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フラッシュバックに神田橋処方が効く?
公開. 更新. 投稿者:うつ病.この記事は約2分30秒で読めます.
10,066 ビュー. カテゴリ:神田橋処方とは

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状のひとつである「フラッシュバック」。
これは、過去の外傷的な体験が突如、強烈な映像や感覚としてよみがえる症状で、患者本人にとっては再びその体験をしているかのような恐怖と混乱を引き起こします。
このつらい症状に対し、一部の医師の間で注目されているのが、神田橋処方(かんだばししょほう)と呼ばれる漢方薬の組み合わせです。
神田橋処方とは?
「神田橋処方」とは、精神科医・神田橋條治(かんだばし じょうじ)医師が臨床経験をもとに提唱した処方で、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)と四物湯(しもつとう)という2つの漢方薬を組み合わせたものです。
桂枝加芍薬湯:主に腹痛や過敏性腸症候群、緊張型腹痛などに用いられます。
四物湯:血のめぐりを整え、冷えや生理不順などに使われる補血剤です。
いずれも古くから使われている漢方薬ですが、この組み合わせがなぜフラッシュバックに効くのかは、明確な薬理メカニズムは解明されていません。神田橋医師自身も「うまく作用することがある」と臨床的な実感をもとにしている処方であり、エビデンスベースの薬ではないことに留意が必要です。
PTSDとフラッシュバック
PTSDは、生死にかかわるような体験や、強い恐怖・無力感を伴う出来事が引き金となって生じるストレス障害で、うつ病、パニック障害、依存症との合併も多いとされます。
PTSDの標準的な薬物治療としては、国内外の診療ガイドラインでSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が第一選択薬とされています。特に、
・パロキセチン(パキシル)
・セルトラリン(ジェイゾロフト)
の2剤にはエビデンスがあり、日本でもPTSDの保険適用がある唯一の薬です。
また、エビデンスレベルはやや下がるものの、以下の薬も症状改善の報告があります。
・SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
・ミルタザピン(リフレックス、レメロン)
・オランザピン、クエチアピン(抗精神病薬)
・ラモトリギン、トピラマート(気分安定薬)
ただし、これらはすべて西洋医学に基づく化学薬品であり、副作用リスクや継続投与の難しさも指摘されています。
神田橋処方の位置づけ
神田橋処方は、こうした標準薬が合わない人、または症状は重いが抗うつ薬の副作用が強く出やすい人に対して、「補助的に」使われることがあります。
特に、以下のようなケースで使用されることがあります。
・フラッシュバックの頻度が高く、緊張が腹部などに表れやすい
・過去のトラウマが体の冷えや虚弱感として現れる
・精神科薬が効きすぎてしまうような敏感な体質
このような患者さんに対して、体の「気・血・水」のバランスを整えるという漢方的なアプローチが、結果的にフラッシュバックの症状緩和につながることがある、という報告が散見されます。
神田橋処方は、PTSDやフラッシュバックに対する正式な標準治療ではなく、エビデンスに乏しい「経験的治療」のひとつです。
しかし、精神科医療の現場では「標準治療で効果が乏しい人」や「副作用に敏感な患者」への代替アプローチとして注目されているのも事実です。
漢方薬は体全体の調整力に働きかける薬であり、即効性よりも「じわじわと症状が和らいでいく」ことを期待する治療です。症状の強さや体質によっては相性がよく、フラッシュバックに苦しむ人の生活の質(QOL)を改善する可能性もあります。


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