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抗血小板薬と抗凝固薬の出血の副作用の違いは?
公開. 更新. 投稿者:脳梗塞/血栓.この記事は約11分40秒で読めます.
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血液サラサラの薬の副作用
「血液サラサラにする薬」という説明をするバファリンなどの抗血小板薬と、ワーファリンなどの抗凝固薬で、出血やアザなどの副作用がありますが、作用機序の違いから副作用の出方にも多少違いがあるようです。
まず、それぞれの働き方の違いについて見ていきます。
その前に「血液サラサラにする薬」と言うと、まるで、ドロドロの血液をサラサラにするような、血行が良くなるイメージを持つ人もいるので、あまり多用しないほうがよいだろう。
一次止血と二次止血
血管が傷つくと、血管が収縮するとともに、血液中の「血小板」が即座に傷口に粘着します。粘着した血小板は活性化物質を放出して周囲の血小板を活性化させ、互いにくっつきあって凝集塊を形成し、とりあえず傷口をふさぎます。
これを「一次止血」といいます。
血小板の凝集塊は、そのままでは不安定であり、より強固に固めるのが「フィブリン」です。
フィブリンは、血液と傷口の組織因子が接することをきっかけに凝固反応が爆発的に進み、生成されます。
凝固反応は、血液中の12種類ある凝固因子(発見順に第Ⅰ~ⅩⅢ因子の番号が付けられている、第Ⅵ因子は欠番)が次々に反応することで進みます。
最初の刺激は小さくても徐々に反応が増幅して大量のトロンビン(活性化第Ⅱ因子、酵素)ができ、トロンビンが可溶性のフィブリノーゲンを不溶性のフィブリンに変えます。
この過程を「二次止血」といい、一次止血と二次止血で強固な血栓を形成します。
この止血の仕組みは、傷口を塞ぐ効果がありますが、病的な血栓の形成にもつながります。
一次止血と抗血小板薬
一次止血で形成される血小板血栓には、抗血小板薬が使われます。
血小板か血管に異常が起こる一次止血の異常では、皮下出血や鼻出血などの出血が起こります。血小板は、通常20万~30万個/μLが血中を循環しています。そのうち3万個/μLは内皮細胞の間隙を埋めているため、血小板が3万個/μL以下に減少すると、体中の血管内皮細胞の間隙から血球が漏れやすくなり、通常なら出血しないようなわずかな刺激で出血したり、刺激がなくても出血するようになり紫斑が出現します。
鼻血、口腔や歯肉からの出血などの粘膜出血も起こります。
二次止血と抗凝固薬
二次止血の異常、すなわち凝固系に異常が起こった場合は、関節内出血や筋肉内出血、臓器出血、月経量の増加、不正出血などが起こる。血尿や血便、吐血、喀血などが見られることもある。
凝固因子は、肝臓でビタミンKを利用して産生される。
ビタミンKは、通常、腸内細菌が産生するが新生児では腸内細菌が未発達でビタミンKが不足する。
そのため、頭蓋内出血の予防にビタミンKが投与される。凝固因子は肝臓で合成されるため、肝機能が著しく低下している場合も、凝固因子の合成ができず、出血が起こりやすくなる。
ワーファリンなどの抗凝固薬はもちろん、ビタミンKを産生する腸内細菌を殺菌してしまうセファロスポリン系抗菌薬や、凝固因子を合成する肝臓を破壊してしまう抗癌剤などによっても出血を起こしてしまう。
