2025年7月6日更新.2,511記事.

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妊娠中に水疱瘡になると危険?

妊娠中に水疱瘡にかかると危険?

子どものころに「水疱瘡(みずぼうそう)」にかかったという人は多いでしょう。かゆい発疹が出て、学校をしばらく休んだ記憶がある方もいるかもしれません。

しかし、大人になってから水疱瘡にかかるとどうなるのか?
そして、妊娠中に水疱瘡にかかってしまったら、赤ちゃんに影響はあるのでしょうか?

水疱瘡とは?─原因は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)

水疱瘡の正式名称は「水痘(すいとう)」です。原因となるウイルスは水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster Virus:VZV)。
このウイルスは、はじめて感染したときに水痘(水疱瘡)を起こし、治ったあとも体内に潜伏して、後年になって帯状疱疹として再活性化することがあります。

水痘は非常に感染力が強く、空気感染・飛沫感染・接触感染を通じて広がります。感染力はインフルエンザより強いといわれ、家族内での二次感染率は90%以上とも言われています。

妊娠中に水疱瘡にかかるとどうなる?

水疱瘡は通常、子どもの病気とされていますが、妊娠中に水痘ウイルスに感染することで、赤ちゃんに先天異常が起こるリスクがあります。

とくに危険なのが、妊娠20週以前の初感染です。

先天性水痘症候群(Congenital Varicella Syndrome):

妊娠初期〜中期に水痘にかかると、ウイルスが胎盤を通って胎児に感染することがあり、以下のような異常を引き起こすことがあります。

〈主な症状〉
・皮膚の瘢痕(ミミズ腫れのような跡)
・手足の形成異常(四肢の低形成、指や趾の欠損)
・眼の異常(小眼球症、白内障、網脈絡膜炎、眼振、瞳孔不同など)
・中枢神経の異常(肢麻痺、水頭症、大脳皮質の萎縮、痙攣など)
・発育障害(低出生体重など)

◆発症率とリスク:
先天性水痘症候群の発症率は、妊娠20週以前に水痘にかかった場合で約2%とされています。
確率としては高くはありませんが、一度起これば重篤な後遺症を残すことがあるため、非常に注意が必要です。

妊娠後期の水痘感染にも注意

妊娠後期、とくに分娩直前の5日以内から出産後2日以内に母親が水痘を発症した場合、新生児が「新生児水痘」にかかるリスクがあります。

これは母体から十分な抗体が胎児に移行していない状態で、出生後にVZVにさらされるためで、重症化や致死率が高くなるおそれがあります。

◆新生児水痘の症状
・全身性の水疱性発疹
・呼吸不全
・肝機能障害
・DIC(播種性血管内凝固症候群)

このような新生児水痘は、免疫グロブリン(VZIG)やアシクロビルなどの抗ウイルス薬による治療が必要です。

大人でも水疱瘡にかかるのか?

答えはYES。
子どものころに水痘にかかったことがなければ、大人でも初感染します。

しかも、大人の水疱瘡は重症化しやすいことで知られています。

成人の水痘のリスク
・入院率:小児の3~18倍
・肺炎発症率:11~20倍
・脳炎発症率:1.1~2.7倍
・発熱や発疹が強く、治癒に時間がかかる

成人の場合、VZVがメモリーT細胞に感染しやすく、免疫の過剰反応を引き起こして重症化することがあります。

成人の水痘に使える治療薬は?

◆ゾビラックス(アシクロビル)
水痘の治療薬として有名なゾビラックスですが、錠剤には「水痘」の適応がありません。
適応があるのは小児用の顆粒剤のみで、成人に使うことは基本的に想定されていません。

◆バルトレックス(バラシクロビル)
成人の水痘には、バルトレックスが有効です。
バルトレックスは錠剤にも顆粒にも「水痘」の適応があり、成人に使用可能な治療薬として位置づけられています。

使用例(成人水痘):
・通常、成人にはバルトレックス錠1000mgを1日3回、5日間投与
・症状が出てからできるだけ早く使用開始するのが望ましい

妊娠中に水痘にかからないためには?

水痘は感染力が極めて強いため、家族内や保育園などでの接触には細心の注意が必要です。

特に、子どもが水痘にかかっているときに妊娠中の母親が未感染である場合、リスクが高まります。

予防策
・妊娠前にVZV抗体価(IgG)を測定
・抗体がなければ妊娠前にワクチンを接種(生ワクチンのため妊娠中は接種不可)
・感染者との接触を避ける
・やむを得ず接触した場合はVZIG(帯状疱疹免疫グロブリン)の投与を検討

自分が「水疱瘡にかかったことがあるか」分からないときは?

多くの人が子どものころにかかっていますが、記憶が曖昧な場合や兄弟がかかったけど自分はどうだったか分からないという人も少なくありません。

その場合は…
・血液検査でVZV IgG抗体価を確認できます
・抗体があれば基本的に再感染の心配はない(免疫を保有)
・抗体がなければ、妊娠前ならワクチン接種の検討を

妊娠中の感染症は、どれも心配になりますが、水痘はとくに注意が必要です。
「子どものころにかかったはず」と思っていても、実際には未感染だったというケースもあります。

これから妊娠を考えている方や、妊娠初期の方で不安がある方は、まず抗体の有無を確認することから始めましょう。

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