2025年7月8日更新.2,511記事.

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糖尿病とメイラード反応

はじめに:美味しさの裏に潜む生体内反応

ホットケーキや焼き目のついたステーキの美味しそうな香ばしさ──その正体が「メイラード反応(Maillard反応)」です。しかし、私たちの体内でも同じような反応が起こり、しかもそれが病気の進行に深く関与しているとしたらどうでしょうか?

本記事では、「糖尿病とメイラード反応」、そしてその副産物である終末糖化産物(AGEs: Advanced Glycation End-products)が、どのようにして血管障害や合併症を引き起こすのかについて、わかりやすく解説します。

メイラード反応とは? ─ 食品と生体内での違い

● 食品でのメイラード反応
メイラード反応は、食品中の糖とアミノ酸(またはタンパク質)が加熱により反応し、褐色物質(メラノイジン)や香ばしい香りを生じる現象です。調理の際の「焼き色」や「香りづけ」に寄与します。

● 生体内でのメイラード反応
人間の体内では、加熱こそありませんが、血中にある還元糖(特にグルコース)とタンパク質が常温で徐々に反応していきます。

これが進行すると、不可逆的に変性した糖化産物=AGEsが生成されます。この反応速度は、血糖値が高いほど加速されます。

終末糖化産物(AGEs)とは何か?

AGEsとは、糖とタンパク質が長期間反応し、最終的に形成される変性物質です。これらは次のような問題を引き起こします:

・タンパク質の変性と機能喪失
・組織の硬化(コラーゲン架橋など)
・酸化ストレスと慢性炎症の誘発

血糖コントロールが悪いほど、AGEsの生成は増加します。

AGEsの影響と糖尿病性合併症

AGEsは、糖尿病における細小血管障害(microangiopathy)と大血管障害(macroangiopathy)のどちらにも関与します。

● 小血管障害:三大合併症の引き金
病態におけるAGEsの関与
・糖尿病性腎症:糸球体基底膜がAGEsで硬化・透過性上昇
・糖尿病性網膜症:毛細血管内皮障害→新生血管→失明リスク
・糖尿病性神経障害:神経軸索や髄鞘への糖化障害

● 大血管障害:動脈硬化の進行
AGEsがLDLコレステロールと結合すると、酸化LDLと同様の性質を持ち、血管内皮に沈着しやすくなります。その結果:
・動脈壁の炎症促進
・血管の硬化と内腔の狭窄
・心筋梗塞・脳梗塞のリスク上昇

AGEsとRAGE:炎症の増幅ループ

AGEsは体内に存在する受容体「RAGE(Receptor for AGEs)」と結合します。これにより:
・NF-κB経路の活性化
・IL-6、TNF-αなど炎症性サイトカインの産生
・慢性炎症と酸化ストレスの悪循環

このようにして、AGEsは炎症と病態の進行を加速させます。

食品中のAGEsと糖尿病管理

AGEsは体内で生成されるだけでなく、食品からも摂取されます。特に:
・揚げ物、焼き物、グリル料理、ホットケーキなど
・高温短時間加熱で多く生成される

一方、茹でる・蒸す・煮るといった調理法ではAGEs生成は少なくなります。

糖尿病患者では、食品からのAGEs摂取を抑えることで慢性炎症や酸化ストレスを軽減できる可能性があります。

AGEs測定と臨床応用

● 皮膚AGEs測定
近年では、皮膚に蓄積したAGEsを非侵襲的に測定する装置(AGE reader)が登場しています。これは:
・糖尿病リスク評価や
・動脈硬化の予測指標
として利用が期待されています。

● HbA1cとの関係
HbA1cはグルコースがヘモグロビンに糖化した産物ですが、AGEsの初期段階にあたります。

つまり、HbA1cが高い=AGEs生成も進んでいると考えられます。

AGEsを抑制する生活習慣と治療法

血糖コントロール:食事療法・運動療法・薬物治療でHbA1cを安定化

抗酸化物質の摂取:ビタミンC、E、ポリフェノール、カルノシンなど

AGEs吸収抑制:食物繊維の摂取、調理法の工夫

禁煙:タバコはAGEs生成と酸化ストレスを増強

薬剤研究:アルギナーゼ阻害薬、RAGE阻害薬などが研究中

まとめ:AGEsを制す者は合併症を制す

・メイラード反応は「美味しさ」の反応でもあり、「病気の引き金」にもなる
・高血糖によりAGEsが体内で過剰に生成され、糖尿病の合併症を促進
・RAGEとの結合で炎症・酸化ストレスが増幅される
・食事・生活・医療による多面的アプローチでAGEsの影響を抑えることが重要

糖尿病の管理においては、単なる血糖値だけでなく、AGEsという“静かな炎症の犯人”にも目を向けることが、より良い予後とQOL向上につながります。

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