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ミラーボックスで片麻痺が治る?
公開. 更新. 投稿者:脳梗塞/血栓.この記事は約3分12秒で読めます.
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ミラーボックスで片麻痺が治る?―幻肢痛からリハビリへの応用まで

脳梗塞や脳出血など、脳血管障害の後遺症として生じる片麻痺。
一度失われた運動機能をどこまで回復できるのか、多くの方が不安や焦りを抱える中で、「ミラーボックス療法」というユニークなリハビリ手法が注目されています。
もともとは幻肢痛(げんしつう)という特殊な症状の治療に用いられたものですが、近年では片麻痺のリハビリにも応用され、研究が進んでいます。
幻肢痛とは?ミラーボックス療法のはじまり
幻肢痛とは、すでに失われた手足に対して「まだあるように感じる」だけでなく、強い痛みが残るという状態です。
腕や脚を切断した後に、「存在しないはずの手が痛い」と訴えるケースがあります。
この不可解な痛みに対して画期的な治療を提案したのが、インド出身の神経科医 ラマチャンドラン博士です。
ミラーボックスとは?
ラマチャンドラン博士が考案した「ミラーボックス」は、内部に鏡が仕込まれた箱型の装置です。
片側の正常な手(例:右手)を鏡に映し、
その反射像を、失った側の手(例:左手)が存在するかのように見せる
これにより、視覚的には両手が揃っているように見え、「グーパー運動」などを行うことで脳が「左手も動いている」と錯覚し、幻肢痛が軽減されるという効果が報告されました。
ミラーボックスは片麻痺リハビリにも応用されている
この視覚と脳のつながりを利用したミラーボックス療法は、脳卒中後の片麻痺にも応用されています。
◆鏡を使って「麻痺していないように見せる」:
たとえば、左脳の梗塞で右半身が麻痺した場合:
・左手(非麻痺側)を鏡の前で動かす
・鏡に映った動く左手が、あたかも右手が動いているように錯覚させる
・この「動いている」という視覚情報が脳にフィードバックされる
この仕組みにより、麻痺側の運動をつかさどる神経ネットワーク(運動野)が刺激され、回復を促す効果が期待されています。
◆エビデンスと課題:
・一部の研究では、ミラーボックス療法が運動機能や感覚機能の回復をサポートすると報告されています。
・ただし、効果の程度には個人差があり、重度の麻痺や感覚障害が強い場合は効果が限定的なケースもあります。
麻痺と失語症:脳の左右で起こる違い
脳卒中の症状は、どの部位に障害が生じたかによって大きく異なります。特に、左右の脳のどちらが損傷したかは重要な意味を持ちます。
◆麻痺の現れ方
・左脳に障害 → 右半身に麻痺
・右脳に障害 → 左半身に麻痺
これは、脳の運動命令が交差して末梢へ伝わるためです。
ただし、顔面の麻痺は左右が逆にならず、障害側と同じ側に出やすいという点は意外に知られていません。
右片麻痺なら失語症が出る?
「右片麻痺なら失語症」と聞いたことがあるかもしれませんが、これは「左脳に障害がある」という間接的な情報です。
◆言語機能と脳の位置関係:
・右利きの約99%は、言語を司る「言語野」が左脳にある
・左脳の障害で右片麻痺が起こると、失語症を伴うことが多くなる
一方で、左利きの人は約2/3が左脳優位ですが、残りの1/3は右脳や両側に言語野があるとされます。
したがって、左利きでも左脳の損傷で失語症になる可能性は十分あります。
女性は失語症からの回復が早い?
一部の研究では、女性は男性よりも言語機能の回復が早いとされる報告もあります。
その理由として、
・女性の脳は左右の脳の連絡通路(脳梁)が太く、左右連携が強い
・左脳の損傷を右脳が補いやすいという仮説
などが挙げられています。
ただし、回復の早さは年齢や脳損傷の範囲、リハビリ開始のタイミングなども大きく関係するため、性差のみで語るのは難しいのが実情です。
まとめ:ミラーボックスは脳の「錯覚」を味方にするリハビリ
ミラーボックス療法は、幻肢痛の治療として生まれた技術が、片麻痺のリハビリへと広がった好例です。
鏡を使って「動いている」と脳に誤解させることで、神経回路を再活性化するというユニークな発想が、多くの臨床現場で実践されています。
もちろん、すべての患者に有効というわけではありませんが、「脳は視覚情報によっても動かされる」という点は、リハビリの可能性を広げるヒントになるかもしれません。
失語症や麻痺といった後遺症への理解を深めるうえでも、脳の構造と機能の左右差を知っておくことは重要です。