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錐体外路症状は薬が効いてる証拠?
公開. 更新. 投稿者:統合失調症.この記事は約8分44秒で読めます.
4,271 ビュー. カテゴリ:EPS
統合失調症でみられる身体合併症といえば、錐体外路症状(EPS)が最も有名。
EPSとは、歩行障害や嚥下障害などが多面的に生じる、不随意運動を主とする運動障害のことです。
これが精神科においては抗精神病薬の副作用として発現してしまいます。
過去の精神科医療では、錐体外路症状が出たら、抗精神病薬の効果が出ているサインだと考えた時代もありました。
この考えはneuroleptic threshold theory (抗精神病薬の閾値理論)と呼ばれており、これが定型、非定型の言葉の由来となりました。
つまり、EPSが出る薬物を定型としていたので、EPSが出現しなくても効果がある薬物は非定型になるわけです。
しかし当然ながら、EPSは抗精神病薬の作用ではなく、出ては困る副作用です。
近年、非定型抗精神病薬の使用が増え、EPSは減少すると思われていましたが、現実は必ずしもそうではありません。非定型抗精神病薬の単剤投与がまだ少ないからです。
錐体外路症状が出たら中止?
PETを用いた脳内D2受容体の占拠率と臨床効果の関係の研究によると、D2受容体の占拠率65%以上で抗精神病効果が現れ、80%以上になると錐体外路症状が出現しやすいことが明らかになっています。
このことから65~80%の占拠率になるように用量設定を行うことで、錐体外路症状を防ぎながら治療効果を得ることができると考えられます。
イライラするのは薬のせい?
抗精神病薬の副作用に錐体外路症状(EPS)というものがあります。
アカシジアやレストレスレッグス症候群などがありますが、イライラや不安を伴うことが多いです。
イライラや不安は統合失調症の精神症状でも出てくるものなので、薬の副作用なのか、病気の症状なのか、判断に苦しむことが多いです。
ドパミン仮説とは?
コカインやアンフェタミンなどの麻薬は、幻覚・妄想を引き起こすことが知られています。
それは統合失調症でみられる幻覚・妄想とほとんど区別がつきません。
コカインやアンフェタミンの薬理作用はドーパミンの放出を促すことですから、ドーパミンの過剰と統合失調症の精神症状は間違いなく関連しています。
シーマンらの有名な研究結果に、「臨床的に用いられる抗精神病薬の量と、そのときのドーパミン受容体遮断作用は相関する」というものがあります。
すべての抗精神病薬はドーパミンD2受容体遮断作用があるといわれるように、ドーパミン受容体遮断が抗精神病薬の薬理作用なのです。
カプールらはPETを用いた研究で、抗精神病薬でドーパミン受容体を65%以上遮断すると治療効果として抗精神病作用があらわれ、72%以上でプロラクチンの上昇が認められ、78%以上遮断すると、副作用である錐体外路症状が出現することを示しました。
ドーパミンを適度に遮断することで抗精神病作用が得られるのですから、統合失調症の病態は、「ドーパミン過剰放出」が推測されるのです。
統合失調症とドパミン仮説
統合失調症の原因説として、ドパミン仮説があります。
統合失調症の陽性症状(幻覚・妄想など)は基底核や中脳辺縁系ニューロンのドーパミン過剰によって生じるという仮説です。
抗精神病薬の主な作用がドパミンD2受容体遮断作用であるため、脳内でドパミンの活動が過剰になっていることが異常の本態であり、ドパミンの神経伝達を抑制することが効果的な治療となると考えられてきました。
しかし、今は、ドパミン神経はストレスに対して重要な機能を果たしていると考えられるようになっており、統合失調症は、ドパミンの過剰放出によってその機能が失われ、ストレスに対する抵抗力が低下していることによって生じると考えられています。
受容体プロフィール
受容体プロフィールの概念を説明すると、世界で発売されているすべての抗精神病薬は、現在までのところすべてドパミンD2受容体を遮断して臨床効果を得ています。
古くはシーマンらが、ドパミン受容体が神経遮断受容体と言われていたころに、その神経遮断受容体を遮断する濃度で、薬が効果を示すのだということを示しています。
最近ではカプールらが、脳の中のドパミンD2受容体を65%遮断したら臨床効果が得られて、72%以上遮断してしまうと副作用でプロラクチンが上がり始めて、78%以上遮断すると錐体外路症状が出るということを、PETを用いて証明しています。
受容体は適度にふさがなければならない?