動脈血栓と静脈血栓
血栓は血の塊です。
血の塊というと赤い血のイメージですが、白い血栓というものもあるという。
血栓の形成には血小板凝集と血液凝固能の亢進が関与します。
血栓には、動脈血栓と静脈血栓の2種類があります。
前者は血小板の活性化によって、後者は血液のうっ帯(血流などが停滞した状態)に伴う凝固系の亢進によって生じます。
一般に、動脈に形成される動脈血栓は、血小板凝集を主体とする血小板血栓(白色血栓)、静脈に形成される静脈血栓は、凝固能亢進によるフィブリン血栓(赤色血栓)とされ、動脈血栓には抗血小板薬、静脈血栓には抗凝固薬による治療が中心となります。
そこで、アテローム血栓性脳梗塞や心筋梗塞の予防には抗血小板薬が、心原性脳塞栓症の予防には抗凝固薬が使われているのです。
血栓は凝固系と血小板が連動して作用することにより形成されるもので、どちらか一方だけで血栓が形成されるものではありません。
血液の流れの速いところは血小板が活性化しやすいので、動脈には血小板をたくさん含んだ血栓が形成されます。一方、血液凝固因子は活性化されてもすぐに流されてしまうため、血液凝固反応は進みにくくなります。
この血栓がアテローム血栓性脳梗塞や心筋梗塞の原因となります。
また、動脈血栓は血小板の含有量が多いため白く見えるので、白色血栓とも呼ばれています。
一方、血液の流れが遅く停滞したところでは凝固系が活性化するので、フィブリンという血液凝固に関わるタンパク質をたくさん含んだ血栓ができます。
これが静脈血栓で、エコノミー症候群や心原性脳塞栓症の原因となります。
また、血流が遅いため赤血球がよどみ、赤血球の含有量が多くなり赤く見えるので、赤色血栓とも呼ばれています。
脳梗塞と血栓
脳梗塞の病型のうち、アテローム血栓性脳梗塞は、内頸動脈など脳内外の主幹動脈にできた動脈硬化性病変(アテローム)が壊れ、そこに血小板主体の血栓が形成されて、そこで閉塞を起こしたり、血栓の一部が剥がれて末梢の脳血管を塞栓することで発症する。
動脈は血液の流れが速いので、フィブリンを形成する凝固因子は流れやすく、結果的に血栓は血小板主体となる。
その色調から白色血栓と呼ばれる。
また、心原性脳塞栓は、心臓でできた血栓が血液の流れに乗って運ばれ、脳血管を塞栓することで生じる。
血栓のサイズは大きくなりやすく、比較的太い脳血管を突然閉塞するので、広範な脳梗塞を来しやすい。
心原性脳塞栓を引き起こす最大の原因疾患は心房細動だ。
心房細動とは、心房では不規則な電気興奮が起こり、細かく震えてまとまった収縮ができなくなる状態をいう。
心房細動を起こした左心房内では、血液のうっ滞や血管内膜の抗血栓作用低下といった、血液凝固反応の活性化につながる要因がそろう。
加えて心房細動患者は高齢者に多いため、脱水で血液粘度が高く、凝固系が亢進しやすい。
このため心房細動を起こすと、左心房内、特に左心耳内に大きな血栓ができやすい。
この血栓は、フィブリンが赤血球を取り込むため赤色を呈するので赤色血栓と呼ばれる。
一口に脳梗塞と言っても、この血栓の種類によって選ぶべき抗血栓薬が違っている。
つまり、白色血栓が強く関わるアテローム血栓性脳梗塞の予防には血小板の凝集を抑制する抗血小板薬を使い、赤色血栓が強く関わる心原性脳塞栓の予防には、血液凝固反応を抑制する抗凝固薬を使う。
静脈には抗凝固薬、動脈には抗血小板薬?
