2025年6月5日更新.2,490記事.

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「治らない口内炎」に効く?アゼプチン・セファランチン・ビタミン療法

口内炎に効く薬

 「口内炎がなかなか治らない」「薬を塗ってもまたすぐ再発する」といった悩みを抱える人は少なくありません。なかでも、1週間以上続くような難治性の口内炎や、繰り返し発症する慢性再発性アフタ性口内炎では、一般的な治療薬が効果を示さず、生活の質を大きく損なうこともあります。

口内炎の基礎知識と分類

口内炎とは、口の中の粘膜に炎症が起こる状態の総称です。部位としては唇の内側、口角、舌、歯茎、頬粘膜などに生じやすく、原因や症状によりいくつかの分類があります。

◆原因による分類
・原発性口内炎:義歯による刺激、熱傷、外傷、誤って噛んだ傷など、局所要因が原因
・症候性口内炎:ベーチェット病、潰瘍性大腸炎、膠原病、HIVなど全身性疾患の一症状として発生

◆形態による分類
・アフタ性口内炎:白く縁取られた小潰瘍(アフタ)が特徴
・潰傷性口内炎:潰瘍を伴い、痛みが強く慢性化しやすい
・壊疽性口内炎:重度の感染による壊死性炎症(非常にまれ)
・カタル性口内炎:びらんや赤みのみの軽症炎症

もっとも頻度が高いのはアフタ性口内炎であり、特に「慢性再発性アフタ性口内炎」は、多くの患者が繰り返し悩まされています。

一般的な治療法とその限界

口内炎の基本的な治療は対症療法が中心です。

・軟膏やトローチなど局所治療
・食事や口腔衛生指導
・原因疾患の除去

主な処方薬
・ステロイド系[ケナログ(トリアムシノロン)・アフタッチ:炎症抑制、痛み軽減
・抗ヒスタミン薬[クレマスチン、クロルフェニラミンなど]:アレルギー性粘膜反応の抑制
・ビタミン製剤[B2・B6・B12・C・パントテン酸など]:粘膜の修復促進

これらの治療で多くの口内炎は自然治癒しますが、「何度も再発する」「通常の薬が効かない」といった難治性のケースでは、さらなる治療が必要となります。

ビタミン不足と口内炎─見逃されがちな要因

口内炎と密接に関わるのがビタミンの欠乏です。以下のビタミンは口腔粘膜の健康維持に不可欠です。

◆口内炎と関連の深いビタミン:
ビタミン製剤と不足時の症状
・ビタミンB2:舌炎、口角炎、アフタ性口内炎
・ビタミンB6:舌の痛み、潰瘍性口内炎、皮膚炎
・ビタミンB12:悪性貧血に伴う潰瘍性口内炎、味覚異常
・葉酸:粘膜の再生遅延、口内炎、貧血
・ビタミンC:壊血病様症状、歯茎からの出血、創傷治癒の遅延

処方例
・ビタメジン配合錠:B1・B6・B12含有
・ピリドキサールリン酸製剤:活性型B6
・シナール配合錠:ビタミンC+パントテン酸
・メチコバール:末梢神経症状を伴う口内炎にも使用

特に栄養不良・アルコール多飲・高齢者・妊産婦ではビタミン不足が隠れていることがあり、補充することで症状改善が見られる場合があります。

アゼプチン(アゼラスチン塩酸塩)─抗アレルギー薬の意外な使い道

アゼラスチンは、一般にアレルギー性鼻炎や蕁麻疹に用いられる抗ヒスタミン薬です。しかし、ベーチェット病に伴う口内炎への適応があり、さらに非ベーチェット患者における慢性再発性アフタ性口内炎にも効果があることが報告されています。

◆臨床試験の結果
慢性アフタ患者に対してアゼラスチンを投与した結果:
・83%に有効
・20%が再発抑制
・痛みの軽減、潰瘍の面積縮小、有痛期間の短縮などが報告

◆推定される作用機序
・炎症性サイトカインの放出抑制
・細胞性免疫の抑制(リンパ球、好中球など)
・活性酸素による細胞膜障害の防止

アゼプチンには口内炎の適応は明記されていませんが、実地臨床では難治性のアフタ性口内炎や放射線治療後の粘膜炎に対して処方されることがあるため、薬剤師としても知っておきたい適応外使用の一例です。

セファランチン─白血球減少症治療薬がなぜ口内炎に?

セファランチンは、タマサキツヅラフジ由来のアルカロイド製剤で、白血球減少症・円形脱毛症などに適応がある薬剤です。近年、口腔扁平苔癬や難治性アフタ性口内炎への適応外使用が注目されています。

◆口腔扁平苔癬とは?
・50〜60代女性に好発
・頬粘膜の両側に白斑やびらんが現れる
・辛いものや酸味の強い食事で悪化
・C型肝炎や金属アレルギー、ストレスなどが関与

◆セファランチンの効果と作用機序(推定)
●臨床試験で75%が有効
●作用候補
・細胞膜安定化作用
・アラキドン酸代謝抑制
・活性酸素の抑制
・副腎皮質ホルモン分泌の促進
・微小循環の改善による粘膜修復

◆ゲル軟膏としての応用
・セファランチン軟膏(院内製剤)が報告されている
・PA-Na(ポリアクリル酸ナトリウム)を10%配合すると付着時間が延長され、治療効果も向上

生活指導・ケアの重要性

薬物療法と並んで、日常生活のケアが口内炎治療の鍵となります。

◆清潔の保持
・食後はうがい・ブラッシングを徹底
・義歯使用者は毎食後に洗浄を
・口腔洗浄液の使用も有効

◆食事・生活習慣の指導
・熱いもの、塩辛いもの、辛味の強いものは避ける
・喫煙・飲酒は口腔粘膜の修復を妨げるため中止
・柔らかめの歯ブラシで丁寧に磨く

◆軟膏の塗り方の工夫
・唾液で湿っていると軟膏が付着しにくい
・ガーゼやティッシュで水分を吸い取ってから塗布
・貼付剤(アフタッチ)を使うと剥がれにくく便利な場合も

まとめ

口内炎は身近な疾患でありながら、原因や症状の多様性から治療が難渋することもあります。まずはビタミン不足の補充やステロイド外用などの基本的な治療を行い、それでも改善が見られない場合は、アゼプチンやセファランチンのような適応外処方薬の選択肢も視野に入れるべきです。

同時に、日常生活での口腔ケアや生活習慣の見直しも忘れてはなりません。

薬剤師として、患者が「もう治らない」と諦める前に、こうした情報を丁寧に伝えることが、信頼される服薬支援につながります。

1 件のコメント

  • 長尾忠 のコメント
         

    歯科医です。テラコートリル軟膏とケナログを1:1~1:2の割合で混ぜると口内炎に劇的に効く特効薬が出来ます。ケナログ単味より約3分の1の早さで治ります。詳しくはファミリー歯科口内炎の治し方ブログをご覧ください。

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