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ベタニスと抗コリン薬を併用してもいい?
公開. 更新. 投稿者:前立腺肥大症/過活動膀胱.この記事は約5分4秒で読めます.
10,504 ビュー. カテゴリ:β3刺激薬と抗コリン薬の違い
ベタニスは、既存の抗コリン薬とは異なる作用機序を有する新規OAB治療薬です。
抗コリン薬は膀胱のムスカリン(M)受容体に結合して膀胱の異常な収縮を抑制しますが、ベタニスは膀胱のβ3アドレナリン受容体に結合し、弛緩作用を増強し、膀胱容量を増大させてOAB症状を改善します。
作用機序が異なるため、ベタニスでは抗コリン薬に特徴的な口内乾燥、便秘、排尿困難等の副作用が起こりにくいのが特徴です。
とはいえ、便秘や口内乾燥の副作用頻度は1~5%と高めであるため、注意が必要です。
抗コリン薬 | β3受容体刺激薬 | |
---|---|---|
一般名 | プロピベリン、オキシブチニン、ソリフェナシン、フェソテロジン、イミダフェナシン、トルテロジン | ミラベグロン |
作用機序 | ムスカリン性アセチルコリン受容体(M3)遮断による膀胱平滑筋収縮抑制 加えて、Ca拮抗作用による直接的な膀胱平滑筋弛緩(プロピベリン、オキシブチニン) | β3受容体刺激による膀胱平滑筋弛緩促進 |
副作用 | 口渇、便秘、腹痛、緑内障発作、眼圧上昇、尿閉など | 便秘、口渇など(抗コリン薬よりも発現率は低い) |
禁忌 | 尿閉、腸閉塞、重篤な心疾患、閉塞隅角緑内障、重症筋無力症など | 抗不整脈薬との併用、妊婦、授乳婦、重篤な心疾患 |
備考 | 排尿期の膀胱収縮も抑制するため、排尿障害を有する患者では、排尿困難や尿閉の発生に注意する 特に高齢者では副作用に注意する | 排尿期の膀胱収縮は抑制しないことが示唆されている。 抗コリン薬投与患者で、口渇や便秘などの副作用のため、内服継続困難な場合に用いることができる。 |
ベタニスと抗コリン薬の併用
2018年9月に過活動膀胱治療薬のベタニス錠(ミラベグロン)の添付文書が改訂され、重要な基本的注意に記載の「抗コリン剤との併用」に対する注意内容が緩和されました。
これまでは、「併用は避けることが望ましい」とされていましたが、「過活動膀胱の適応を有する抗コリン剤と併用する際は尿閉などの副作用の発現に十分注意すること」に改訂されました。
ベタニスと同様の作用機序をもつβ3刺激薬のベオーバ(ビベグロン)の添付文書には、抗コリン薬との併用に関する記載はない。
畜尿・排尿時に働く筋肉と神経
畜尿時 | 排尿時 | |||||
筋肉の状態 | 神経 | 神経伝達物質 | 筋肉の状態 | 神経 | 神経伝達物質 | |
排尿筋 | 弛緩 | 下腹神経(交感神経) | ノルアドレナリン(アドレナリンβ3受容体) | 収縮 | 骨盤神経(副交感神経) | アセチルコリン(ムスカリン受容体) |
内尿道括約筋 | 収縮 | 下腹神経(交感神経) | ノルアドレナリン(アドレナリンα1受容体) | 弛緩 | 骨盤神経(副交感神経) | 一酸化窒素(cGMP産生を促進) |
外尿道括約筋 | 収縮 | 陰部神経(体性神経) | アセチルコリン(ニコチン受容体) | 弛緩 | ー | ー |
β3受容体刺激薬
蓄尿期の膀胱弛緩作用を増強して膀胱容量を増大させる。
膀胱平滑筋のβ3受容体を刺激することで膀胱を弛緩し、膀胱に蓄えられる尿量を増やします。
また排尿期の膀胱収縮力に影響を及ぼしにくいため残尿量には影響しないと言われています。
抗コリン薬と作用機序が違うため副作用が軽減されています。
膀胱の機能調節には、副交感神経(骨髄神経)、交感神経(下腹神経)、体性神経(陰部神経)が関与し、いずれの神経も求心路を含んでいる。
畜尿期には、交感神経終末からノルアドレナリンが放出され、膀胱平滑筋(排尿筋)のβ受容体サブタイプ(β1、β2、β3)のβ3い受容体を介して尿道が収縮する。
排尿期にはノルアドレナリンの放出が抑制され、尿道が弛緩するとともに、副交感神経の末端からアセチルコリンが放出され、ムスカリンM3、M2受容体を介して膀胱平滑筋(排尿筋)が収縮する。
しかし、過活動膀胱では畜尿期においてもアセチルコリンが放出され、膀胱のムスカリン受容体に結合し、膀胱平滑筋(排尿筋)の異常な収縮が起きる。
そのため、過活動膀胱では十分な量の尿をためられるだけの膀胱平滑筋(排尿筋)の弛緩が起こらない。
