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エンレストとACE阻害薬は併用禁忌?
公開. 更新. 投稿者:高血圧.この記事は約6分3秒で読めます.
9,825 ビュー. カテゴリ:エンレストとACE阻害薬は併用禁忌?
エンレストってバルサルタンの仲間じゃないの?
エンレストの併用禁忌に、
アンジオテンシン変換酵素阻害薬(アラセプリル、イミダプリル塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、ペリンドプリルエルブミン、リシノプリル水和物)を投与中の患者、あるいは投与中止から36時間以内の患者
と記載されている。
併用禁忌であり、しかも「投与中止から36時間以内の患者」に禁忌という厳しめの設定。
「36時間空ける」ということは、ACE阻害薬からエンレストへの切り替え、逆にエンレストからACE阻害薬への切り替え時には1日空けるということだ。24時間でも血中濃度かなり下がってるから、大丈夫な気もするが…
エンレストの成分は、サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物であり、中にバルサルタンが含まれる構造である。そのため、AⅡ受容体拮抗薬やARBとの併用には注意が必要であることはわかる。でも、ARBとは併用禁忌ではない。
また、本家のバルサルタンはACE阻害薬とは併用禁忌ではなく、併用注意である。
エンレストがACE阻害薬と併用禁忌の理由としては、以下のように書かれている。
併用により相加的にブラジキニンの分解を抑制し、血管浮腫のリスクを増加させる可能性がある。
エンレストは、重大な副作用である血管浮腫の割合が0.2%とやや多いようだ。
AⅡ受容体拮抗薬は、ブラジキニンには影響せず、咳の副作用もないので、エンレストと併用禁忌ではなく併用注意止まりである。
エンレスト中のサクビトリルは、ネプリライシン阻害薬であり、ネプリライシンはペプチダーゼなのでタンパク質(酵素等)を分解する働きがある。そのため、サクビトリルがブラジキニンの分解を阻害して、血中濃度を上げてしまい、血管浮腫のリスクが増加するわけだ。
また、エンレストはブラジキニン濃度を上昇させるため、ACE阻害薬同様、咳の副作用を生じる可能性がある。
エンレストでBNP上昇?
心不全が悪化すると、増加するマーカーとしてBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)がありますが、エンレストの投与により、BNPが上昇します。
本剤の薬力学的作用により本剤投与後にネプリライシンの基質であるBNPの上昇がみられることから、本剤投与後にBNPを測定する際は値の解釈に注意すること。
ネプリライシンはBNPを分解するため、ネプリライシン阻害薬であるサクビトリル投与によりBNP上昇する可能性がある。
同じようなマーカーとしてANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)というのもあるが、同様にエンレスト投与により上昇する。
ANPは心房に負荷がかかった時に、BNPは心室に負荷がかかった時にそれぞれの筋細胞から分泌される。
BNPがなぜ心筋性ナトリウム利尿ペプチドではなく、「脳性」ナトリウム利尿ペプチドなのか、という点が気になるが、BNPが豚の脳内から発見されたからということらしい。
BNPには、ナトリウム利尿作用、血管拡張作用があり、心保護作用がある。
心不全になると血中BNP濃度が上昇するが、これは心臓を守るために上昇しているわけだ。エンレストによりBNPを上昇させるのも心臓を守るため。
エンレストによる心不全モニタリングにはBNPではなく、NT-proBNPが使われる。
エンレストと血管浮腫
エンレストの重大な副作用に血管浮腫があり、まれに気道閉塞につながる血管浮腫が現れることがある。
NEP(ネプリライシン)はブラジキニンの分解にも関与するため、sacubitrilatのNEP阻害作用により血中ブラジキニンが上昇し、血管拡張や血管透過性が亢進され、血管浮腫が起こると考えられる。
エンレストとACE阻害薬
エンレスト錠の成分は、サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物という「アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)」に分類される薬である。以下のようにサクビトリル(ネプリライシン阻害薬)とバルサルタン(ARB)がくっついた構造式である。
