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サレドとレブラミドの違いとは?
公開. 更新. 投稿者:癌/抗癌剤.この記事は約4分3秒で読めます.
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薬害としてのサリドマイドと現在の治療薬

「サレド」と「レブラミド」は、いずれも多発性骨髄腫などの治療に用いられる免疫調整薬(IMiDs:immunomodulatory drugs)です。どちらもサリドマイドをベースに開発された薬剤でありながら、薬理作用や副作用、安全管理の面で異なる特徴を持ちます。
「サレド」と「レブラミド」の違いを中心に、背景にあるサリドマイド事件の歴史や、両薬剤の作用機序・副作用・管理体制まで勉強していきます。
サリドマイド事件とは何だったのか
1950年代末、サリドマイドは「安全な睡眠薬」として世界各国で販売され、特に妊婦のつわりの治療薬としても広く使用されていました。日本では「イソミン」などの商品名で流通していました。
しかし、その後、手足が短くなる「アザラシ肢症」などの重度の先天性奇形を持つ新生児が多数報告され、原因がサリドマイドの服用であることが判明。世界で1万人以上、日本では309人の被害が報告され、サリドマイド事件は「20世紀最大の薬害事件」とも呼ばれています。
この事件をきっかけに、世界各国で妊婦への薬剤投与に対する規制が厳格化され、市販後の安全対策(PMS)や添付文書の義務化、安全管理手順の整備が進められるようになりました。
サレド(サリドマイド)とは?かつての「毒」が現代医療で再評価
作用機序の再発見
サリドマイドは一度、世界中で市場から姿を消しましたが、その後の研究により免疫調整作用や血管新生阻害作用を持つことがわかり、がんや自己免疫疾患への応用が期待されました。
特に、セレブロン(CRBN)というタンパク質への結合により、ユビキチン・プロテアソーム系を介した標的タンパクの分解を促す作用が、多発性骨髄腫に対する抗腫瘍効果に関与することが判明しました。
サレドとしての再登場
2008年、日本でも「サレドカプセル(サリドマイド)」として多発性骨髄腫の治療薬として再承認されました。ただし、過去の薬害を踏まえ、厳格な安全管理体制(サレドマイド管理システム)のもとでのみ使用が認められています。
レブラミド(レナリドミド)とは?サリドマイドから進化した第二世代IMiD
開発の背景と目的
「レブラミド(一般名:レナリドミド)」は、サリドマイドの構造をもとに、有効性の向上と副作用の軽減を目的に開発された第二世代IMiDです。
サリドマイドと同じくセレブロンへの結合を介して抗腫瘍効果を発揮しますが、より強力な抗腫瘍作用と抗炎症作用を持ち、サイトカイン調整、制御性T細胞抑制、ADCC(抗体依存性細胞傷害)活性の増強といった、サリドマイドには見られなかった新しい機能も持ちます。
適応疾患
・再発・難治性多発性骨髄腫
・5q欠失型骨髄異形成症候群(MDS)
・成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)
サレドとレブラミドの違いを比較
比較項目 | サレド(サリドマイド) | レブラミド(レナリドミド) |
---|---|---|
開発世代 | 第一世代IMiD | 第二世代IMiD |
作用機序 | CRBN結合 → 血管新生阻害・免疫調整 | CRBN結合 → 抗腫瘍効果・ADCC増強など |
抗腫瘍作用 | 中程度 | 強力 |
神経障害 | 多い(末梢神経障害、眠気など) | 少ない |
骨髄抑制 | 比較的少ない | 多い(特に好中球減少) |
使用可能形態 | カプセル(50mg) | カプセル(2.5~25mg) |
安全管理 | サレド登録制度 | レブメイト制度(より厳格) |
処方形態 | 院内処方限定 | 院内処方限定 |
レブラミドの催奇形性と安全管理制度「レブメイト」
動物実験とヒトへの影響
レナリドミドもサリドマイドと同様に催奇形性が極めて強いことが動物実験で確認されています。したがって、ヒトに対しても同様のリスクがあるとされ、妊娠可能な女性およびそのパートナーへの厳格な避妊指導が必要です。
レブメイト制度の概要
レブラミドは「レブメイト制度」という製薬会社・医療機関・薬剤師・患者すべてを登録・管理対象とする制度のもとでのみ使用が認められています。これは、患者の服薬状況、避妊状況、妊娠検査などを一元的に管理するためのものです。
・院外処方は禁止 → すべて院内処方
・処方医・薬剤師は事前登録と研修を受ける必要あり
・妊娠可能性のある女性には定期的な妊娠検査
・男性患者にもコンドームの着用が義務
サレド・レブラミドと性交渉:避妊指導の徹底が義務
両薬剤とも、性交渉に関する注意喚起は極めて厳重です。
妊娠可能な女性への対応
・投与開始前に妊娠検査で陰性を確認
・投与4週間前から投与終了4週間後までの避妊を指導
・極めて有効な避妊法(ピル+コンドームなど)の併用を推奨
・定期的な妊娠検査の実施が必須
男性患者への対応
・精液中への薬物移行が確認されている
・投与期間中および終了後4週間まではコンドーム着用必須
・妊婦との性交渉は禁止
薬を飲んでいる側だけでなく、パートナーへの配慮も制度の中に明確に組み込まれている点が特徴です。
サレドの処方制限:長期投与にも条件あり
サレドは処方に上限があります。
・1回の最大処方量は12週間分(3か月分)まで
・添付文書に記載された明確な制限
・16週間以上の継続投与には、医師の再評価が必要
・「リスク・ベネフィットを慎重に検討すべき」と明記
これは、安全管理だけでなく、長期使用における有効性・安全性に限界があるためでもあります。
おわりに:薬害の教訓を生かす「薬の再評価」
かつて世界中に深い爪痕を残したサリドマイドが、現代医療において新たな形で治療薬として復活した背景には、分子生物学の進歩と厳格なリスク管理制度の構築があります。
・サレドは、免疫調整作用と血管新生阻害作用を持つが副作用も多い第一世代IMiD
・レブラミドは、強力な抗腫瘍活性を持ち、骨髄抑制などの副作用に注意が必要な第二世代IMiD
両剤ともに、その催奇形性という共通点から、極めて厳しい安全管理体制が敷かれている点が他の抗がん剤とは異なります。
薬剤師としては、処方歴や患者の服薬状況だけでなく、家族構成や性交渉の有無、避妊の理解度までをも把握する必要がある特殊な薬剤であることを意識し、正確な情報提供と制度遵守を徹底する責任があります。
1 件のコメント
主人が多発性骨髄腫と昨年の4月に診断され、昨年11月に自家移植したが奏功せず、現在レブラミド2錠レナデックス5錠を服用しているが、レナデックスの離脱の日になると必ず発熱。なのでサレドに変えるかも?と主治医に言われ、違いがわからず検索したところ、このブログに辿り着きました。とてもわかりやすく書いてあって有難いです。
これからも色々教えてください。
カテゴリを見ただけで頼もしいです。