ベタニス(ミラベグロン)はヒト膀胱平滑筋のβ3受容体に対し極めて選択的に作用する選択的β3アドレナリン受容体作動薬である。
ちなみに、ヒト膀胱平滑筋の弛緩を主に受け持つサブタイプはβ3受容体であり、β受容体を遺伝子発現量(mRNA発現量)で比較すると、β1とβ2はそれぞれ1.5%および1.4%にすぎず、β3受容体が全体の97%を占めている。
ベタニスが膀胱のβ3受容体に結合すると、β3受容体の活性化を介して膀胱(排尿筋)の平滑筋細胞内でアデニル酸シクラーゼが活性化し、cAMPの産生が促進される。
これにより、細胞質内のカルシウム(Ca2+)濃度が低下し、畜尿期のノルアドレナリンによる膀胱平滑筋(排尿筋)の弛緩作用を増強し、膀胱容量を増大させる。これにより、膀胱は正常な畜尿期の状態に近づき、過活動膀胱の症状が改善される。
また、従来使われてきた抗コリン薬は膀胱のムスカリンM3、M2受容体に結合し、アセチルコリンがムスカリン受容体に結合するのを阻害する。
これにより、アセチルコリンによって引き起こされる膀胱平滑筋の異常な収縮が抑制され、症状が改善する。
なお、β3受容体は、当初脂肪細胞に存在することが報告され、その刺激によってミトコンドリアの酸化的リン酸化を脱共役させ、エネルギーを熱として散逸させることから、β3受容体刺激薬は抗肥満薬として期待が持たれているが、現在のところその開発は成功していない。
過活動膀胱の第1選択薬は抗コリン剤。
口渇・口内乾燥感や緑内障患者への投与に注意。
β3受容体刺激薬は抗コリンと作用機序が異なり副作用も少ない。
尿意切迫、切迫性尿失禁、頻尿を主な症状とする過活動膀胱には、フェソテロジン、トルテロジン、ソリフェナシン、イミダフェナシンなどの選択制ムスカリン受容体拮抗薬(抗コリン薬)または抗コリン作用とCa拮抗作用があるプロピベリンが処方される。
高齢者では抗コリン薬の口内乾燥、便秘、霧視、残尿の増加などの副作用が出現しやすい。
さらにベンゾジアゼピン系薬、三環系抗うつ薬、抗精神病薬など抗コリン作用の強い薬剤がすでに処方されていないか注意する。
オキシブチニン貼付剤(ネオキシ)は、急激な血中濃度の上昇が抑制されるため、抗コリン性の副作用が少なく、服薬数が多い症例や内服困難症例に対しては選択肢の一つとなる。
抗コリン薬は閉塞隅角緑内障では禁忌。
男性では、抗コリン薬は選択的α1阻害薬と併用する。
β3受容体作動薬ミラベグロンは過活動膀胱治療薬として抗コリン薬と同等の効果が期待できる。
高血圧、QT延長や心室性不整脈などの副作用があるため心血管疾患患者では注意が必要である。
抗コリン薬(ムスカリン受容体拮抗薬)
過活動膀胱の第1選択薬として使用されています。
抗コリン薬はムスカリン受容体の遮断作用により効果を発揮しますが、受容体の選択性により作用が異なります。
抗コリン薬は膀胱のムスカリンM3、M2受容体に結合し、アセチルコリンがムスカリン受容体に結合するのを阻害する。
これにより、アセチルコリンによって引き起こされる膀胱平滑筋の異常な収縮が抑制され、症状が改善する。
膀胱にはM2 ・ M3 が分布していますが膀胱平滑筋の直接収縮にはM3受容体が主であると言われています。
M3選択性の高いのはイミダフェナシン・コハク酸ソリフェナシンで、M2選択性が低いため心臓への影響が少ないのですが、M3受容体遮断による口内乾燥感の副作用の頻度が高いので注意が必要です。
コハク酸ソリフェナシンは唾液腺に比べて膀胱に選択性が高いためイミダフェナシンより口内乾燥感の副作川は出にくいと言われています。
酒石酸トルテロジンは非選択的ですが、膀胱への組織移行性が高いため心臓への影響や口内乾燥感も少なく、分子量が大きいため血液脳関門(BBB)の通過も低いので認知機能への影響が少ない高齢者に使いやすい薬剤です。
抗コリン作用(十)のため緑内障患者への投与は注意が必要です。
膀胱平滑筋直接作用薬(ブラダロン)
直接、膀胱の筋肉収縮を抑制したり筋肉を緩めることで膀胱容最を増大させ、排尿反射を抑制します。
抗コリン薬に比べるとその効果は劣りますが、副作用も抗コリン薬に比べて少ないです。
β2受容体作動薬
膀胱、近位尿道、外尿道括約筋におけるβ2受容体に作用して膀胱平滑筋を弛緩し、外尿道括約筋の収縮を増強することで、畜尿機能を改善する。
なお、気管及び気道平滑筋を弛緩させ、気管支痙攣の寛解作用並びに抗喘息作用もある。
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