血液が固まって脳梗塞や心筋梗塞を起こさないように、血液をサラサラにする薬として、ワーファリンやアスピリンなどが処方されます。
ワーファリンに代表される抗凝固薬と、アスピリンに代表される抗血小板薬。
その違いは何か?患者から質問されることも多い。
出血したとき出血を止めるメカニズムは、まず血小板が血管の穴の開いたところにピタッとくっつき一時的にとめます。次に糊を付けたりして血を固めて補強します。
抗血小板薬は血管の壁と血小板がくっつくのを邪魔することによって血栓を出来にくくします。
抗凝固薬は血小板同士がくっついて固まりをつくるのを抑えることで血栓を出来にくくします。
抗血小板薬のほうが抗凝固薬より安全というイメージがあります。
その分、抗血栓効果も弱い。
重篤な出血リスクを乗り越えても予防したい血栓イベントには抗凝固薬、出血リスクも低いが血栓イベント低減効果も少ない病気に対して抗血小板薬が使用される。
抗血小板薬を言い換えると血小板凝集抑制薬。
血小板どうしが接着することを「凝集」、フィブリンによって血小板だけでなく赤血球が接着し、血栓形成することを「凝固」と呼ぶ。
凝集だけなら小さい血栓、凝固までしたら大きい血栓になる。
動脈に生じる血栓は血小板が主体をなし、「血小板血栓」または「白色血栓」といわれる。
これに対し静脈では、フィブリンと赤血球を主体とする血栓が生じ、「フィブリン血栓」または「赤色血栓」といわれる。
その理由としては、動脈内で出血が起きた場合、血流が速いので静脈のようにゆっくり血液が固まるのを待っていては遅いからとのこと。
なので、動脈血栓には抗血小板薬が、静脈血栓には抗凝固薬が主に使われる。
血の固まり方
血液凝固のメカニズムについて。
血液凝固(止血機能)は大きく2段階(一次止血と二次止血)に分けることができます。
止血は、血小板による一次止血と、凝固系による二次止血(外因系と内因系の二つの経路からなります)を経て完成します。
凝固系とは、出血を止めるために血液を凝固する過程です。
血小板の異常(数の低下、機能異常)では出血時間の、凝固系の異常では凝固時間の延長が見られます。
凝固により生じる線維素(フィブリン)を溶解する過程が線溶(線維素溶解)系です。
線溶系はプラスミンを介する経路がおもな経路です。
通常、フィブリン血栓が生じるとプラスミンが生成されるように制御されており、凝固系と線溶系は密接にバランスを取りあって働いています。
一次止血と二次止血
一次止血は血小板凝固による止血機能で、血管内皮細胞の損傷によってコラーゲンなどの内皮細胞下組織が露出されると、そこにフォン・ヴィレブランド因子(vWF)が結合し、さらに血小板が粘着することにより開始されます。
その後、血小板同士がフィブリノーゲンを介して凝集し、血小板血栓が生成して傷口をふさぎます。
二次止血は一次止血で生じた血小板血栓をさらに強固にするために起こる凝固反応で、血漿中に存在する凝固因子とよばれる酵素群によるカスケード反応です。
なんらかの原因で血管壁が損傷されると、組織因子(TF)とよばれる膜蛋白質が放出され、血漿中の第Ⅶ因子と結合し複合体を形成することにより開始されます(外因系血液凝固)。
活性化されたTF-Ⅶ複合体(TF-Ⅶa)は、第Ⅹ因子を活性化すると同時に、内因系因子とよばれる第Ⅸ因子を活性化します。
これら凝固因子の活性化には、カルシウムイオン(Ca2+)とリン脂質の存在が必須です。
また、別ルートとして血管内皮の破損により、第ⅩⅡ因子が活性化され、第ⅩⅠ因子、第Ⅸ因子が活性化されるといわれていますが、現在ではその関与は小さいとされています。
以下、各凝固因子の活性化が次々と連鎖反応的に起こり、最終的にフィブリンという線維素蛋白質が精製されます。
この時点でフィブリンは水溶性ですが、重合・架橋反応によって難溶化、安定化されて血小板血栓を補強します。
心原性脳梗塞と非心原性脳梗塞
ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞などの「非心原性脳梗塞」の2次予防には抗血小板薬が使われる。
一方、非弁膜症性心房細動を主因とする「心原性脳塞栓症」の2次予防には、抗凝固薬を選択するのが基本である。
血栓は、血流の速い環境下(動脈系)にできる場合と、血流の遅い環境下(静脈系)に生じる場合とで、性状が異なる。
