2024年11月4日更新.2,470記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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リチウムが躁うつ病に効くのはなぜ?

リチウム

リチウムと聞くと、リチウム電池を思い浮かべる。
電池に使われる金属イオンというと、水銀などを思い浮かべ、人体に有毒かも知れないと不安なイメージが広がる。

医薬品名はリーマス。炭酸リチウム、躁病の薬、抗躁薬、気分安定薬。
リチウムは、小魚、アサリ、小麦胚芽などにも多く含まれています。
なんで効くのか。不思議。

リチウムの作用機序

リチウムの躁うつ病に対する作用機序は、まだ完全に解明されていない。
リチウムは中枢神経系における、NA作動系、DA作動系、5HT作動系において、きわだった作用機序になるものはなく、多くの作用が複合的に関連して作用するものと推測されている。

リチウムが躁うつ病に効くと発見したのは、オーストラリアの精神科医であるジョン・ケイド氏。

ケイドは、躁うつ病患者の尿には体内から躁うつ病の原因物質が含まれているのではないかと考え、使われていなかった厨房を実験室として、モルモットに患者の尿を打つ実験を始めた。ところが、途中で(誰の尿にも含まれているはずの)尿酸に効果があるのではないかと考えたケイドは、尿酸単体では水溶性に乏しいので、たまたま水に対する溶解性に優れたリチウム塩として、モルモットに与えてみる実験を行った。尿酸のリチウム塩に鎮静効果があることはすぐにわかったが、確認実験として別のリチウム塩を与えたところ、これも鎮静効果を示し、結局尿酸ではなく、リチウムイオンに鎮静効果があることが判明した。早速炭酸リチウムを少数の躁うつ病患者に投与してみたところ強力な効果を示し、その効果からケイドは躁うつ病はリチウムイオンの欠乏によって起こるのではないかと推測した。
リチウムの効果は劇的ではあったが、致死量と治療効果のある投薬量が近いために、初期は患者を死亡させることもあった。また、リチウム塩はごく一般的な化合物であるために特許化できず、製薬会社が商業化に積極的でないという問題もあった。これらの制約のためにリチウムの使用は広まらず、アメリカ合衆国においては1970年まで、使用が許可されていなかった。
致死量の問題に関しては、後にリチウムの血中濃度を計って、適合性試験を行なうことで改善された。 最終的にケイドの発見したリチウムは、広く認められることとなった。

ジョン・ケイド – Wikipedia

抗躁薬のカテゴリーに分類される薬剤は炭酸リチウムただ1つです。

リチウム塩が躁状態に効果があるとわかり、治療に用いられるようになったのは古く、1950年代です。
リチウム塩はリチウムイオンとして生体内ではたらくことが当時から明らかでしたが、現在もなお脳内におけるその薬理動態や作用はわかっていません(最新の研究から予想される作用機序は提言されていますが)。
また、この薬は抗うつ薬理の効果を増幅するための薬として用いられることもあります(うつ病のなかでも、激越性や難治性のうつ病相を治療する場合です)。

リチウムは、さまざまなタンパク質の発現に関わるグリコーゲン合成酵素キナーゼー3(GSK3)を阻害することが知られている。これにより神経細胞のサバイバル因子である脳由来神経栄養因子(BDNF)やcAMP応答配列結合蛋白(CREB)などの発現量が促進され、アポトーシスに関わる因子であるp53やBaxなどの発現量が抑制される。また、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)型グルタミン酸受容体やイノシトールモノフォスファターゼ(IMP)を抑制し、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)を活性化することから、細胞死の抑制や神経の可塑性に関わるのではないかと考えられている。このような働きによって、過剰な感情の高まりや行動が抑えられるのではないかと考えられている。

治療域が狭いため副作用が起こりやすい

炭酸リチウムという薬は、治療に適した血中濃度の治療域が非常に狭い薬剤です。
そのため薬剤の添付文書にも、ひと月に1回程度、定期的な血中濃度を測定することが推奨されています。
投薬中の1日量は、維持期で最大が800mgです。
血中濃度の範囲は0.4〜1.0mEq/Lで、1.0mEq/Lを超えると飛躍的に副作用が出現する可能性が高くなります。
炭酸リチウムは患者さんによっては少量の投与量変更で大きく血中濃度が変化することもあるため、治療維持期には、血中濃度が0.8mEq/Lを超えないことを意識して処方量を調整するようにします。

リチウム中毒

リチウムの副作用として、服用してから1週間から10日程は食欲不振や嘔気などの消化器症状があります。

炭酸リチウム最大(最悪)の副作用は、リチウム中毒です。
その初期は食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢といった消化器症状にはじまり、次いで運動障害、特に小脳性の運動失調と振戦が出現。
傾眠、混迷や不穏などの精神症状へと発展します。
最悪の場合、命を落としたり後遺症を残すこともあります。
このような状況に至る多くの場合は、炭酸リチウム濃度が高濃度になったときで、その2大原因は、「投与量自体が多いとき」と、「脱水を起こしたとき」です。
未然の予防としては、炭酸リチウムの血中濃度を定期的にモニタリングすることや、脱水を起こさせないよう普段から水分補給を意識するように指導することです。

気分安定薬

リチウムや抗てんかん薬のバルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンには抗うつ作用や再発予防効果もあることが確認され、双極性障害の治療と寛解維持療法に利用されている。
バルプロ酸やカルバマゼピンはGABAに作用する一方、リチウムはイノシトールリン脂質の代謝回転を通じて細胞内情報伝達系を変化させることで効果を示すとされている。
その他、非定型抗精神病薬オランザピンやアリピプラゾール、クロナゼパムなどにも抗躁効果がある。

リーマス

「どんな薬?」
気分を落ち着かせる薬です。
なぜ効くのかははっきり解明されていません。

「効くの?」
有効率は70~80%と言われています。

「副作用はあるの?」
リチウム中毒と言われる副作用を起こすことがあります。
軽いものだと、食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢等の消化器症状、振戦、傾眠、錯乱等の中枢神経症状、運動障害、運動失調等の運動機能症状、発熱、発汗等の全身症状など。
重くなると、急性腎障害により電解質異常が発現し、全身けいれんを起こすことがあります。

「注意することは?」
リチウム中毒の初期症状が見られたら、医師の診察を受けましょう。
眠気やめまいが見られることがあるので、車の運転はしないようにしましょう。

薬剤師

勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。

先生

そんな薬剤師には、m3.com(エムスリードットコム)の、薬剤師のための「学べる医療クイズ」がおすすめ。

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職業:薬剤師
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