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抗精神病薬でペットボトル症候群?
公開. 更新. 投稿者:統合失調症.この記事は約4分9秒で読めます.
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口渇・多飲・糖尿病性ケトアシドーシスとの関係

統合失調症や双極性障害などに用いられる抗精神病薬は、精神症状の改善に不可欠な治療薬ですが、その副作用には注意が必要です。なかでも「口渇」とそれに伴う「多飲行動」は、患者にとって重大な健康リスクを引き起こすことがあります。
多量の水分摂取により起こる水中毒(低ナトリウム血症)、そして甘味飲料の過剰摂取によって発症する清涼飲料水ケトーシス(いわゆるペットボトル症候群)は、時に命に関わる重篤な状態です。
抗精神病薬の副作用:口渇と多飲行動
抗精神病薬には、口渇を引き起こす副作用が多くみられます。これは薬剤による抗コリン作用や、視床下部・下垂体系への影響によるバソプレッシン(抗利尿ホルモン)分泌異常によるものです。
代表的な口渇を起こす抗精神病薬には以下があります:
・オランザピン(ジプレキサ)
・クエチアピン(セロクエル)
・アリピプラゾール(エビリファイ)
・リスペリドン(リスパダール)
・クエチアピン徐放錠(ビプレッソ)
・ブロナンセリン(ロナセン)
・ペロスピロン(ルーラン) など
これらの薬剤は、喉の渇きを強く誘発するため、患者が水や飲料を大量に摂取するようになります。
水を飲みすぎるとどうなる?─水中毒と低ナトリウム血症
水分摂取自体は基本的には健康的な行為ですが、極端な多飲は体内の電解質バランスを崩し、希釈性低ナトリウム血症(水中毒)を引き起こします。
【水中毒の機序】
・多量の水を摂取すると、体内のナトリウム濃度が低下します。
・細胞外液の浸透圧が下がることで水が細胞内に移動し、脳浮腫を含むさまざまな症状が発現します。
・特に精神疾患患者では水の調整機能が低下しているケースが多く、健常者よりも早期に水中毒を発症しやすいとされています。
【症状】
・頭痛、嘔吐、脱力感
・意識障害、せん妄、けいれん
・昏睡、死に至ることも
【リスク因子】
・抗精神病薬によるバソプレッシン分泌異常
・自発的多飲行動(心理的背景を伴う)
・腎機能低下や体重変動
【有名な症例】
2007年、米カリフォルニア州で開催されたラジオ局主催の「水飲み大会」で、約7.6リットルの水を飲んだ28歳女性が帰宅後に死亡。死因は水中毒でした。
理論上、健常人の腎臓は1日29リットルまで水を処理できるとされますが、精神疾患の患者ではそれ以下の量でも危険な状態になります。
甘い飲料の落とし穴─ペットボトル症候群とは?
抗精神病薬による口渇により、清涼飲料水(スポーツドリンクやジュース)を頻繁かつ大量に摂取するケースが増えています。
これにより発症するのが、清涼飲料水ケトーシス(ペットボトル症候群)です。
【ペットボトル症候群とは】
清涼飲料水を大量に飲み続けることで、血糖コントロールが破綻し、急激な高血糖とケトアシドーシスを起こす代謝障害です。
【特徴的な症状】
・強い口渇
・頻尿、体重減少
・嘔気、意識低下
・酸性血症による腹痛や過呼吸(Kussmaul呼吸)
【発症メカニズム】
・高血糖により尿糖が出現
・浸透圧利尿で水分・電解質が喪失(多尿・脱水)
・インスリン作用不足で脂肪が分解され、ケトン体が蓄積(ケトアシドーシス)
ペットボトル症候群は、特に未診断の糖尿病患者に多くみられますが、抗精神病薬による代謝異常がある患者でも十分に起こり得ます。
糖尿病患者と口渇のメカニズム
糖尿病に伴う高血糖状態では、浸透圧の上昇により細胞内の水が血管内へ移行し、細胞内脱水が起こります。
また、尿中への糖の排泄(尿糖)によってさらに浸透圧性利尿が生じ、体内の水分が失われ、強い口渇を感じるようになります。
このため、糖尿病患者では以下の悪循環が生じます:
・高血糖 → 浸透圧上昇 → 脱水
・脱水 → 水分補給(多飲)
・甘味飲料摂取 → 血糖悪化
・血糖悪化 → さらに脱水・ケトアシドーシス
抗精神病薬と糖尿病:二重のリスク
抗精神病薬には、糖尿病の発症リスクを高めるものがあることが知られています。
特に注意が必要な薬剤:
・オランザピン(ジプレキサ)
・クエチアピン(セロクエル)
・リスペリドン(リスパダール)
・クロザピン(クロザリル)
これらの薬剤はインスリン抵抗性の増強や食欲増進作用により、糖代謝異常を引き起こしやすいとされています。
そのため、糖尿病の発症だけでなく、口渇による飲料摂取でペットボトル症候群を引き起こす二重の危険性を孕んでいるのです。
対応と予防のポイント
● 患者教育
・口渇時の飲料の選択:水、お茶、ノンカロリー飲料などを推奨
・清涼飲料水の制限:糖分含有量を理解させる
・ゼロカロリー飲料の注意点:人工甘味料に慣れると味覚が変化し、かえって過剰摂取に繋がる可能性あり
● モニタリング
・体重の日内変動:急な増加は水中毒のサイン
・血清Na値のチェック:低下がみられたら要注意
・血糖値の定期確認:特に糖尿病リスクのある患者にはHbA1c測定も有効
● 多飲対策の薬物療法
一部の文献では以下の薬剤の有効性が示唆されています(根拠は限定的):
・ACE阻害薬/β遮断薬:アンギオテンシンIIによる口渇誘発を抑制
・オピオイド拮抗薬(ナルトレキソンなど)
・クロザピン:多飲行動が軽減された報告あり
まとめ
抗精神病薬の副作用としての「口渇」は見逃されがちですが、水中毒やペットボトル症候群といった重大な健康被害に直結します。特に糖尿病リスクを持つ患者では、飲料の選択を誤ることで命に関わる代謝障害が起こる可能性があります。
日頃からの服薬管理と患者教育、そして適切な飲料選択の指導が、これらの合併症を防ぐ鍵となります。薬剤師や医療従事者は、「のどが渇く」という何気ない訴えの裏にあるリスクを見逃さないよう、注意深く観察し対応していくことが求められます。
1 件のコメント
鬱病でリスパダールを1日3回服用中です。
1日4L以上の水をのみ、家族から、糖尿病の予備軍では?
と、言われてます。精神的な発作を起こすので、ペットボトルの水が手放せません。どうしたら、いいのか思案中です。