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パナルジンを初回30日分処方しちゃダメ?
公開. 更新. 投稿者:脳梗塞/血栓.この記事は約3分6秒で読めます.
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パナルジンを30日分処方しちゃダメ?

「この患者、来院が難しいから、パナルジンを1か月分で出しておこうか…」
ちょっと待ってください。それ、添付文書違反になるかもしれません。
抗血小板薬「パナルジン」(一般名:チクロピジン塩酸塩)は、医療者の中でも「扱いが面倒な薬」として知られています。その最大の理由が、初回処方に関する日数制限。
パナルジンの添付文書に明記された処方制限
まず、パナルジンの添付文書(【警告】欄)には以下のような記載があります(要約しながら引用します):
【警告】(添付文書より要約)
・重篤な副作用(血栓性血小板減少性紫斑病〈TTP〉、無顆粒球症、重篤な肝障害)が投与開始後2か月以内に集中して発現。
・原則として2週に1回の血液検査(血球算定、白血球分画、肝機能検査)を実施。
・投与開始後2か月間は、原則として1回2週間分を処方すること。
患者には上記副作用のリスクと検査の必要性を事前に説明し、2週に1回の通院を指導。
このように、「原則として1回2週間分まで」と明確に処方日数の制限が書かれています。
つまり、初回から30日分を処方することは、添付文書上は「原則違反」に該当します。
「原則」とは?柔軟に解釈できるの?
添付文書に「原則」と書かれていると、つい「絶対ではないのでは?」と考えてしまいがちです。
しかし、ことパナルジンに関しては、この「原則」は極めて重い意味を持ちます。
なぜなら、この指示は単なる推奨ではなく、過去に命に関わる副作用の報告が相次ぎ、厚労省が緊急安全性情報として発出した勧告を受けて追加されたものだからです。
緊急安全性情報が2回も出された薬、それがパナルジン
● 1999年6月:第1回緊急安全性情報
・タイトル:「塩酸チクロピジン製剤による血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)について」
・初期にTTP、無顆粒球症、重篤な肝障害などの報告が相次ぐ。
・添付文書が改訂され、投与開始2か月間は2週に1回の血液検査が必須とされた。
・しかし、臨床現場でこの指示が十分に守られなかった。
● 2002年7月:第2回緊急安全性情報
タイトル:「塩酸チクロピジン製剤による重大な副作用の防止について」
・前回の対応が不十分だったとして、さらに強い対応が求められる。
・添付文書が再び改訂され、「2か月間は原則として1回2週間分の処方」と明記された。
・患者に対して副作用の説明と2週ごとの通院の指導を必須とした。
ポイント:パナルジンは日本で唯一、緊急安全性情報が2回出された経口薬。
この経緯を踏まえると、添付文書の「原則2週間処方」という文言は、法律ではないが限りなく強い拘束力を持つ医療上の義務と考えるべきです。
実務上の注意点:初回処方はどう対応すべき?
● まず30日分は出さない
・初回30日処方は「原則違反」
・血液検査の実施状況にかかわらず、“初回は2週間分まで”が基本
● 血液検査のスケジュールを共有
・患者に「次回の通院時に血液検査をする必要がある」ことを説明
・採血ができない診療所では地域連携や紹介先を検討
● 電子カルテや薬歴に明記
・「パナルジン開始につき2週処方、次回採血予定」と記載しておくと、他スタッフとの情報共有にもなる
・処方医交代時の引き継ぎミス防止にも効果的
パナルジンの薬理作用と特徴
最後に、パナルジンそのものについても少し触れておきましょう。
◆ 薬効分類
・抗血小板薬(チエノピリジン系)
・現在はクロピドグレル(プラビックス)が主流になりつつある
◆ 作用機序
・血小板のADP受容体阻害による血小板凝集抑制
・加えて、血小板内cAMP濃度上昇作用を持つことが他剤との違い
◆ 作用の持続
・服用中止後も作用は8〜10日間持続(血小板の寿命と一致)
・抜歯・手術前の中止時期に注意が必要
まとめ:パナルジンの初回処方は「2週間分まで」が大原則
「高齢の患者だから何度も来るのが大変」
「2週間後に来られるか不明だからまとめて出したい」
そんなときでも、パナルジンの初回30日処方は慎重に考えてください。
この薬は、かつて命に関わる副作用で多くの犠牲が出た歴史を持ち、それを教訓として添付文書が改訂されました。
私たち医療従事者が「原則」を守ることが、次の悲劇を防ぐ最大の武器になります。