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ニューキノロンを第一選択で使っちゃダメ?
公開. 更新. 投稿者:抗菌薬/感染症.この記事は約7分59秒で読めます.
4,567 ビュー. カテゴリ:ニューキノロンの選択
耐性菌の問題からニューキノロンはエンピリック治療の第一選択としないのが標準です。
それでもニューキノロンを使うべきケースはあります。
日本呼吸器学会の「成人市中肺炎診療ガイドライン」で、慢性呼吸器疾患などの基礎疾患を持つ患者や、PRSP感染が疑われる(尿中抗原検査などで肺炎球菌性肺炎であることが判明しており、65歳以上、幼児との同居、3ヶ月以内のβラクタム剤使用歴などがある)場合などでは、ニューキノロンの処方を認めています。
実際は、多くの場合ニューキノロンを第一選択で使っちゃってますけどね。
ニューキノロン系抗菌薬
抗菌薬は菌をやっつける薬ですね。
抗菌薬には、ペニシリン系やらセフェム系やらマクロライド系やらと、ニューキノロン以外にも色々あります。
ではなぜニューキノロンを選ぶのか。
ペニシリンやセフェムは細胞壁合成阻害が作用機序のため、細胞壁を持たない病原微生物(マイコプラズマなど)には効果が無い。
ニューキノロン系の作用機序は、DNAの複製を阻害すること。
そのため、細胞分裂が出来なくなる。
DNAジャイレースおよびトポイソメラーゼIVの働きを邪魔することで、その作用を発揮します。
原因菌が特定できれば、マクロライド系などでも良いんでしょうけどね。
とりあえず、抗菌スペクトルが広いので、使ってみる系の医師が多いのかな。
マクロライドが効かなきゃニューキノロン、みたいな段階を踏むのが一番良いのでしょうけど、若い人だとなかなか再来してくれないし、高齢者だとそんな悠長なこと言ってられなかったりする。
ニューキノロンの作用機序
ニューキノロン薬の標的は卜ポイソメラーゼであり、その酵素活性を阻害することにより、複製や転写という生命に必須の工程を阻害し、さらにDNAの断片化により細菌を殺菌します。
トポイソメラーゼはDNA単鎖を切断するⅠ型と二重鎖を切断するⅡ型に分類されます。
ニューキノロン薬の標的はⅡ型に属するジャイレースとトポイソメラーゼⅣです。
その標的選択性は菌種および薬剤に依存して変わることが明らかになっています。
ヒトにも対応するトポイソメラーゼは存在しますが、ニューキノロン薬はほとんど活性を示さず、このことにより選択毒性が確保されていると考えられます。
ジャイレースはサブユニットAおよびBが2個ずつ計4量体で形成されています。
サブユニットA はDNAの切断や再結合反応を担い、一方サブユニットBはATPase活性を有し、DNA鎖のねじれ解消を誘導します。
ニューキノロン薬はサブユニットAに作用し、DNAとサブユニットとが共有結合した反応中間体の段階で反応停止に導きます。
ニューキノロンの開発
キノロン系抗菌薬の開発で時代を画したのが、ノルフロキサシンの創製です。
ナリジクス酸とは異なり、グラム陰性菌への抗菌力増強とともに、初めてグラム陽性菌への抗菌スペクトルの拡大に成功しています。
これを契機として以降多数の広域キノロン薬が開発されてきていますが、総称してニューキノロン薬と呼ばれています。
キノロン薬のグラム陰性菌に対する抗菌活性はジャイレーズに対する作用に基づきますが、ニューキノロン薬のグラム陽性菌に対する抗菌活性はトポイソメラーゼⅣへの作用に基づくことが明らかにされています。
初期のニューキノロンは肺炎球菌に対する抗菌力が劣るのが難点でしたが、レポフロキサシンなどのレスピラトリーキノロンと呼ばれる新薬は肺炎球菌にも有効で、呼吸器感染症薬としての地位を確立しています。
また、マイコプラズマやクラミジアなどの異型肺炎原因菌にも有効であることは特筆されます。
ニューキノロン
ニューキノロンとは、合成抗菌薬の系列の一つである。DNAジャイレースを阻害することにより、殺菌的に作用する薬剤である。
キノロン系をもとに人工的に合成・発展させたものであり、作用機序はキノロンと同一である。
また、化学構造からフルオロキノロンとも称される。
キノロン系の歴史といえば、1962年に登場したナリジクス酸がその始まりですが、これは尿路感染症のグラム陰性菌のみをカバーする第1世代のキノロン薬です。
その後、ノルフロキサシンという第2世代のキノロンが開発されました。これは、キノロン骨格にフッ素基を導入したキノロンで、これにより抗菌スペクトルがグラム陰性菌だけでなく、グラム陽性菌にまで拡大されました。
第2世代以降、このフッ素基を導入し、抗菌スペクトルが一気に拡大されたキノロン系薬の開発が進んだわけです。
厳密には、この第2世代以降のキノロン系薬のことをニューキノロン系飲薬(フルオロキノロン系薬)といいます。
キノロン系薬は経口薬でもバイオアベイラビリティは非常に優れており、経口薬でも消化管の機能が正常な患者では、静注薬とほぼ同じ効果が期待できます。
したがって、注射薬から経口薬へのスイッチ療法も可能な薬剤です。
また第2世代以降、組織移行性が良好であるため、前立腺炎の治療にも使われます。
