2025年7月2日更新.2,508記事.

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カラゲニンの安全性とは?食品添加物と医薬用途でのリスク

カラゲニンの安全性とは?食品添加物と医薬用途でのリスク

カラゲニン(carrageenan)は、海藻由来の多糖類であり、食品添加物や医療研究で非常によく登場します。ゼリーのゲル化剤、ヨーグルトの増粘剤、加工肉の保水剤、そして動物実験での炎症誘発モデルとして、実に多用途で使われている成分です。しかし、一方でカラゲニンの安全性については一部で議論も存在します。カラゲニンの用途、安全性に関する科学的知見、国際的な評価、リスク管理について勉強します。

カラゲニンとは?

カラゲニンは、紅藻類(海藻、特にギグアルタ科)から抽出される硫酸化多糖類です。構造上はガラクトースが硫酸基と結合した長鎖分子で、種類によってカッパカラゲニン、イオタカラゲニン、ラムダカラゲニンなどのサブタイプに分類されます。

【特徴的な機能】
・強いゲル化作用(特にカッパ型)
・増粘作用
・安定化作用(離水防止など)
・保水性向上

これらの特徴により、食品・医薬品・化粧品・工業製品まで幅広く利用されています。

カラゲニンの用途

カラゲニンは以下のような幅広い用途があります。

【食品添加物】
・ゼリー、プリン、ヨーグルト、ホイップクリーム、アイスクリーム
・ハム、ソーセージ、練り製品
・コーヒー飲料、豆乳飲料、ドレッシング、ソース
・嚥下補助ゼリー、介護食

【医療・医薬品研究用途】
・炎症モデル(動物実験でのカラゲニン誘発浮腫モデル)
・薬剤のゲル基材、粘度調整基材

【化粧品用途】
・増粘安定剤(乳液、クリーム、シャンプー等)

炎症モデルとしてのカラゲニン使用

医薬品開発の基礎研究では、カラゲニンは「炎症誘発物質」として頻用されます。ラットの足底にカラゲニンを注射することで急性浮腫を誘発し、抗炎症薬の効果を測定するモデル(カラゲニン誘発足蹠浮腫試験)が古典的に使用されてきました。

このモデルが重宝される理由は以下の通りです。
・炎症発現の再現性が高い
・時間経過で段階的に炎症因子が変化
・プロスタグランジン経路が関与しNSAIDsの効果が明瞭に出る

この「炎症誘発能」が知られているために、一部ではカラゲニンの食品安全性にも疑念が向けられることがあります。

食品添加物としての安全性評価

食品用途でのカラゲニン使用量はごく少量です。しかも経口摂取されるカラゲニンは消化管内でほとんど吸収されず、大部分は便中に排泄されます。

【国際機関の評価】
● FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA):
→ 食品用途での安全性を確認し、許容一日摂取量(ADI)は「設定不要(無害量)」と評価。

● 欧州食品安全機関(EFSA):
→ 一般食品用途では安全と認めるが、乳児用粉ミルクでは懸念から使用制限。

● 日本食品衛生法:
→ 食品添加物(増粘多糖類)として使用認可。

分子量による安全性の違い

カラゲニンの安全性議論で重要なのは「分子量」です。

【高分子カラゲニン(未分解型)】
・通常の食品添加物に用いられる形態
・吸収性が低く、腸粘膜を通過しにくい

【低分子カラゲニン(degraded carrageenan, ポリガラクトース硫酸)】
・分子量低下により生体吸収されやすくなる
・動物実験で腸炎や腸バリア障害が報告
・工業的製造過程や加水分解処理で生じる可能性

食品添加物規格では高分子カラゲニンのみが認可されており、低分子化された製品は含まれないよう厳格に管理されています。

ヒトへの影響は?

【通常の摂取での有害事例】
現時点で、一般的な食品添加物規格のカラゲニンを日常的に摂取して健康障害が起こった確定的事例は報告されていません。

【長期摂取・高用量摂取での議論】
一部の研究では、長期の高用量経口投与で腸粘膜の軽微な炎症マーカー上昇を報告する動物実験があります。ただしこれらはヒトの日常摂取量とはかけ離れた用量での実験です。

潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病など炎症性腸疾患(IBD)の患者において、腸バリア障害を悪化させる可能性を示唆する報告もありますが、まだ決定的ではありません。

表示上のわかりにくさ

日本の食品表示制度では、カラゲニン単体名での表示義務はなく、多くの場合は「増粘多糖類」「ゲル化剤」「安定剤」といった一括名で表記されます。そのため、消費者が成分表示からカラゲニンの有無を正確に把握するのは難しいのが現状です。

医薬品添付文書における安全性記載

医薬品の賦形剤やゲル基材としてカラゲニンが含まれる場合、添付文書の【原材料名】や【添加物】欄に明記されることがあります。ただし、経口薬の添加物として使われるケースは比較的少なく、主に局所用ゲル製剤などに用いられる傾向です。医薬用途でのカラゲニン使用量は非常に微量であり、通常は重篤な安全性懸念は報告されていません。

炎症モデルでの使用と食品用途は別問題

カラゲニンの炎症誘発性がよく誤解を生む部分ですが、以下の違いを整理しておくことが重要です。

用途投与経路用量リスク
動物実験皮下注射数mg〜数十mg急性炎症誘発
食品添加物経口摂取微量(mg単位/日)吸収低・一般に安全

つまり、皮下注射で炎症を誘発する実験モデルと、経口で微量摂取する食品用途は生体内での挙動が大きく異なるという点がポイントです。

カラゲニンを避けたい人はどうすべきか?

カラゲニンに対して過敏な消費者も一定数存在します。完全に避けたい場合、以下の対策が考えられます。

・「増粘多糖類」「ゲル化剤」「安定剤」と表示された加工食品を極力避ける
・ゼリー・プリン・乳飲料・加工肉・ドレッシング類は注意
・寒天・ゼラチン使用商品を選ぶと比較的安全
・メーカーによってはカラゲニンフリーを明記している製品もある

まとめ

カラゲニンは長年利用実績のある食品添加物であり、国際的にも高分子型カラゲニンは一般用途での安全性が支持されています。一方、分子量が低下した場合や高用量長期摂取時の潜在的リスクについては今後も議論が続く可能性があります。

食品添加物の安全性は「用法・用量・経路・体質による影響」を正しく理解して判断することが重要です。医療従事者や薬剤師としても、こうした最新知見を整理して患者指導や健康相談に役立てていく姿勢が求められます。

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