動脈系の場合、血小板が活性化することで血栓が生じるため、血小板含有量が多く、その色調から白色血栓とも呼ばれる。
動脈系の血栓が原因となる非心原性脳梗塞や心筋梗塞の再発予防には、抗血小板薬が用いられる。
一方、静脈系で生じる血栓は、フィブリン活性が主病態である。
血流が遅い部位で血液がよどみ、フィブリンが赤血球を取り込んで赤色血栓を形成する。
心原性脳塞栓症や深部静脈血栓症などでは、フィブリンを主体とする赤色血栓が形成されるため、抗凝固薬が用いられる。
抗凝固療法の適応
心血管疾患は、血栓塞栓が血流の途絶を招来し、臓器や組織の虚血の原因となって発症することが多い。動脈系の血栓塞栓症には、主として抗血小板薬が、また静脈系の血栓塞栓症には抗凝固薬がその抑制に有効である。
従って抗凝固薬は、主として静脈系のフィブリン形成が主体の静脈血栓の治療や予防に用いられる。
その適応疾患は治療の推奨レベルも含めて、循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(日本循環器学会2009年改訂版オンライン)にまとめられている。
疾患別にみると、
①弁膜症:人工弁置換術後
②虚血性心疾患:冠動脈血栓は殆どが抗血小板療法の対象であるが、不安定狭心症は、抗凝固療法(ヘパリン)が併用される。
③心不全:心不全に心房細動が合併している場合や血栓塞栓症の既往のある場合、ワルファリンの適応となる。
④心房細動・粗動:心房細動・粗動は心原性脳塞栓症を惹起しやすいため、リスク因子の併存状況によって抗凝固療法(ワルファリン)の適否が決定される。本邦では、年齢によってワルファリンのコントロール強度(PT-INR)も規定される。
⑤補助循環:大動脈バルーンパンピング(IABP)や経皮的人工心肺補助循環(PCPS)、血液透析ではヘパリンで対応するが、補助人工心臓の植込み時にはワルファリンによる長期の抗凝固療法が求められる。
⑥肺血栓塞栓症:病態に応じて外科的治療、血栓溶解療法も用いられるが、血栓塞栓症の進行抑制は抗凝固療法による。
⑦深部静脈血栓症:ヘパリンとワルファリンの組み合わせによる抗凝固療法が主体となる。
ワーファリンと心原性脳梗塞
心原性脳塞栓症の原因となる心臓の血栓は、血小板ではなくフィブリンという血液凝固たんぱくが主体になります。
一方、アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞など、動脈硬化をベースとする非心原性脳梗塞の場合の血栓は、フィブリンではなく血液中の血小板が主体です。
全身の血管が動脈硬化で細くなると、動脈硬化を起こしている場所に血小板が集まり、いろいろな物質が接着して大きなかたまりを作ります。
血小板はかさぶたの元になるもので、白く硬い血栓になるので、白色血栓と呼ばれています。このかたまりを作る作用は、血管が動脈硬化で細くなればなるほど増強します。このタイプの脳梗塞の慢性期治療には、血小板が固まる働きを抑える抗血小板剤が用いられ、再発予防効果は20~50%となっています。
では、このタイプの脳梗塞にワルファリンの効果は期待できないのでしょうか。
じつは、2001年に外国で報告された研究では、ワルファリンと抗血小板薬の代表であるアスピリン(高用量)の再発予防効果を比べた場合、統計学的に両者の差は認められませんでした。
動脈硬化をベースとしてできる白色血栓も、最終段階ではフィブリンが複雑に関係しているため、同等の効果が得られたのだと思います。
ただし、ワルファリンのほうで出血合併症が多かったため、現在、アテローム血栓性脳梗塞に対しては抗血小板剤を中心とした薬剤が用いられています。
脳梗塞には、3つのタイプがある。
アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、心原性脳梗塞。
このうちワーファリンなどの抗凝固薬が効果的なのは、心原性脳梗塞。
じゃあ、アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞には効かないのかと言えば、そうではない。抗血小板薬と比較して、差が無いというだけの話。
これら脳梗塞の鑑別診断ができるのか、どの程度難しいのかよくわかりませんが、とりあえずワーファリン処方しておけば心原性でもOK。