2025年9月11日更新.2,622記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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シックデイのときに中止する薬

シックデイは血糖値が上がりやすい?

シックデイで食事ができなければ、血糖値も上がることは無いと思いがちですが、実際は生体防御反応の結果高血糖になる危険性が高まる。

シックデイでは、発熱、感染、外傷などのストレスにより、グルカゴン、成長ホルモン、エピネフリンといったインスリン拮抗ホルモンの分泌が増加する。
これにより肝での糖新生が促進され糖利用が減少し、インスリンの分泌が抑制される。
さらに炎症性サイトカインの増加もインスリン抵抗性の増大やインスリン分泌の抑制を引き起こし、結果として、食事摂取量が減少しても高血糖となりやすい。

しかも脂肪分解の亢進状態にあり、ケトン体が血中に蓄積されてケトーシスを起こすと、食欲不振や消化器症状が悪化する。
これらの糖代謝の変化に加え、発熱による発汗、下痢・嘔吐や食事摂収量の減少から脱水を来すと、一層高血糖は悪化し、高血糖性高浸透圧昏睡を発症しやすくなる。

シックデイと薬物療法

食事摂取量が減少すると服薬を全く中止してしまう患者さんもいるので、注意が必要です。

シックデイでは高血糖となりやすい状態にあるため、食事摂取が可能であれば薬物療法を中止しないのが一般的です。

しかし逆に、糖代謝の変化が軽微な状態で食事摂取量が低下した場合は、通常量の薬剤を服薬し続けることにより重度の低血糖を起こすこともある。

判断が難しい場合には医師への連絡と対応が必要になる。

経口薬服用中の2型糖尿病患者の場合、特に注意が必要なのが、SU薬、SGLT2阻害薬、ビグアナイド(BG)薬の3剤です。
SU薬は低血糖の発症リスクが高いためですが、残りの2剤は、主に脱水によるリスクを回避する必要があるためです。
αグルコシダーゼ阻害薬、インスリン抵抗性改善薬も消化器症状に影響を与える可能性があり、中止になることが多い。

シックデイと内服薬

①インスリン分泌促進薬(SU薬、グリニド系薬):食事量が1/2程度であれば半量に、食事量が1/3以下の時は服用を中止する。

②αグルコシダーゼ阻害薬:消化器系に影響を及ぼすため中止する。

③ビグアナイド薬:脱水時に重篤なアシドーシスを来す可能性がある。シックデイ時は中止する。

④DPP-4阻害薬:食事が全く摂れない場合や下痢・嘔吐が続く場合は中止する。通常通り食事が摂れている場合は継続可能である。

⑤チアゾリジン薬:食事が摂れない場合は中止。食事が摂れるようであれば継続可能である。

⑥SGLT2阻害薬:脱水を来しやすく、ケトン体の上昇も危惧される。インスリン分泌促進薬との併用により低血糖を生じやすいこともあり、中止する。

⑦GLP-1受容体作動薬:消化器症状があるときや食事量が1/2以下であるときは中止する。血糖を測定し、高値であればインスリン療法への切り替えも考慮する。

薬効分類シックデイ時の対応
SU薬血糖値に関わらず強制的に血糖降下作用を発揮するため低血糖のリスク大。
食事量に合わせて調整が必要。
速効性インスリン分泌促進薬
αーGI薬継続は可能であるが、無理に継続しなくてもよい。
消化器症状の副作用頻度が高い薬剤であるため、消化器症状を有する場合には中止。
BG薬シックデイが下痢や嘔吐などの消化器症状が中心であれば中止。
脱水、低酸素など重症例では乳酸アシドーシスのリスクが上がるため中止。
チアゾリジン薬継続可能であるが、無理に継続しなくてもよい。
イメグリミン作用機序からはシックデイ時に中止の必要性はないかもしれないが、副作用の出方などが不明。
DPP-4阻害薬血糖値に依存して作用するため、内服を続けても問題はないが、食事量が低下しているときには効果が期待できないため中止してもよい。
SGLT2阻害薬利尿作用が強いことから、脱水のリスクが高いシックデイ時には中止が基本。
ただし、糖尿病以外に慢性腎臓病、心不全の治療で内服していることもあり自己判断での中止や減薬はしないほうがいい。
GLP-1受容体作動薬消化器症状の副作用頻度が高い薬剤であること、食事量が少ない状況では効果が期待できないことから中止を考慮。

シックデイとインスリン

シックデイと1型糖尿病患者
1型糖尿病患者の場合、基礎インスリン(中間型・持効型インスリン)は食事が摂れないときでも原則減量せずに継続する。
追加インスリンの量は、食事がいつもの半分程度である場合、5割から開始する。
食事がより少量であるときは、普段の3~5割のインスリンを使用する。
食事量がよくわからないときは食直後超速効型インスリン注射を行うこともある。
最低でも1日4回(各食前、就寝前)の血糖を測定する。
可能であれば食後2時間の血糖値も確認し、追加インスリン量を増減する。

