2025年5月11日更新.2,473記事.

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過敏性腸症候群は「各駅停車症候群」?

過敏性腸症候群は各駅停車症候群?

「通勤電車で毎回トイレの場所が気になる」「急行より各駅停車じゃないと不安」

そんな経験を持つ人に多いのが「過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)」です。トイレに間に合うかもしれないという不安が、さらにお腹を刺激する──これは単なる“腸の病気”ではなく、実は“脳と腸の対話の不具合”が関係しています。

過敏性腸症候群とは?

過敏性腸症候群(IBS)は、大腸に明らかな器質的異常がないにもかかわらず、
・腹痛
・下痢
・便秘
・ガス(おなら)の増加
・腹部膨満感

などの症状が繰り返し現れる機能性消化管障害の一つです。

日本では人口の10~15%がIBSの症状を抱えているとされ、特に若年~中年層に多く、受験生や働き盛りの人々にとって大きな生活障害になります。

通勤・通学とIBSの関係

IBSの患者さんの中には、「通勤電車で各駅停車しか乗れない」という人が少なくありません。なぜなら、

・急行電車では途中下車が難しい
・トイレの場所が限られている
・発作的な腹痛や便意が急に襲う

といった恐怖心があるからです。

このような条件反射的な緊張と不安が、さらなる症状の悪化を招き、

「電車=お腹が痛くなる場所」という誤った学習が脳に刷り込まれてしまいます。

「腸」だけでは説明できない─脳腸相関とは?

近年、IBSの原因解明において重要なキーワードが「脳腸相関(brain-gut axis)」です。

脳腸相関とは、脳と腸が神経・ホルモン・免疫などを介して双方向に情報をやり取りしているという概念で、以下のような経路が関与しています:

・迷走神経・交感神経(自律神経系)
・腸内ホルモン(セロトニン、CGRPなど)
・免疫細胞やサイトカイン
・腸内細菌(マイクロバイオータ)

脳がストレスを感じると、自律神経を通じて腸の運動や分泌に影響を与え、腸が過敏に反応する。

逆に、腸内の状態が悪いと、それが脳に「不快」「不安」としてフィードバックされ、さらにストレスを増幅させる。

この悪循環がIBSの症状を慢性化・複雑化させるのです。

IBSとストレス

「過敏性腸症候群はストレスのせい」と言われがちですが、それは「気のせい」「心の弱さ」と同義ではありません。

IBSでは、実際に腸の知覚神経が過敏になっており、通常では感じない腸の動きを痛みと感じたり、ちょっとしたガスの滞留を大きな違和感として感じたりすることが分かっています。これは「内臓知覚過敏」と呼ばれ、IBSの主要なメカニズムの一つとされています。

IBSの診断と分類

IBSには主に次の4つのタイプがあります。

分類名特徴
IBS-D(下痢型)急な腹痛とともに水様便、軟便が出る
IBS-C(便秘型)便が出にくく、排便時の不快感や腹痛
IBS-M(混合型)下痢と便秘が交互に現れる
IBS-U(分類不能型)上記に当てはまらない症状

特に通勤や緊張が引き金になるタイプには「下痢型」が多く見られます。

治療法の選択肢─薬だけではない

IBSの治療は多面的に行う必要があります。以下のアプローチが有効です:

〇食事療法
・FODMAP制限食:発酵性の糖質を控えることで症状軽減
・カフェイン・脂質・アルコールの制限:腸への刺激を減らす

〇薬物療法
・抗コリン薬(下痢・腹痛に)
・セロトニン受容体拮抗薬(イリボーなど)
・漢方薬(桂枝加芍薬湯、大建中湯など)
・乳酸菌製剤や消化管機能調整剤

〇心理的アプローチ
・認知行動療法(CBT)
・マインドフルネス瞑想
・自律訓練法

〇プロバイオティクス(腸内環境の改善)
腸内フローラの乱れ(ディスバイオーシス)がIBSに関与するという説もあり、整腸剤やプロバイオティクスの服用も有用とされています。

IBSと脳腸相関─治療のパラダイムシフト

これまで「腸の病気」とされてきたIBSですが、脳腸相関の研究が進むことで、

「脳と腸の連携不全」
「自律神経のバランス異常」
「ストレスと免疫の相互作用」

といった新たな側面からアプローチする時代に入りました。

つまり、「心と体を切り離さずに診ること」が、治療の鍵なのです。

過敏性腸症候群は、心の状態と腸の状態が密接に関係している病気です。

・電車に乗るのが怖い
・外出先でのトイレが不安
・周囲に理解されにくい

そんな思いを抱える方にこそ、IBSは「脳腸相関」の問題であり、自分のせいではないと知っていただきたいのです。
各駅停車でしか前に進めないことがあったとしても、進んでいることには変わりありません。
医学の進歩とともに、IBSの理解と治療も大きく前進しています。

もしあなたや身近な人が悩んでいるなら、一人で抱えず、専門医や薬剤師、カウンセラーに相談することをおすすめします。

イリタブルコロン

添付文書上の病名で、「過敏大腸症(イリタブルコロン)」と書かれているものがある。
過敏性腸症候群とは違うのか?
過敏性腸症候群は、Irritable Bowel Syndrome(IBS)
過敏大腸症は、irritable colon
過敏性腸症候群はより広い病態を含むものと考えられる。

効能効果に、過敏性腸症候群を持つ薬は、イリボー、リンゼス、ポリフル/コロネル、セレキノン、ハイゼット、心身症として扱われ抗精神病薬も適応をもつ。
過敏大腸症を持つ薬は、ストロカイン、トランコロン、プロ・バンサイン。
同じ疾患としてまとめてほしい。

薬剤師

薬剤師の人たちって、どうやって勉強してるんだろう…

先生

勉強法はいろいろあるが、タイムリーな話題や興味深いコンテンツを提供しているエムスリードットコムはおすすめ

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