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PPIの処方は8週間まで?
公開. 更新. 投稿者:消化性潰瘍/逆流性食道炎.この記事は約6分46秒で読めます.
33,978 ビュー. カテゴリ:PPIの長期処方は疑義照会が必要?
以前はタケプロンなどのPPIが胃潰瘍で8週間、十二指腸潰瘍で6週間という縛りがあり、必ず疑義照会していました。
現在は、その縛りは無くなった、というわけではありませんが、以前より長期使用はしやすくなっている。
「再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法」や「低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制」「非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制」という名目であれば、処方医に病名が確認できれば長期処方も可能である。
再発抑制、という名目では、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の既往がなければならないわけですが。実際は、既往歴なく予防的に処方されているケースがほとんどと思われる。
レセプト上はスルーされても、個別指導では指摘されるので、長期処方が許されている病名での処方かどうかの疑義照会はやはり必要となる。実際医師に電話しての病名確認のハードルは高いので、患者確認で済ませたいですが、それでは不十分と見なされる。
現在販売されているPPIにはタケプロン、パリエット、オメプラール、ネキシウム、タケキャブ(P-CAB)がある。
各薬剤の長期投与の縛りについて
タケプロン
胃潰瘍、吻合部潰瘍→8週間まで(30mg)
十二指腸潰瘍→6週間まで(30mg)
逆流性食道炎→8週間まで(15mg)
再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法→長期可能(15mg、30mg)
非びらん性胃食道逆流症→4週間まで(15mg)
低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制→長期可能(15mg)
非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制→長期可能(15mg)
パリエット
胃潰瘍、吻合部潰瘍→8週間まで(10mg、20mg)
十二指腸潰瘍→6週間まで(10mg、20mg)
逆流性食道炎→8週間まで(10mg、20mg)
再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法→長期可能(10mg)
非びらん性胃食道逆流症→4週間まで(10mg)
低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制→長期可能(5mg、10mg)
オメプラール
胃潰瘍、吻合部潰瘍→8週間まで(20mg)
十二指腸潰瘍→6週間まで(20mg)
逆流性食道炎→8週間まで(20mg)
再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法→長期可能(10mg、20mg)
非びらん性胃食道逆流症→4週間まで(10mg)
ネキシウム
胃潰瘍、吻合部潰瘍→8週間まで(20mg)
十二指腸潰瘍→6週間まで(20mg)
逆流性食道炎→8週間まで(20mg)
再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法→長期可能(10mg、20mg)
非びらん性胃食道逆流症→4週間まで(10mg)
低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制→長期可能(20mg)
非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制→長期可能(20mg)
ついでにPCABについて
タケキャブ
胃潰瘍→8週間まで(20mg)
十二指腸潰瘍→6週間まで(20mg)
逆流性食道炎→8週間まで(20mg)
再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法→長期可能(10mg、20mg)
低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制→長期可能(10mg)
非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制→長期可能(10mg)
アスピリンやロキソニンなどのNSAIDs併用時のPPI投与については、薬剤や規格によって適応のあるなしが分かれるので、注意が必要。
適応病名としては、「再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法」のほうが使いやすい。
PPIの長期投与は危険?
PPIはなぜ胃潰瘍に8週間まで、十二指腸潰瘍に6週間まで、なのか。
プロトンポンプ阻害薬(PPI)は強力な胃酸分泌抑制薬であるため、胃内の細菌叢や食物の消化吸収に大きな影響があるのではないかと考えられてきた。また、これに伴って長期にわたって使用すると副作用が出現するのではないかと懸念されてきた。初期の頃に心配された副作用は胃カルチノイド腫瘍や胃癌、大腸癌の発生、鉄欠乏性貧血やビタミンB12の欠乏による貧血や神経障害であった。これらについては種々の臨床的研究が行われ、現時点では100%の安全性は確立されていないが、PPIを適正に使用していれば大きな問題となることはないと考えられている。
胃カルチノイド腫瘍、胃癌、大腸癌などの癌。
貧血やビタミン欠乏。
肺炎や骨折リスクの上昇。
癌以外の副作用は、胃切除した患者も同様のリスクがある。
適正に使用していれば大きな問題となることはない。
8週間を超えて長期に使用し続けるのは、「適正」ではないということだろうか。
PPIで胃癌になる?
