2025年8月9日更新.2,571記事.

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糖尿病になると骨折しやすくなる?

糖尿病と骨粗鬆症の深い関係:骨折リスクとその対策

糖尿病と骨粗鬆症。この2つの疾患は一見無関係に見えるかもしれません。しかし、実際には糖尿病患者では骨折のリスクが高まることが、数多くの研究で明らかになっています。

骨粗鬆症と聞くと、「閉経後の女性に多い病気」というイメージが先行しますが、糖尿病患者、とくに長期間のコントロール不良の方においても、見逃せない合併症の一つとなっています。

骨折リスクはどれほど上がるのか?

糖尿病と骨折の関係については、疫学的な調査からも明らかになっています。

・1型糖尿病患者では、骨折リスクが健常人の3~7倍。
・2型糖尿病患者でも、1.3~2.8倍のリスク増加が報告されています。

このリスクの高さは、骨密度(BMD)の数値だけでは説明できない部分が多く、近年注目されているのが「骨質(bone quality)」の問題です。

骨密度は正常でも骨折しやすい?糖尿病患者の骨質劣化

一般に骨粗鬆症とは、骨密度の低下によって骨が脆くなり、骨折のリスクが高まる状態を指します。しかし糖尿病の場合、骨密度がそれほど低くなくても骨折することがあります。

◆高血糖と骨質の関係:
糖尿病では慢性的な高血糖により、以下のような骨質の劣化が起きるとされています:

・AGEs(終末糖化産物)の蓄積:骨基質のコラーゲンが糖化され、しなやかさを失い、もろくなる。
・酸化ストレス:活性酸素が骨芽細胞の働きを抑制。
・インスリン抵抗性:骨形成を促進するインスリンの効果が低下。
・これらは、骨の強さを決定づける「骨質」に悪影響を与えます。

糖尿病がもたらす転倒リスク

骨が脆くなるだけでなく、糖尿病患者では転倒そのもののリスクも高まる要因が多数存在します。

・神経障害(ニューロパチー):足の感覚が鈍くなると、ちょっとした段差でつまずく。
・網膜症:視力が落ちることで足元が見えにくくなる。
・筋力低下やサルコペニア:インスリン抵抗性や活動量の低下により筋肉量が減少。

これらは「転倒しやすさ」に直結し、さらに骨質の劣化が加わることで、骨折のリスクが一段と高くなるのです。

骨粗鬆症は原発性?続発性?糖尿病は続発性骨粗鬆症の一因

骨粗鬆症は大きく分けて2種類あります。

・原発性骨粗鬆症:加齢や閉経などによる自然な変化に伴うもの。
・続発性骨粗鬆症:特定の病気や薬剤の影響によって生じるもの。

糖尿病はこの続発性骨粗鬆症の原因としてよく知られており、以下のような要因が関与しています:

・副甲状腺機能の低下
・ビタミンD代謝異常
・骨芽細胞に対するインスリン作用の低下
・ビタミンDレセプター数の減少

とくに1型糖尿病では、骨形成の低下が顕著であり、小児期・思春期の骨量ピーク形成にも悪影響を及ぼします。

ビタミンDの重要性と糖尿病における代謝異常

ビタミンDは、カルシウムの吸収を助けるだけでなく、骨形成にも重要な役割を担っています。

◆ビタミンDの代謝経路:
①食事や皮膚で生成されたビタミンDは、肝臓で25(OH)Dに代謝され、
②さらに腎臓で活性型の1α,25-(OH)₂D₃に変換されます。
③この活性型ビタミンDは、小腸でカルシウム吸収を促進。

糖尿病患者では、この活性型ビタミンDの作用を受け取るレセプター(VDR)の数が減少しているとの報告もあり、カルシウム代謝がうまく機能しないことがあります。

◆アルファカルシドールの使用:
アルファカルシドールは、1α水酸化されたビタミンD3の誘導体で、体内で速やかに活性型に変換されます。糖尿病患者においても、ビタミンDの代謝異常を補う治療薬として有用とされています。

チアゾリジン薬(アクトス)と骨折リスク

2型糖尿病治療薬であるチアゾリジン薬(ピオグリタゾン/商品名:アクトス)は、血糖改善効果がある一方で、骨折リスクの増加が指摘されています。

その理由は?:
チアゾリジン薬は、骨髄間質細胞を脂肪細胞へ分化させやすくし、骨芽細胞への分化を抑制します。つまり「骨を作る細胞」が減ってしまうわけです。

とくに閉経後の女性ではこの影響が顕著であり、添付文書にも以下のような注意書きがあります:
「外国の臨床試験で、女性において骨折の発現頻度上昇が認められている。」
浮腫や体重増加といった副作用も、転倒・骨折を誘発する要因になり得ます。

糖尿病患者における骨粗鬆症対策

糖尿病に起因する骨折を予防するには、以下のような多角的なアプローチが必要です。

◆血糖コントロールの最適化:
・高血糖が続くと骨質が劣化します。
・血糖管理は骨の健康維持にも不可欠。

ビタミンDとカルシウムの補給:
・食事からの摂取に加え、必要に応じてサプリメントや医薬品の使用も検討。
・活性型ビタミンD製剤の使用は、腎機能やVDR活性を考慮して選択。

骨密度と骨代謝マーカーの定期測定:
・DXA法による骨密度検査を定期的に行い、必要があれば骨粗鬆症治療薬の導入を検討。

転倒リスクの管理:
・足元の環境整備、視力のケア、神経障害の進行予防など。

使用中の薬剤確認:
・アクトスなど、骨代謝に影響を与える薬剤の使用歴に注意。

まとめ:糖尿病治療と骨の健康は切り離せない

糖尿病は血管や神経だけでなく、骨の健康にも深く関わる疾患です。骨密度がそれほど低くなくても、骨折リスクが高まる「骨質劣化」に注目し、患者ごとのリスク評価が求められます。

糖尿病の管理において、「骨折予防」も視野に入れた多面的なアプローチが、これからの医療現場ではより重要となってくるでしょう。

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