また、キノロン系薬は、人体の細胞内へ十分な量の濃度が移行します。
このことは、いわゆる細胞内寄生菌である非定型病原体(マイコプラズマ、レジオネラ、クラミジアなど)までカバーできるということです。
第3世代以降のキノロン系薬は、呼吸器臓器への高い移行性を持ち、細菌性肺炎の主たる原因菌である肺炎球菌、そして非定型肺炎の原因菌までカバーするといった特徴があるため、近年はレスピラトリーキノロンという概念のもと注目を集めています。
キノロン系薬はいわゆる核酸合成阻害薬で、作用機序は、細菌がDNAを複製・転写する時に関わる酵素であるⅡ型トポイソメラーゼの活性を阻害することで抗菌活性を示します。
グラム陰性菌ではDNAジャイレース、グラム陽性菌ではDNAトポイソメラーゼⅣが重要な作用点です。
細菌の抗菌薬に対する耐性機構には抗菌薬の透過性低下による耐性、作用点の変化による耐性、抗菌薬の分解、修飾による耐性が挙げられますが、この中でもキノロン系薬の耐性は作用点の変化(DNAジャイレース、DNAトポイソメラーゼⅣの遺伝子変異)が大きく関わってきます。
遺伝子変異が蓄積していくことで段階的にキノロン系薬の耐性は進行していて、これは抗菌薬投与中でも起こり、耐性度はどおがんどん上がっていきます。
広域スペクトルを持つキノロン系薬は近年、多くの現場で濫用、乱用されてきた結果、現在の尿路感染症の起炎菌の1つである大腸菌のキノロン系薬耐性率は30%を超えています。残念ながら、もはや単純性尿路感染症の第1選択薬になることはなくなってしまいました。
【第1世代】
ナリジクス酸、ピロミド酸
・主として腸内細菌科のグラム陰性桿菌(大腸菌、クレブシエラ属など)
・緑膿菌への抗菌活性はないので注意
・臓器移行性は悪い
【第2世代】
ノルフロキサシン、エノキサシンなど
・第1世代のスペクトル+緑膿菌活性を合わせる
・ただし、第2世代キノロンでも初期に開発された上記の薬剤は、尿中排泄型であり、あまり血中濃度の上昇は見られない
シプロフロキサシン、パズフロキサシン、オフロキサシン
・ノルフロキサシン、エノキサシンなどの初期型に比べて臓器移行性、血中濃度が十分に高くなり、尿路感染症以外の全身の臓器感染症にも使用可能
・医療関連感染、免疫不全患者における感染症の起炎菌である「SPACE(セラチア、緑膿菌、アシネトバクター、シトロバクター、エンテロバクター)」をカバーすることを覚えておく
・抗緑膿菌活性はシプロフロキサシンが一番強いため、GNRをカバーするためだけならこの世代のキノロンで十分
【第3世代】
レボフロキサシン、トスフロキサシン
・第2世代に比べて、グラム陽性菌(肺炎球菌、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)への抗菌活性が上がっている
・「レボフロキサシンの抗菌スペクトル=シプロフロキサシンのスペクトル+肺炎球菌をカバー」と覚えておく。ただし、抗緑膿菌活性はシプロフロキサシンより劣る
ガレノキサシン、モキシフロキサシン、シタフロキサシン(レスピラトリーキノロン)
・2005年以降に登場してきた第3世代のニューキノロン。第2世代に比べて、緑膿菌への活性は下がっているが、グラム陽性菌への活性はさらに上がり、嫌気性菌への活性もあるため、呼吸器感染症への適応が広がった。なお、軽症~中等度の腹腔内感染症にも使える
【MIC、MPC、MSW】
近年、抗菌薬の有効性と耐性菌出現を抑制するという観点で、MICのほかに mutant prevention concentration(MPC:耐性菌出現も阻止できる濃度)や、 mutant selection window (MSW:耐性菌のみが選択されてしまう濃度域)という概念があります。
これはMPCを超える濃度で投与することができれば、耐性菌の出現も抑えることができるとされていますが、MICとMPCの狭間であるMSWの濃度域では、通常の菌は殺菌されるが耐性菌は生き残り、結果耐性菌のみが選択されてしまうという概念です。
したがって、有効性と耐性菌出現を抑制する観点で、MPCやMSWの概念も考慮した投与設計を行うとすると、短時間でMSWの濃度域を通過してMPCの濃度域を超えるような設計が必要になります。
レボフロキサシンは現在、500mgが1日1回投与というのが当たり前ですが、実は以前までは100mg製剤で1日3回投与でした。
これが500mgの1日1回投与へ変更されたのも、PK/PD理論の導入はもちろんのこと、MPCやMSWといった耐性菌出現抑制を考慮した投与法を体現した結果というわけです。
よって、キノロン系薬を使用する場合、中途半端な量を使っては有効性どころか、容易に耐性菌を出現させてしまうのです。
使用すると決めた際は、許される量の中で最大限の量を用いて、MICだけでなく、MPC、MSWを意識し耐性菌出現を抑制することを目指した投与設計を心掛けます。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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