PPIによる胃酸分泌の持続的な抑制、胃内pHの上昇による影響として、胃酸分泌に対するネガティブフィードバックの解除によるガストリンの分泌亢進、高ガストリン血症が引き起こされることが懸念されていました。
ガストリンは胃幽門部のG細胞から分泌される消化管ホルモンで、胃酸分泌促進作用を持ち、胃内pHが2.5~3.0以下で、分泌が停止します。
またガストリンには胃底腺の胃壁細胞、ECL細胞(腸クロム親和様細胞、アセチルコリンやガストリンの刺激によりヒスタミンを分泌する)の増殖を促進する作用があり、特にECL細胞に対する増殖作用は腫瘍性増殖となり、カルチノイド腫瘍となることが知られています。
PPI服用時には、胃内pHが3以上となる時間が圧倒的に長くなり、いずれの薬剤でも血中ガストリン値が上昇し、ラットによる動物実験で、2年間の投与により胃カルチノイド腫瘍の発生が認められています。
しかし、現在のところ、PPIの服用が直接腫瘍の発生と関連したとされる例や、疫学的な調査による腫瘍発生率の増加などは報告されていません。
むしろ否定的な報告もあり、腫瘍に対する注意は当初より薄らいでいるようにみえます。
PPIの作用から、胃がんの自覚症状が隠蔽されるおそれもあり、特に逆流性食道炎の維持療法として、長期に使用される場合には、定期的ながん検診を行うなど、注意を払うことが必要。
PPIは胃酸分泌を抑制するため胃前庭部からのガストリン分泌を増加させ、高ガストリン血症を引き起こす。PPIによって引き起こされた高ガストリン血症は雌ラットにおいては胃カルチノイド腫瘍を引き起こす。ところが、雄のラットではカルチノイド腫瘍は発生しにくくマウスでも発生しない。高ガストリン血症に伴う胃カルチノイド腫瘍の発生に関しては強い種差がある。ヒトはラットに比べて胃粘膜カルチノイド腫瘍の起源となるECL細胞が少なく、ヒトでPPI投与に伴ってカルチノイド腫瘍が発生したことを証明した報告は見当たらない。ヒトでもA型胃炎例で高ガストリン血症に伴って胃カルチノイド腫瘍が発生するが、A型胃炎では血中ガストリンが常に500pg/mLを超えるが、PPI投与で250pg/mLを超えることはほとんどなく、何年にもわたり長期にPPIを投与しても胃カルチノイドが発生する可能性はあまり問題になるものではないと考えられている。
PPI長期投与は安全か? パリエット www.pariet.jp
胃潰瘍は8週間で治る?
消化性潰瘍の治療に使われる薬で、プロトンポンプインヒビター(PPI)という薬があります。
この薬は胃潰瘍で8週間まで、十二指腸潰瘍で6週間までと処方日数が決められています。
その理由は、ほとんどの胃潰瘍は8週間で、十二指腸潰瘍は6週間もあれば治るからだそうです。
しかし、治らない難治性の患者さんもいるわけで、そのような人はガスターなどのH2ブロッカーをとりあえずはさんで、再度PPIを投与の繰り返しにするか、適応が逆流性食道炎なら処方日数の制限は無いので、病名を変えるとか。
たぶんほとんどが「再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法」で処方されてるんじゃないかと思う。
タケプロンOD錠15㎎ 1錠
1日1回夕食後 28日分
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
そんな薬剤師には、m3.com(エムスリードットコム)の、薬剤師のための「学べる医療クイズ」がおすすめ。
12 件のコメント
いつも参考にさせていただいています。
この間添付文書を確認したら、いつの間にかPPIで効果不十分な場合20mg最長16週までOKになっていて、びっくり!
ご確認あれ。
コメントありがとうございます。
パリエット1日2回なんて処方もOKだったのですね。知らなんだ。
ご教授ありがとうございます。
PPIについて調べていて、こちらにたどり着きました。
転職したクリニックで、病名「逆流性食道炎」でPPI(処方薬は殆どネキシウム20mgかパリエット10mg)が8週間を超えて処方されているので、切られないのだろうか?と疑問に思っておりました。
前職場では、8週間を超えた場合、
病名変更→維持療法の必要な難治性逆流性食道炎 または、
薬の変更→H2ブロッカー と していました。
ブログを拝見させて頂いて、やはり
8週間最長で「再発再燃を繰り返す逆流性食道炎」の場合は8週間以上もいける。とありましたが、
その場合 病名を「維持療法の必要な難治性逆流性食道炎」 「再発再燃を繰り返す逆流性食道炎」などにしなくても良いのでしょうか?
レセチェックではねられることはないのでしょうか?
教えて頂けたら 幸いです。
コメントありがとうございます。
医療機関のレセプトのことは詳しくわかりません。
審査する医師、都道府県によって違うと思うので支払基金に問い合わせてもらうのが確実かと思います。
私の経験では、ただの逆流性食道炎では返戻され、医薬品卸から聞いた情報では「再発再燃を繰り返す」という文言が必要だったかと記憶しています。ただ消化器科の場合はスルーされるのかも知れません。
認知症気味の84歳の父が腰椎の圧迫骨折ごサビスミンとドネペジルとバイアスピリンとレパミピドを処方され昨年7月に胃穿孔で緊急入院になりました。その後ランソプラゾールをずっと処方されています。胃潰瘍が8週間で治るのなら、どうして長期に渡ってPPIが処方されるのでしょうか?胃潰瘍と胃穿孔で違うからですか?
