2025年5月11日更新.2,473記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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1型糖尿病に適応のある経口糖尿病用薬

インスリン依存と1型糖尿病の関係

糖尿病治療において、「この患者は1型?それとも2型?」と悩む場面は案外多いものです。実際、糖尿病患者の約95%は2型糖尿病で、1型糖尿病はわずか5%程度とされています。

しかし、処方されている薬剤を見ることで、ある程度の判断がつくケースがあります。

かつては「インスリン依存型糖尿病(IDDM)」「非インスリン依存型糖尿病(NIDDM)」という分類が用いられていました。IDDMは現在の1型糖尿病に近く、膵β細胞が自己免疫により破壊されてインスリン分泌が枯渇します。一方のNIDDMは主に2型糖尿病を指し、インスリン分泌不全やインスリン抵抗性を主因とするものです。

1型糖尿病2型糖尿病
割合およそ5%およそ95%以上
成因主に自己免疫を基礎とした膵β細胞の破壊インスリン分泌低下、インスリン抵抗性
病態主にインスリン依存状態(絶対的なインスリン欠乏)⇒生命維持にインスリン治療が不可欠主にインスリン非依存状態(相対的なインスリン不足)⇒生命維持にインスリン治療は必須ではない
インスリン抵抗性なしあり(程度は様々)
発症年齢若年期に多い(中高年でも認められる)40歳以上に多い(近年は若年発症も増加している)
肥満との関係性関係性はない肥満、または肥満の既往が多い
家族歴血縁者における糖尿病は、2型糖尿病より少ない血縁者にしばしば糖尿病を認める
症状の進行多くの場合、急激に症状があらわれる進行するにつれて緩徐に症状があらわれる
昏睡糖尿病ケトアシドーシスが多い高浸透圧高血糖症候群が多い

ただし、「1型=インスリン依存、2型=インスリン非依存」という区分は完全ではありません。1型糖尿病でも一時的に内因性インスリン分泌が保たれる例(緩徐進行1型糖尿病など)もあり、2型糖尿病でも進行とともにインスリン療法が必要になることがあります。

1型糖尿病に適応のある経口糖尿病薬

多くの経口糖尿病治療薬は、2型糖尿病にしか適応がありません。
・SU剤(例:アマリール):1型糖尿病は禁忌。インスリン分泌能が前提。
・速効型インスリン分泌促進薬:同上。
・メトホルミン(メトグルコ):2型のみ適応。
・ピオグリタゾン(アクトス):2型のみ。
・DPP-4阻害薬(例:エクア):添付文書上は1型糖尿病に禁忌。

一方、
・αグルコシダーゼ阻害薬(例:ボグリボース)
・SGLT2阻害薬(一部)
は1型糖尿病にも適応があります。

SGLT2阻害薬の適応症は以下の通り。

SGLT2阻害薬効能効果
スーグラ2型糖尿病、1型糖尿病
フォシーガ2型糖尿病、1型糖尿病
ルセフィ2型糖尿病
アプルウェイ2型糖尿病
デベルザ2型糖尿病
カナグル2型糖尿病
ジャディアンス2型糖尿病

SGLT2阻害薬はインスリン非依存的に血糖を下げる作用があり、1型糖尿病においてもインスリンとの併用で血糖コントロールの改善が期待されます。ただし、重症低血糖やケトアシドーシスのリスクがあり、適応がある薬剤は限られます。

αグルコシダーゼ阻害薬は、食後高血糖の抑制に有用であり、インスリン非依存的に作用するため、1型糖尿病にも有効性が認められています。

また、添付文書上では1型糖尿病に禁忌とされるDPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬ですが、近年、緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)においては、膵β細胞の温存作用や免疫修飾作用、さらにはグルカゴン抑制・胃排泄抑制といったインスリン非依存的な作用が注目されており、慎重な併用での可能性が模索されています。

現実的には、1型糖尿病と診断された時点でインスリン療法が基本となるため、これらの内服薬が使用される機会はほとんどありません。ただし、今後の研究や緩徐進行例へのアプローチ次第では、適応の拡大や見直しもあり得るかもしれません。

1型糖尿病=インスリン依存状態、とは限らない
一部の経口糖尿病薬(α-GI、SGLT2阻害薬)は1型糖尿病にも適応あり
DPP-4阻害薬やGLP-1作動薬は禁忌だが、研究は進行中
薬剤選択から病型を推測する際は、「禁忌」や「適応」の背景を理解することが重要

糖尿病治療は個別化が進む時代。1型と2型、インスリン依存と非依存の区分を越え、病態に合わせた柔軟な対応が求められています。

薬剤師

薬剤師の人たちって、どうやって勉強してるんだろう…

先生

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