2025年7月11日更新.2,515記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

記事

ノルバデックスとアリミデックスの違い

ノルバデックスとアリミデックスの違い

乳がんのホルモン療法には様々な薬が使われますが、その中でも代表的なのが「ノルバデックス(一般名:タモキシフェン)」と「アリミデックス(一般名:アナストロゾール)」です。どちらもエストロゲンに関連した乳がん細胞の増殖を抑える薬ですが、作用機序や使用時期、副作用、治療期間などに違いがあります。

そもそもホルモン療法とは?

乳がんの約7割はエストロゲン受容体(ER)陽性であり、エストロゲンががん細胞の増殖を促進します。これを抑えるのがホルモン療法です。具体的には、

・抗エストロゲン薬(SERM):受容体へのエストロゲンの結合を競合的に阻害(例:ノルバデックス)
・アロマターゼ阻害薬:エストロゲンの産生自体を抑制(例:アリミデックス、アロマシン、フェマーラ)

ノルバデックス(タモキシフェン)とは

ノルバデックスはSERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)に分類されます。エストロゲン受容体に結合して、エストロゲンががん細胞の受容体に結合するのを防ぎます。

■特徴
・閉経前・閉経後どちらでも使用可能
・骨量低下が少ない(骨を守る作用もある)
・子宮内膜がんや血栓症のリスクがある

■標準的な治療期間
・通常は5年間の服用が標準
・その後さらに延長して10年まで服用するケースも増えている

アリミデックス(アナストロゾール)とは

アリミデックスはアロマターゼ阻害薬に分類されます。閉経後、卵巣ではなく脂肪組織などでアロマターゼ酵素が働き、エストロゲンが合成されますが、これを阻害してエストロゲンの産生を抑えます。

■特徴
・閉経後のみ使用
・再発抑制効果はタモキシフェンより高いとされる
・骨粗鬆症や関節痛の副作用がある

■標準的な治療期間
・単独で5年間の投与が標準
・その後、延長投与(5年→10年)するケースも増えている
・タモキシフェンからアロマターゼ阻害薬に切り替えるパターンもある

両者の併用は?ATAC試験の結果

2000年代初頭に実施された有名なATAC試験(ARIMIDEX, Tamoxifen, Alone or in Combination)があります。閉経後乳がん患者9,366人を対象に、
・アリミデックス単独群
・ノルバデックス単独群
・両者の併用群
の3群で比較しました。

結果は以下の通りです:
・アリミデックス単独が最も良好な再発抑制効果
・併用群は、ノルバデックス単独とほぼ同等
・併用による上乗せ効果は得られなかった

つまり、むしろアリミデックス単独の方が優れていることが示されました。そのため現在は併用療法は行われていません。

さらに、アリミデックス使用中にSERM(例:エビスタ、ビビアント)を追加するのも、理論的には相殺してしまう可能性があるため注意が必要です。

切り替え療法(スイッチ療法)

タモキシフェン→アロマターゼ阻害薬への切り替えが効果的であることも報告されています。

例:
・タモキシフェン2〜3年投与後、アロマターゼ阻害薬に切り替えて計5年間継続する方法
・この切り替えで再発率19%低下、死亡率14%低下(国際試験より)

日本乳癌学会のガイドラインでも、
・タモキシフェン→アロマターゼ阻害薬への切り替え(推奨グレードA)
・タモキシフェン5年後にアロマターゼ阻害薬を追加(順次投与)(推奨グレードB)
が勧められています。

骨粗鬆症対策も重要

アロマターゼ阻害薬では骨粗鬆症が問題となります。

・エストロゲン欠乏 → 破骨細胞活性化 → 骨吸収亢進
・骨粗鬆症進行 → 骨折リスク増大

そのため、ビスホスホネート製剤やデノスマブの併用、定期的な骨密度測定が重要です。

アロマターゼ阻害薬が基本「閉経後」で使われる理由

・閉経前
 卵巣がしっかり機能している → 卵巣からエストロゲンが大量に分泌されている
 → アロマターゼ阻害薬で脂肪組織のアロマターゼを抑えても、卵巣からのエストロゲン分泌にはあまり影響しない
 → 効果が不十分

・閉経後
 卵巣機能が低下 → エストロゲンは主に脂肪組織などでアロマターゼ経由で合成
 → アロマターゼ阻害薬が有効に働く

では閉経前でも使えないのか?

完全に使えないわけではありません。

閉経前の患者でも 卵巣機能抑制(OFS: Ovarian Function Suppression) を行えば、アロマターゼ阻害薬が有効になります。
具体的には:

・LH-RHアゴニスト(リュープリン、ゾラデックスなど)で卵巣を抑制
・そのうえでアロマターゼ阻害薬(アナストロゾール、レトロゾールなど)を併用

これを「卵巣機能抑制併用アロマターゼ阻害療法」と呼びます。

最近は若年の高リスク閉経前乳がん患者に対して、この併用療法が標準的に行われることもあります。SOFT試験やTEXT試験などで有効性が示されています。

補足:アロマターゼ阻害薬の違い

アロマシン(エキセメスタン):ステロイド型アロマターゼ阻害薬

フェマーラ(レトロゾール)、アリミデックス(アナストロゾール):非ステロイド型アロマターゼ阻害薬

構造は異なりますが、効果はほぼ同等と考えられています。

まとめ

項目ノルバデックスアリミデックス
薬剤分類SERMアロマターゼ阻害薬
作用機序受容体競合阻害エストロゲン産生阻害
使用対象閉経前・後閉経後のみ
再発抑制効果標準的より高いとされる
骨粗鬆症リスク少ない(骨保護)高い(骨密度低下)
血栓症リスク高い少ない
標準治療期間5年(延長あり)5年(延長あり)

閉経前はまずタモキシフェンが選択され、閉経後はアロマターゼ阻害薬が中心になるのが標準的な流れです。しかし患者個々の病状や副作用リスクを考慮して、治療計画は柔軟に立てられます。

1 件のコメント

  • セラピストケイコ のコメント
         

    わたしは閉経前ですが、副作用が軽減されるということでノルバテックスからフェアストンに変えてもらいました。

    ネット検索しましたら、「データとしては閉経後の患者さんでの結果しかない。けれど、適用は閉経前。」みたいですね。

    変ですね。

    世の中変なことばっかりです。医療も例外ではありません。

コメント


カテゴリ

プロフィール

yakuzaic
名前:yakuzaic
職業:薬剤師
出身大学:ケツメイシと同じ
生息地:雪国
著書: 薬局ですぐに役立つ薬剤一覧ポケットブック
SNS:X/Twitter
プライバシーポリシー

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

最新の記事


人気の記事

検索