コメントありがとうございます。
長期にわたってPPIが処方されるケースは多いです。
治った後も、予防的に投与されるケースが多いと考えられます。
父が今年83才で認知症の疑いがあります。最近新しい事が覚えていられないと言い、物忘れがひどくなっています。年齢を考えれば致し方ないという気もしますが、79才の時胃癌と診断され、手術で胃を三分の二切除しています。そちらの方は現在も転移もありませんでしたが、ネキシウムを4年一日1回飲んでいました。当初胃潰瘍の症状があったため、処方された薬だと思いますが、胃癌の執刀医は転勤になり、心筋梗塞もあったため、循環器の方のドクターに引き継がれた際にも、内科、外科の担当医および薬剤師さんにも確認していますが、その都度飲んでいて大丈夫ということで、循環器の薬と一緒に服用し続けました。今回認知症の疑いがあるということで減薬になりネキシウムは飲まないことになりました。ネキシウムは長期服用が可能になったという記事も見かけますが、プロトポンプ阻害薬服用者の認知症罹患率は1.4倍という記事も読みましたので、早めに違う薬に変えて貰えばよかったのだろうかという気持ちになっていますが、4年間も飲んでいるケースもあるのでしょうか?
おはようございます。日曜日ですのでお休みでしたら申し訳ございません。ネキシウムについての不安要素と疑問をネットで検索していましたら寝られなくなってしまい薬剤師様のブログにたどり着きました。三年半もネキシウム20を服用しています。非びらん性逆流症です。最近、ネキシウムでの骨粗鬆症が心配になりました。年齢的にも57歳ですので。骨粗鬆症の検査はしておりませんが、海外の論文でネキシウム長期服用で骨粗鬆症による骨折がありました。ここ2ヶ月は10ミリにして寝る前に自分でガスターを服用しています。併用は出して貰えそうにないので。近いうちに骨密度等調べて貰おうと思っていますがネキシウム服用しているのでとても不安です。特に論文やネキシウム添付書ではネキシウム高用量及び長期服用で骨粗鬆症、骨折と書いてありましたがこれはこの2つの条件が揃ってのことなのでしょうか?三年半も服用しているので長期ですが高用量とはネキシウム20ミリも入るのでしょうか?前に会員になっているネットのドクターに聞いたら20ミリは通常量と言われましたがネキシウムの高用量とはどれくらいの量なのでしょうか?日本ではネキシウム20ミリを1日二回服用可能なのでしょうか?ネキシウム服用で骨粗鬆症になるなら怖いです。歯も悪くそのうち抜歯もあり得ます。骨粗鬆症の薬は抜歯で顎骨壊死とかあるともあり益々不安でたまりません。宜しくお願い致します。
コメントありがとうございます。
添付文書に書かれている「高用量及び長期間(1年以上)」はプロトンポンプインヒビター製剤共通の注意事項なので、ネキシウムの20mgが高用量に当たるのかどうかはわかりません。
ただ、あなたは女性の方ですので、PPIを服用していなくても骨粗鬆症のリスクは高いと思われます。
薬にはリスクがあります。ただ、ネキシウムによって日常生活が良いものになっているのであれば、飲むメリットを感じているでしょう。
骨粗鬆症の副作用は海外の報告ですし、長期間追跡しなければわからないものです。
骨粗鬆症のリスクがあれば、カルシウムを摂る、筋力をつけるなどの対応はできます。
もし骨粗鬆症と診断されれば、骨粗鬆症の薬を服用することになるでしょう。顎骨壊死のリスクはありますが、歯磨きによる予防でリスクは減らせます。
医師の判断は、ネキシウムを処方しているのであれば、骨粗鬆症のリスク<ネキシウムを飲むメリット、です。私もそう思います。
PPI長期処方での疑義照会を検索していて、こちらにたどり着きました。
バイアスピリンとPPIが何年も長期処方されている患者様がいます。
この度、当薬局がM&Aの影響で、一年以内に個別指導入る事から、PPIの長期処方について疑義照会するように上司から指示があり、医療機関に疑義照会しました。
結果、『そんなことで疑義照会してくる薬局は、今までいなかった。個人情報だから答えられない』 と返答されました。
どのような聞き方が良いのでしょうか❓
yakuzaicさんは、どのような聞き方をされていますか❓
コメントありがとうございます。
疑義照会の問題は悩ましいですね。私も過去に「この患者の病名は何ですか?」とド直球に聞いたら「教えられない」と撃沈したことがあります。
今となっては、医師側も「逆流性食道炎じゃないけど逆流性食道炎というレセプト病名で請求している」という場合に、「逆流性食道炎です。」と薬剤師に答えて、それを患者にそのまま伝えたらトラブルの元になるのもわかるので、「答えられない」と突っぱねるしかないという事情もわかります。そもそも適応外処方、レセプト病名というものがまかりとおっているのが問題なのでしょうけど。医療側としては「添付文書の対応が遅い。医師の裁量権を妨害するな」といった主張もわかりますし、「適応外処方を自由にさせていたら、医療費は膨らむ一方」という国側の主張もわかります。
まあ、薬局で疑義照会して確認した病名と、医師のレセプト病名が一致するかどうか、といったことまで個別指導では確認しないでしょう。あとはお察しください。
ご丁寧にコメントいただき、ありがとうございます。
とても参考になりました。