カナダのカプールという研究者は、大脳の線条体において65~72%のドパミン受容体がふさがれたときに、副作用を起こさず、しかも抗精神病作用が得られるということを実験により示しました。
これ以下だと薬の効果がなく、これ以上だと望ましくない副作用が出るというのです。
非定型薬は定型薬に比べて錐体外路症状を引き起こしにくいですが、これは、非定型薬のほうが受容体にゆるく結合しているので、ドパミンが増加すると受容体から自然に離れていき、過剰な遮断を引き起こさないためではないかといった「緩い結合仮説」が考えられています。
65〜70%
脳内において、ドーパミン受容体の遮断率が65%になったとき(わかりやすくいうと、100個の受容体のうち65個の信号が抑えられたとき)に抗精神病作用、つまり治療効果が得られます。
それ以下では抗精神病作用が得られません。
しかしドーパミン受容体の遮断率を上げすぎてしまうと、今度は困った副作用が出てしまいます。
具体的にはドーパミン受容体遮断率が72%以上になるとプロラクチン値が上昇し、78%で錐体外路症状が出現するといわれている。
このように、精神症状に効果を示し、かつ副作用を発現させないという条件を満たす領域は65〜70%程度と非常に狭いので、その範囲におさまるよう微妙な調整をはかる必要があるのですが、定型抗精神病薬ではその調整が難しいのです。
脳内には、「中脳辺縁系」「中脳皮質系」「黒質線条体系」「漏斗下垂体系」という4つのドーパミン経路があります。
副作用を避けるためには、4つの経路すべてにおいて、ドーパミンを過剰に遮断するようなことは避けなければなりません。
しかしどのような薬であっても、薬というのは「この経路だけに選択的に作用する」という器用なことはできないため、定型抗精神病薬の作用は、ドーパミンの過剰が起きている中脳辺縁系だけでなく、他の3つの経路にも及びます。
そのために、次のような困った副作用を惹起させてしまうことがあるのです。
中脳皮質系:理由は解明されていないのですが、統合失調症を発症した人のこの経路では、ドーパミンの減少が起きており、
そのために陰性症状と認知障害が生じているといわれています。しかし定型抗精神病薬がこの経路においてもドーパミン受容体を遮断してしまうために、陰性症状と認知障害をさらに悪化させることがあるのです。
黒質線条体系:この経路のドーパミンの量は統合失調症を発症しても変化していないといわれています。しかし定型抗精神病薬がドーパミン受容体を遮断してしまうために、錐体外路症状を出現させることがあるのです。
漏斗下垂体系:この経路のドーパミンの量も変化していないといわれています。しかし定型抗精神病薬がドーパミン受容体を遮断してしまうために、高プロラクチン血症や性機能障害を出現させることがあるのです。
抗精神病薬の副作用
● 錐体外路症状
錐体外路症状は、ドパミン神経系(主に黒質線条体系)の働きが低下し、相対的にアセチルコリン神経系の働きが強くなることで生じる運動障害と考えられています。
錐体外路症状には、発現時期の異なるさまざまな症状があり、いずれも早期に発見し、薬剤の変更や減量を行うことが原則となります。
また、症状によっては抗コリン薬や抗パーキンソン病薬などを使用することも考慮されます。
【急性ジストニア】体や首がひきつれる・捻れる、目が上を向くなど( 疼痛を伴うことがある。また、咽頭ジストニアは呼吸困難など生命に関わる場合がある)
【パーキンソン症状】振戦(ふるえる)、姿勢反射障害(前かがみで動きづらい)、寡動(体の動きが硬い、表情が乏しい)など
【アカシジア】手足が落ち着かない 、じっと座っていられない、強い不安焦燥感(自傷や自殺につながる恐れがある)など
【遅発性ジスキネジア】顔面の不随意運動(口をもぐもぐする 、 舌を出す)、上下肢が不規則に動くなど
【遅発性ジストニア】持続的に異常な姿勢や眼球の動きが持続するなど(円滑な動作ができず、日常生活が困難になることがある)
● 高プロラクチン血症
プロラクチン(乳汁分泌作用や性腺抑制作用をもつホルモン)はセロトニンの働きにより分泌が促進され、通常はドパミン神経系により制御されています。ドパミン神経系(主に漏斗下垂体系)の働きが低下すると、このバランスが崩れプロラクチンの分泌が亢進することで高プロラクチン血症を生じると考えられています。
高プロラクチン血症に対しては、症状のある場合に介入が必要となります。
・原因抗精神病薬の減量・中止
・血中プロラクチン値への影響が少ない抗精神病薬(アリピプラゾール、クロザピン、ぺロスピロン、クエチアピンなど)への変更
・D2受容体刺激薬の使用(統合失調症への安全性は確立していない)
● 悪性症候群
悪性症候群は、黒質線条体系や視床下部での急激で強力なドパミン受容体遮断や、ドパミン神経系と他の神経系との協調の障害などにより生じると考えられています。
悪性症候群は、抗精神病薬による副作用としては最も死亡率が高く(約10%)、通常は投与開始や減量・中止後、数週間以内にあらわれるとされています。
すみやかに抗精神病薬の投与を中止し、全身のモニタリング管理、輸液などの身体的治療を行います。また、ダントロレン(ダントリウム)やブロモクリプチン(パーロデル)の投与、電気けいれん療法の施行を考慮する。
● 体重増加
体重増加は、抗精神病薬(特にオランザピンやクロザピンなどのSGAs)の副作用としてしばしば認められ、5-HT2受容体やH1受容体の遮断によって生じると考えられています。
症状があらわれた場合も原則として抗精神病薬の投与を継続するが、薬剤の変更を考慮する場合もある(オランザピン使用例では、リスペリドンやペルフェナジン、アリピプラゾールへの変更により体重増加が抑制されると報告されている)。
● 耐糖能異常・糖尿病
耐糖能異常は、クエチアピンやオランザピン、クロザピン、アリピプラゾールなどの副作用として認められ、糖尿病性ケトアシドーシスや糖尿病性昏睡から死亡に至るなどの致命的な経過をたどった症例が報告されています。
上記の抗精神病薬を投与中は、血糖値の測定などを行う。高血糖や糖尿病を疑う症状があらわれた場合には抗精神病薬の投与を中止し、必要に応じてインスリン製剤などにより対処する。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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2 件のコメント
統合失調症でクエチアピン錠を単剤で200㎎から徐々に75㎎に減らしましたが、遅発性ジスキネジアがあまり変わらずで、薬を飲んだ後ろれつがまわらなくなります。ドーパミンの遮断率が多いのではないかと思いますが計測出来る方法はあるのでしょうか?
コメントありがとうございます。
何か手軽に脳内の神経物質を測定できる方法がみつかって、向精神薬などの治療効果が測定できるようになれば、副作用の発現も劇的に抑えられるのかと思いますが、現状私が知る限りではありません。処方元の先生のほうが何か知っているかも知れません。