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エタノールとオキシドールの違いは?
公開. 更新. 投稿者:抗菌薬/感染症.この記事は約4分16秒で読めます.
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エタノールとオキシドールの違いとは?傷の消毒や感染対策での正しい使い分け

病院や薬局の現場では、皮膚や器具の消毒のために「エタノール(消毒用アルコール)」や「オキシドール(過酸化水素水)」が用いられています。
一見似たように感じられる消毒薬ですが、それぞれの特徴や使いどころ、注意点は大きく異なります。
エタノールとは?
定義と組成
消毒用エタノールは、医療や家庭の衛生管理で最も広く使われるアルコール系消毒薬です。
日本薬局方における「消毒用エタノール」は76.9〜81.4vol%のエタノールを含む製剤で、水分が約20%含まれていることがポイントです。
意外に思われる方も多いのですが、エタノール100%では殺菌力は落ちます。
適度な水分が細胞膜の透過性を高め、殺菌効果を引き出すためです。
市販品では「消毒用エタノールIP(イソプロパノール配合)」などもありますが、いずれも用途は似ています。
消毒効果と作用機序
消毒用エタノールは、微生物のタンパク質を変性させ、細胞膜を破壊することで殺菌作用を示します。
幅広い微生物に有効であり、一般細菌(グラム陽性菌・陰性菌)、真菌、結核菌、一部のウイルス(エンベロープ有)に対して効果を発揮します。
特にインフルエンザウイルスや新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)にも有効である点が大きな強みです。
適応と使い方
主な使用場面は以下のとおりです。
・注射部位の皮膚消毒
・手指衛生
・器具や環境表面の消毒
・金属やプラスチックの拭き取り消毒
ただし、開放創や粘膜には基本的に使用できません。
刺激が強く、組織障害や疼痛を引き起こします。
注意点
・揮発性が高く、火気厳禁
・蒸発に伴い手荒れしやすい
・長時間の殺菌持続性はない
・創傷消毒には不適
これらを理解し、適切に用いることが重要です。
オキシドールとは?
定義と組成
「オキシドール」は日本薬局方で過酸化水素水2.5~3.5w/v%の製剤です。
英語で「Hydrogen Peroxide」と呼ばれ、化学式はH₂O₂。
家庭でも古くから「傷の消毒薬」としておなじみです。
消毒効果と作用機序
オキシドールは、過酸化水素が分解して発生する酸素の酸化作用により、微生物を殺菌します。
有効範囲としては以下が挙げられます。
・グラム陽性菌
・グラム陰性菌
・一部の酵母・真菌
・一部のウイルス
殺菌力は消毒用エタノールより弱いとされ、特に芽胞や結核菌、ノンエンベロープウイルスには十分な効果を期待できません。
特徴的な作用
オキシドールを創部に滴下すると泡立つ現象が起こります。
これは分解による酸素発生であり、血液や膿を除去する「洗浄効果」が特徴です。
いわゆる「泡で汚れを浮かす」機械的洗浄作用は、見た目の清潔感を高めます。
適応と使い方
オキシドールは以下のような用途に用いられます。
・創傷・潰瘍部位の洗浄消毒
・血液汚染の洗浄
・口腔内のうがい(希釈使用)
創部の消毒用として一時的に用いることが多いですが、近年は刺激性や組織障害の問題から、創傷消毒に routine で用いることは推奨されない傾向にあります。
注意点
・皮膚が白く漂白される(還元で再度戻る)
・刺激感や疼痛が強い
・長期連用で肉芽形成を阻害する恐れ
・揮発性はないが、酸素発生により密閉容器では破裂の危険
・血糖測定前の皮膚消毒に使用すると値に影響する可能性
特に血糖測定前はエタノールを使用するのが原則です。
エタノールとオキシドールの比較表
項目 消毒用エタノール オキシドール
有効成分 エタノール76.9~81.4vol% 過酸化水素2.5~3.5w/v%
殺菌作用の仕組み タンパク変性・脂質溶解 酸化作用・機械的洗浄
殺菌スペクトル 広範(細菌・真菌・ウイルス) 限定的(細菌・一部ウイルス)
持続性 ほとんどなし ほとんどなし
刺激性・組織障害 粘膜・創部には刺激性あり 組織障害や漂白作用あり
創傷への使用 ×(不可) ○(洗浄目的に短期使用)
手指・皮膚消毒 ○(推奨) △(非推奨)
金属器具消毒 ○ △(酸化による腐食に注意)
血糖測定前の消毒 ○ ×
火気の危険性 あり(引火性) なし
「どちらを選べばいい?」よくある場面別の使い分け
手指や皮膚の消毒
→ エタノールが第一選択
短時間で強力な殺菌効果が得られ、揮発して残留しません。
創傷部の洗浄
→ オキシドールを一時的に用いることもある
血液や膿を除去するために使用可能。ただしその後は流水や生理食塩水で洗い流し、長期使用は避けます。
血糖測定時の前処置
→ 必ずエタノール
オキシドールの酸化作用はグルコース測定に干渉します。
器具・環境表面の消毒
→ エタノールが便利
速乾性があり、金属や樹脂にも使用しやすい。
使用上の注意と安全管理
エタノールの保管・管理
・火気厳禁
・揮発防止のため密閉
・高温・直射日光を避ける
オキシドールの保管・管理
・密閉容器に保管(酸素放出を防ぐ)
・光で分解しやすいため遮
・開封後は早めに使用
患者説明のポイント
患者さんに説明する際は、「刺激性」「漂白作用」「用途の違い」を明確に伝えましょう。
例:
傷の消毒であればオキシドールで洗浄は可能ですが、そのまま塗り続けると皮膚が白くなったり、治りが悪くなることもあります。血糖測定の前は必ずアルコールを使ってくださいね。
まとめ:エタノールとオキシドールの正しい使い分けを
エタノールとオキシドールは、消毒薬としていずれも古くから使われていますが、用途と効果は全く異なります。
・エタノールは「皮膚・手指の消毒」「器具の消毒」に最適
・オキシドールは「創部の一次的な洗浄」に限定的に使う
・血糖測定にはオキシドールNG、エタノールを使う
・火気や揮発、酸化などリスクを理解する
医療従事者だけでなく、一般家庭でも選択を誤ると感染管理上の問題が生じます。
それぞれの特徴と注意点を理解し、場面に応じて適切に使い分けていきましょう。