ネプリライシンはナトリウム利尿ペプチドを分解する酵素です。心不全の診断指標としてBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)という検査値がありますが、ネプリライシン阻害薬の投与で上昇します。添付文書にも、臨床検査結果に及ぼす影響として「本剤の薬力学的作用により本剤投与後にネプリライシンの基質である BNPの上昇がみられることから、本剤投与後に BNP を測定する際は値の解釈に注意すること。」と記載されています。心不全の薬で心不全の検査値が悪化するということになります。BNP自体はその名の通り利尿作用があり、心不全の病態を改善する働きがあります。
エンレストは心不全治療薬のファンタスティック・フォー(β遮断薬、アルドステロンブロッカー、ARNI、SGLT2阻害薬)にも挙げられる心不全治療薬であるが、構造にバルサルタン(ARB)を含む高血圧治療薬でもある。
配合剤ではないが、サクビトリルとバルサルタンが体内で解離して働くので、ARBの配合剤と見なせる。エンレスト錠50㎎は「サクビトリル24.3mg及びバルサルタン25.7mgに相当」、100㎎は「サクビトリル48.6mg及びバルサルタン51.4mgに相当」、200㎎は「サクビトリル97.2mg及びバルサルタン102.8mgに相当」となっている。バルサルタン錠の規格が20㎎、40㎎、80㎎、160㎎とあり、通常用量が40~80mgなので、バルサルタン錠を投与するのと遜色のない用量である。
このエンレストの併用禁忌には、「アンジオテンシン変換酵素阻害薬(アラセプリル、イミダプリル塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、ペリンドプリルエルブミン、リシノプリル水和物)を投与中の患者、あるいは投与中止から36時間以内の患者」と「アリスキレンフマル酸塩を投与中の糖尿病患者(ただし、他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く)」という記載がある。
ACE阻害薬とARBの併用療法は、まれに行われることがあり、併用禁忌ではなかった。しかし、エンレストとACE阻害薬の併用は禁忌となっている。ちなみに、エンレストとARBの併用は併用注意なのである。エンレストとバルサルタンの併用は禁忌ではない。しかし、そんな処方を見たら確実に疑義照会はするだろう。また、バルサルタンとACE阻害薬の併用も禁忌ではなく、併用注意である。
エンレストとACE阻害薬が併用禁忌である原因はバルサルタンではなく、サクビトリルにある。
ACE阻害薬と血管浮腫
しかし、降圧剤の併用についてはよく見られる処方であるし、ARBとACE阻害薬の併用についても各ARB、ACE阻害薬の増量以上のリスクを考えることはあまりなかった。なぜエンレストはACE阻害薬と併用禁忌という扱いなのか?
ARBとACE阻害薬は同じレニン-アンジオテンシン系に働くので相加的に副作用のリスクが上がる。
エンレストがACE阻害薬と併用禁忌の理由は、添付文書に「併用により相加的にブラジキニンの分解を抑制し、血管浮腫のリスクを増加させる可能性がある。」と書かれている。エンレストは、重大な副作用である血管浮腫の割合が0.2%とやや多いようだ。血管浮腫の原因としてブラジキニンが挙げられている。ブラジキニンといえば、ACE阻害薬による空咳の原因としても有名である。
ACE(アンジオテンシン変換酵素)は、アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡへの変換を促すだけでなく、ブラジキニンの分解も促す。そのため、ACE阻害薬によってブラジキニンの分解が阻害され、空咳や血管浮腫が生じる。
ARB(AⅡ受容体拮抗薬)は、作用機序的にはブラジキニンには影響しないので、「併用により相加的にブラジキニンの分解を抑制」というのはサクビトリルが原因である。
エンレスト中のサクビトリルは、ネプリライシン阻害薬であり、ネプリライシンはペプチダーゼなのでタンパク質(酵素等)を分解する働きがある。そのため、サクビトリルがブラジキニンの分解を阻害して、血中濃度を上げてしまい、血管浮腫のリスクが増加する。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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1 件のコメント
かゆい所に手が届く、大変分かりやすく簡潔な記事でした。ありがとうございました。