シックデイと2型糖尿病患者
内因性インスリン分泌が枯渇している患者に対しては1型糖尿病患者に準じた対応をする。
インスリン分泌がある程度保たれている2型糖尿病患者のインスリン治療としては、BOT(Basal Supported Oral Therapy:持効型インスリン製剤1回注射と経口薬の併用療法)が多いと思われる。
この場合の基礎インスリン量は、食事が摂取できる場合は減量して継続してもよいが、食事が全く摂れないときは低血糖を回避するために中止する場合もある。

シックデイ時の(超)速効型インスリン量増減の目安

食事量インスリン投与量
100~80%全量
80~50%2/3量
50%以下1/2量~中止
10%以下中止

血糖(BS)値に合わせたインスリン調整

血糖値インスリン調整量
BS<704単位減量
70≦BS<1202単位減量
120≦BS<200増減なし
200≦BS<2502(1)単位増量
250≦BS<3004(2)単位増量
300≦BS<3506(3)単位増量
350≦BS<4008(4)単位増量
400≦BS10(5)単位増量

シックデイとは

「シックデイ」とは、糖尿病患者が感染症や消化器疾患、外傷、ストレスなどで体調を崩し、発熱・下痢・嘔吐・食欲不振などにより食事が十分に摂れなくなった状態を指します。

このようなときは、普段どおりの血糖コントロールが難しくなり、高血糖や脱水、ケトーシスなどを起こしやすいため注意が必要です。

シックデイで起こる体の変化

高血糖になりやすい
・「食べられないのだから血糖は下がるはず」と考えがちですが、実際は逆です。
・体が病気やストレスにさらされると、アドレナリン・ノルアドレナリン・グルカゴン・糖質コルチコイド・成長ホルモンといった「インスリン拮抗ホルモン」が分泌され、血糖を上昇させます。
・炎症性サイトカインもインスリンの効きを悪くし(インスリン抵抗性の増加)、さらに血糖は上がりやすくなります。

ケトーシス・ケトアシドーシスのリスク
・食事摂取が減ると糖が不足し、体脂肪の分解が亢進します。
・その結果、ケトン体が増加してケトーシスを起こし、重症化すると糖尿病性ケトアシドーシスに進展します。

脱水が進む
・発熱や発汗、下痢・嘔吐による体液喪失に加え、高血糖による浸透圧利尿でも水分と電解質が失われます。
・脱水と高血糖が重なると、2型糖尿病では高浸透圧高血糖症候群(HHS)を引き起こすことがあります。

低血糖になることもある
・食欲不振で摂取量が減っているのに、薬を普段どおり内服すると重度の低血糖になる場合もあります。
・逆に、自己判断で薬をすべて中止してしまうと、今度は高血糖に陥ります。

シックデイルール(基本対応)

シックデイへの対応をまとめたものはシックデイルールとよばれる。
シックデイに備えて、糖尿病患者と家族は「シックデイルール」を医師に確認しておくことが大切です。

食事と水分
・絶食は避ける。おかゆ・うどん・スープなど消化の良い炭水化物を少量ずつでも摂取する。
・食欲があるときは腹八分目を意識する。
・水分は多めに摂り、経口補水液などで電解質も補給する。

インスリン・薬物療法
・インスリンは中止しない:基礎インスリンは必ず継続する。
・経口薬:
  食事量が通常の1/2以上 → 通常通り
  1/3以下 → 薬によっては減量・中止が必要
  SU薬・SGLT2阻害薬・ビグアナイド薬は特に注意
  αグルコシダーゼ阻害薬は食事量が少ない場合には中止推奨。

血糖・尿ケトン測定
・血糖は3〜4時間ごとに自己測定。
・200mg/dLを超えてさらに上昇傾向があれば、速効型インスリンを追加投与する場合もある(必ず主治医の指示に従う)。
・尿ケトン体も可能であれば測定する。

脱水予防
・経口補水液や水分をこまめに摂る。
・嘔吐や下痢で摂取困難なときは点滴補液が必要になる。

医療機関を受診すべきサイン

以下のような場合は、自己対応せず早めに医療機関を受診することが推奨されます。
・強い発熱や消化器症状がある
・24時間以上、食事や水分が摂れない
・血糖値が350mg/dL以上、または尿ケトン体が強陽性
・意識がもうろうとする
・インスリン量や服薬調整が自分でできない

まとめ

・シックデイは、糖尿病患者が体調を崩し食事が摂れないときに起こる特殊な状態。
・食事摂取量が減っても高血糖やケトーシスを起こしやすく、脱水も重なって命に関わることがある。
・「シックデイルール」を理解し、食事・水分・薬・血糖測定の基本対応を守ることが重要。
・状態が悪化したときは迷わず医療機関を受診する。

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