2025年6月7日更新.2,492記事.

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喫煙と相互作用のある薬一覧

喫煙と薬の相互作用─禁煙時に注意が必要な薬剤とその背景

タバコは私たちの健康に多くの悪影響を与えることが知られていますが、薬物代謝の観点からも無視できない影響を及ぼします。とくに、喫煙によって誘導される肝薬物代謝酵素CYP1A2の活性変化は、多くの薬剤の血中濃度や薬効に大きな差をもたらします。

代表的な薬剤であるテオフィリンを中心に、喫煙と薬の相互作用の仕組み、禁煙時の注意点、その他の影響を受ける薬剤について勉強します。

喫煙と相互作用のある薬一覧

医薬品名相互作用
アジレクトCYP1A2誘導薬:タバコ(喫煙)
クロザリルCYP3A4を誘導する薬剤:本剤の血中濃度が低下し、効果が減弱されるおそれがある。なお、喫煙については、喫煙の中止により本剤の血中濃度が増加する可能性がある。
ジプレキサ喫煙
タルセバタバコ(喫煙)
テオドールタバコ
テルネリンCYP1A2を誘導する薬剤:喫煙
ニコチネルTTS喫煙中に下記薬剤を服用している場合、本剤を使用して禁煙を開始後、下記薬剤の作用が増強するおそれがある。
フェナセチン、カフェイン、テオフィリン、イミプラミン、ペンタゾシン、フロセミド、プロプラノロール、ロピニロール、クロザピン、オランザピン
ネオフィリンタバコ
ノウリアストタバコ(喫煙)
ノービアタバコ
パキロビッドパックタバコ
ピレスパタバコ
メラトベル喫煙

タバコの煙と薬物代謝酵素

タバコの煙に含まれる多環芳香族炭化水素は、CYP1A2をはじめとする肝薬物代謝酵素(CYP1A1、CYP1A2、CYP2E1など)を誘導することが知られています。この結果、喫煙者ではCYP1A2で代謝される薬剤のクリアランスが上昇し、血中濃度が低下する傾向にあります。

逆に、禁煙することでCYP1A2の誘導が解除され、酵素活性が非喫煙者と同等に戻ると、薬の代謝が遅くなり、血中濃度が上昇して副作用が発現するリスクがあります。

テオフィリンと禁煙

◆テオフィリンの代謝と喫煙の関係:
テオフィリンは気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)に用いられるキサンチン系薬物で、主にCYP1A2によって代謝されます。喫煙によりCYP1A2が誘導されると、テオフィリンの代謝速度が増し、血中濃度は低下します。

◆禁煙時に起こる危険:
テオフィリンは治療域が狭く、血中濃度が高くなると痙攣などの副作用を引き起こす可能性があります。喫煙者が禁煙すると、CYP1A2の誘導が徐々に解除され、テオフィリンのクリアランスが低下し、血中濃度が上昇します。

このため、禁煙した患者においては、テオフィリンの投与量を30%以上減量することが推奨されることがあります。実際、喫煙者は非喫煙者に比べて1.5~2倍のクリアランスがあるとされ、非喫煙者の投与量は喫煙者の約1/2~2/3が適量とされます。

◆禁煙補助薬への注意:
ニコチンを含有する禁煙補助薬(ニコレット、ニコチネルTTSなど)もCYP1A2をある程度誘導する可能性があるため、完全な禁煙状態と同一ではないことも考慮する必要があります。

相加的な影響:カフェインとの相互作用

テオフィリンと同じくキサンチン系であるカフェインもCYP1A2で代謝されるため、併用すると相加的に作用が増強される可能性があります。カフェインを含む飲料(コーヒー、エナジードリンクなど)を多く摂取する習慣がある患者では、より注意が必要です。

未成年の喫煙とその影響

一般に未成年は非喫煙者と想定されがちですが、将来の喫煙や隠れた喫煙習慣も考慮に入れる必要があります。喫煙は喘息症状を悪化させるため、喫煙歴の確認は治療の一環として重要です。医薬品を交付する際には、喫煙と薬の相互作用について適切な指導が求められます。

他のCYP1A2基質薬剤への影響

以下の薬剤もCYP1A2で代謝されることから、喫煙および禁煙による影響を受けることが知られています:

・クロザピン(クロザリル):禁煙により血中濃度が急激に上昇し、大発作痙攣などの副作用のリスクが報告されています。
・オランザピン(ジプレキサ):禁煙により代謝が低下し、過量投与状態となる可能性。錐体外路症状などの副作用が出ることも。
・エルロチニブ(タルセバ):喫煙によりAUCが64%減少すると報告されています。
・インスリン:喫煙者では非喫煙者より15~30%多く必要になるとの報告もあります。

禁煙時の用量調節の考え方

◆酵素誘導の変化とそのタイミング:
喫煙によるCYP1A2の誘導は、喫煙開始後3~6時間で肝臓に作用し始め、24時間以内にピークに達するとされます。

一方で、禁煙によって誘導が解除され、非喫煙者の酵素活性に戻るまでには、1週間から数か月、場合によっては2年程度かかるという報告もあります。これは喫煙量、年齢、体質、併用薬、基礎疾患など多くの因子に依存します。

◆用量調節の実際:
禁煙する患者がCYP1A2で代謝される薬剤を服用している場合、理想的には禁煙前から用量調節計画を立て、血中濃度をモニタリングしながら段階的に減量していくことが望まれます。

特にテオフィリンやクロザピン、オランザピンのような血中濃度依存性の薬剤については、定期的な採血と臨床症状の観察が必要不可欠です。

薬局での対応ポイント

・患者が喫煙中かどうか、喫煙歴があるかどうかを聴取する。
・禁煙を予定している場合、処方医にその旨を伝える。
・禁煙指導とともに、服用中の薬の影響について明確に説明する。
・ニコチンパッチなどの補助薬を使用している場合はその情報も併せて確認する。
・特にテオフィリンやオランザピンなどは、副作用の兆候について患者への指導が重要である。

まとめ

タバコは単に呼吸器や循環器に悪影響を与えるだけではなく、薬物代謝酵素にまで影響を及ぼし、治療に用いる薬剤の有効性と安全性を左右する重大な因子です。

CYP1A2を介して代謝される薬剤に関しては、喫煙者と非喫煙者で必要な用量が大きく異なることがあり、禁煙による代謝変化が薬物の血中濃度を大きく変動させるリスクがあるため、綿密なフォローと投与調整が不可欠です。

医療従事者や薬剤師は、患者の喫煙歴を丁寧に確認し、禁煙のタイミングに応じて薬剤の用量を適切に調整できるよう努めるべきです。

今後の治療管理において、喫煙と薬物相互作用の理解がますます重要になることは間違いありません。

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