです。
各利尿薬の添付文書における服用時間の記載
利尿薬はすべて「夜は避けた方がよい」という注意がなされています。実際にいくつかの代表的な薬の添付文書を確認してみます。
ループ利尿薬(ラシックス®、ルプラック®、ダイアート®など)
・用法用量:「1日1回」
・使用上の注意:「夜間の休息が特に必要な患者には、夜間の排尿を避けるため、昼間に投与することが望ましい。」
➡夜の服用は避け、基本は朝か昼に投与。
カリウム保持性利尿薬(アルダクトン®)
・用法用量:「通常成人1日50~100mgを分割経口投与」
・使用上の注意:「夜間の休息が特に必要な患者には、夜間の排尿を避けるため、昼間に投与することが望ましい。」
➡用法に時間指定はないが、注意事項として昼間の服用が推奨される。
サイアザイド系利尿薬(フルイトラン®、ダイクロトライド®など)
・多くは「1日1回 朝食後」と記載されている。
・夜間の排尿を避けるため午前中の投与が望ましいとされる。
チアジド類似利尿薬(フィズリン®)
・用法用量:「1日1回 食後」
・注意:「夜間の排尿を避けるため、朝食後又は昼食後に投与することが望ましい。」
➡明確に「夜は避けるべき」と記載。
バソプレシンV2受容体拮抗薬(サムスカ®)
・用法用量:「1日1回」
・注意:「夜間の排尿を避けるため、午前中に投与することが望ましい。」
ただし、常染色体優性多発性のう胞腎(ADPKD) では「1日2回」の用法もあるため、夕方の服用が必要となる。その場合は「就寝前4時間以上空けること」と記載がある。
➡サムスカだけは例外的に夕方投与が認められるが、就寝前は避ける。
それでも夜に飲んだ方がよいケースはある?
基本的には「朝食後服用」が原則ですが、必ずしも全員に適しているとは限りません。
日中に排尿コントロールが難しい場合
仕事中にトイレに行けない患者(運転手、教師など)では、朝服用すると日中の生活に支障をきたすことがあります。この場合は昼食後や夕方早めの服用を検討することもあります。
服薬アドヒアランスの問題
「毎朝忘れてしまう」という患者では、夜の習慣に合わせた方が飲み忘れが減る場合もあります。ただし夜服用により夜間頻尿が問題になると本末転倒なので、必ずリスクとベネフィットを比較検討します。
特殊な病態
例:サムスカのADPKD適応のように、夕方服用が必要な場合。就寝前は避けるよう注意します。
薬剤師・医療者が患者に伝えるべきこと
・基本は朝食後服用(または昼食後)。
・夜間服用は避ける。特に高齢者は転倒リスクがある。
・日中の生活に支障がある場合は、医師に相談し、昼食後や夕方早めの時間に調整できる。
・薬を勝手に夜に変更するのは危険。必ず医師・薬剤師に相談を。
・利尿薬は疾患コントロールに直結する薬なので、服薬を中断したり飛ばしたりしないこと。
まとめ
・利尿薬は夜に飲むと夜間頻尿・睡眠障害・転倒リスクを高めるため、朝食後が基本。
・添付文書でも多くの薬剤に「夜間服用は避けるべき」と記載がある。
・ただし、職業やライフスタイルによっては昼食後・夕方早めに変更する場合もある。
・例外としてサムスカ(ADPKD適応)は夕方服用が必要だが、就寝前は避ける。
・服薬時間を変更したいときは、必ず医師・薬剤師に相談を。