2025年7月25日更新.2,543記事.

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ホクナリンテープの使い方と注意点:体重・年齢・皮膚状態・剥がれたときの対応

ホクナリンテープの使い方と注意点:体重・年齢・皮膚状態・剥がれたときの対応

ホクナリンテープ(一般名:ツロブテロールテープ)は、気管支喘息や慢性気管支炎などの治療に用いられる貼付型の気管支拡張剤です。貼るだけで24時間にわたって効果が持続する利便性から、小児から高齢者まで幅広い患者さんに使用されています。

しかし、その利便性の一方で、年齢による投与量の決め方や、体重との関係、アトピー性皮膚炎患者への使用、剥がれたときの対応など、日常診療や薬局でしばしば質問や疑問が生じるポイントも多い薬剤です。

ホクナリンテープを安全・適切に使うために知っておきたい重要事項を勉強します。

ホクナリンテープの規格と投与量の決め方

ホクナリンテープには、以下の3つの規格があります。

・0.5mg
・1mg
・2mg

それぞれ、1日1回、胸部・背部・上腕部などに貼付して使用します。

投与量は、体重ではなく年齢によって定められています。添付文書上の用法・用量は次の通りです。

年齢区分と投与量(ツロブテロール換算)
・成人:2mg
・0.5歳〜3歳未満:0.5mg
・3歳〜9歳未満:1mg
・9歳以上:2mg

つまり、例えば8歳の小児であれば、規格上は「1mg」を使用することになります。

体重との関係は?

実はこの投与区分は「年齢」を基準にしていますが、インタビューフォームでは次のように説明されています。

至適用量は約50μg/kgと推察され、小児の各年齢における平均体重を目安に、
体重15kg未満(0.5歳〜3歳未満):0.5mg
15〜30kg未満(3〜9歳未満):1mg
30kg以上(9歳以上):2mg
で臨床効果が期待できる。

このため、2歳で15kgあるような大柄な子どもでは1mgテープを使ったほうが効果が期待できるケースも理論上はありえます。また、8歳でも体重30kgあれば2mgテープを選択するほうが理にかなっているとも言えます。

保険請求上の注意

ただし、保険請求(レセプト)では年齢基準で判断されるため、

いくら体格が良くても8歳児に2mgテープを使う場合は疑義照会が必要です。

医師が体重を理由に規格を選択するケースもありますが、そのまま調剤すると査定対象になる可能性があります。

兄弟間での処方間違いも決して少なくないため、処方内容と年齢・体重の整合性を確認することが重要です。

ホクナリンテープはアトピー患者でも使える?

ホクナリンテープは経皮吸収型製剤ですが、「皮膚が弱い患者さんでも大丈夫ですか?」と尋ねられることがあります。特にアトピー性皮膚炎や乾燥肌の方は、外用薬の吸収が過剰になりやすく注意が必要です。

皮膚バリア機能と経皮吸収
健康な皮膚の角層はしっかりとバリア機能を保っているため、薬剤の吸収はゆっくり進みます。しかし、アトピー性皮膚炎や老人性乾皮症などではバリア機能が低下しているため、理論上は薬物が過剰に吸収されて副作用が出るリスクがあります。

ホクナリンテープの特徴
ホクナリンテープは、この課題に対応するため「結晶レジボアシステム」という技術を採用しています。これにより、皮膚状態の影響を受けにくい製剤設計となっています。

ラットの実験では、損傷皮膚に貼っても健康皮膚に貼ったときと同じ吸収移行性を示したことが報告されており、アトピー性皮膚炎の患者さんでも比較的安心して使用できると考えられています。

さらに、
・貼付の固定性に優れ、はがれにくい
・剥がす際に角層を傷つけにくい
・かぶれにくい膏体と柔軟性の高い支持体を採用
といった特長があり、皮膚刺激の少なさにも配慮されています。

とはいえ、個別の皮膚状態や過去の貼付剤による皮膚トラブル歴がある場合は、使用前に医師や薬剤師に相談しましょう。

剥がれたときはどうする?

貼付剤全般に共通する悩みとして「剥がれてしまったときどうするか?」があります。

ホクナリンテープの患者向け説明書には、

「テープは一度剥がしたら再び貼り直すことはできません。」

と記載されています。その理由は、再貼付しても粘着力が低下して剥がれやすくなるためです。

ただし、剥がれたタイミングによって対応が変わります。

貼付12時間後に剥がれた場合
薬物動態を確認しましょう。

ホクナリンテープを貼付してから12時間で約74%の薬物が皮膚に移行。

24時間貼付した場合の移行率が82〜90%であるため、12時間で約85%相当が皮膚に移行していると考えられます。

つまり、12時間経過していれば薬の大部分が吸収済みなので、新しいものを貼らずにそのまま翌日のタイミングを待って問題ありません。

●3時間後・6時間後に剥がれた場合
一方、3〜6時間で剥がれた場合は薬剤の移行が不十分です。

ホクナリンテープは6時間後に血中濃度が半減。

剥がれたまま放置すると、血中濃度が低下し喘息発作などのリスクが上がります。

血中濃度シミュレーション
興味深いデータとして、貼付3・6・9・12時間後に新しいテープを再度貼り直した場合の血中濃度シミュレーション(成人)があります。

結果は以下の通りです。
・最高でも再貼付しない場合の1.3倍以下にとどまる。
・経口投与(ホクナリン錠)の最高血中濃度の約2/3以下。

また、小児ではホクナリンドライシロップ0.02mg/kgを経口投与した場合の最高血中濃度が約4.5ng/mLに対し、ホクナリンテープ1mg貼付の最高血中濃度は約1.3ng/mLと低めです。

これらのデータから、

剥がれたのが早い時間であっても、貼り直すことで危険な高血中濃度になる可能性は低い
と判断できます。

結論としては、3〜6時間程度で剥がれた場合は新しいテープを貼り直すのが適切です。

貼り直しを避けるための工夫

テープが剥がれにくくなるポイントを確認しましょう。

・貼る前に部位の水分・汗・皮脂をしっかり除去
・テープ接着面を指で触らない
・貼付後はしっかり押さえる

なお、少し剥がれた程度であれば絆創膏で補強可能と説明書に記載されています。この点も患者さんに伝えると安心感につながります。

患者さんに伝えたいポイントまとめ

最後に、ホクナリンテープ使用時の注意点を患者さんや保護者の方に説明する際に意識したいポイントを整理します。

●使用量は年齢を基本に決める
・ただし体重で判断する場合もあるため、医師の指示を必ず確認。

●剥がれたときはタイミングで対応が異なる
・半日以上経過 → そのまま
・数時間で剥がれた → 新しいものを貼り直す

●皮膚にやさしい設計ではあるが、貼付部位の皮膚状態に注意

●少し剥がれた場合は絆創膏で補強OK

●貼付前の皮膚清潔と乾燥、貼付後の密着が重要

おわりに

ホクナリンテープは、小児や高齢患者にとって服薬負担を軽減できる大変便利な薬剤です。一方で、年齢・体重・皮膚状態・剥がれたときの対応など、処方・調剤・服薬指導で確認すべきポイントが多いことも事実です。

薬剤師が患者さんに適切な使い方を伝えることで、治療効果を最大限に引き出し、副作用やトラブルを未然に防ぐことができます。

日々の業務の参考にしていただければ幸いです。

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