2025年11月16日更新.2,666記事.

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CYP3A阻害薬・誘導薬一覧とその強度分類

CYP3A阻害薬・誘導薬一覧とその強度分類

添付文書の禁忌に「中程度又は強いCYP3A阻害作用を有する薬剤を投与中の患者」と書かれていて、中程度のCYP3A阻害作用って何だろう?と思ったことは無いでしょうか?

薬物相互作用の中でも、最も多くの薬に関係するのが「CYP3A(シトクロムP450 3A4/5)」です。
CYP3Aは肝臓・小腸に広く分布し、全ての医薬品の約半数以上がこの酵素で代謝されるといわれています。

CYP3Aに影響を与える薬は「阻害薬」と「誘導薬」の2種類があります。
阻害薬は代謝を遅らせて血中濃度を上げ、誘導薬は代謝を促して濃度を下げます。
どちらも併用時のリスクが高く、服薬指導や処方監査で注意が必要です。

CYP3Aの働きと臨床的意義

CYP3Aは、脂溶性薬物の代謝に関与し、肝臓や小腸で薬を代謝(酸化)することで体外へ排出しやすくします。
したがって、CYP3Aが阻害されると薬が体内に残りすぎ、逆に誘導されると薬が早く分解されてしまいます。

代表的なCYP3Aの基質(影響を受ける薬)は以下の通りです:
・スタチン:シンバスタチン、アトルバスタチン
・カルシウム拮抗薬:アムロジピン、ニフェジピン
・免疫抑制薬:シクロスポリン、タクロリムス
・抗不整脈薬:アミオダロン、ドロネダロン
・ベンゾジアゼピン系:ミダゾラム、トリアゾラム
・PDE5阻害薬:シルデナフィル、タダラフィル

これらの薬を服用中にCYP3A阻害薬や誘導薬が追加されると、薬効や副作用が大きく変動します。

CYP3A阻害薬の強度分類

◎ 強力なCYP3A阻害薬(Strong Inhibitors)
・グレープフルーツジュース — 小腸CYP3A4を不可逆的に阻害
・ケトコナゾール(ニゾラール):最強クラス。AUCを10倍以上上昇させることあり
・イトラコナゾール(イトリゾール):免疫抑制薬、スタチンとの併用禁忌多数
・ポサコナゾール(ノクサフィル):強いCYP3A阻害+P-gp阻害
・リトナビル(ノービア、パキロビッド):ブースターとして使われる強力阻害薬
・コビシスタット(ゲンボイヤ、シムツーザ、プレジコビックス):同様に強力な阻害薬。抗HIV薬で使用
・ボリコナゾール(ブイフェンド):CYP3A4およびCYP2C19を阻害
・ロピナビル(カレトラ):抗HIV薬。
・クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド):中等度に分類されることもある。シンバスタチン併用注意

これらはAUC(血中濃度)を5倍以上上昇させることがあり、併用禁忌薬が多いです。

○ 中等度のCYP3A阻害薬(Moderate Inhibitors)
・エリスロマイシン(エリスロシン):QT延長も注意
・ジルチアゼム(ヘルベッサー):ベラパミルと同様に中等度阻害
・ベラパミル(ワソラン):P-gp阻害もあり
・グレカプレビル/ピブレンタスビル(マヴィレット):中等度阻害作用あり
・アプレピタント(イメンド):選択的NK1受容体拮抗型制吐剤。
・シプロフロキサシン(シプロキサン):ニューキノロン系経口抗菌剤。
・クリゾチニブ(ザーコリ):抗悪性腫瘍剤/チロシンキナーゼ阻害剤。
・シクロスポリン(ネオーラル、サンディミュン):免疫抑制剤(カルシニューリンインヒビター)
・フルコナゾール(ジフルカン):深在性真菌症治療剤。
・フルボキサミン(ルボックス、デプロメール):軽度に分類されることも。CYP1A2阻害が主だがCYP3Aも軽度阻害。
・イマチニブ(グリベック):抗悪性腫瘍剤(チロシンキナーゼインヒビター)
・トフィソパム(グランダキシン):自律神経調整剤。
・ホスラブコナゾール L-リシンエタノール付加物(ネイリン):経口抗真菌剤。

△ 弱いCYP3A阻害薬(Weak Inhibitors)
・シメチジン(タガメット):複数CYPを弱く阻害

CYP3A誘導薬の強度分類

阻害と反対に、CYP3Aの発現を増やす薬が「誘導薬」です。
これらを併用すると、他の薬の代謝が促進されて血中濃度が低下し、効果減弱を招くことがあります。

◎ 強いCYP3A誘導薬(Strong Inducers)
・リファンピシン(リファンピン) リファジン 最強のCYP3A誘導薬。多くの薬の血中濃度を著減
・カルバマゼピン(テグレトール):自己誘導もあり。タクロリムス、シクロスポリンを著減
・フェニトイン(アレビアチン):多酵素誘導作用を有する
・エファビレンツ(ストックリン):HIV治療薬。中枢副作用にも注意
・ネビラピン(ビラミューン):抗HIV薬。肝障害のモニタリングが必要
・アパルタミド(アーリーダ):前立腺癌治療剤。
・エンザルタミド(イクスタンジ):前立腺癌治療剤。
・ミトタン(オペプリム):副腎皮質ホルモン合成阻害剤。
・フェニトイン(アレビアチン):抗てんかん剤。
・セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ) — OTC・健康食品成分。小腸CYP3A4誘導で有名。用量・製品差が大きいため、文献や評価機関によって「弱い」「中等度」「強い」と表現が分かれることがある。

→ AUCを80%以上減少させる可能性があるため、併用時は薬効消失の恐れ。

○ 中等度のCYP3A誘導薬(Moderate Inducers)
・フェノバルビタール(フェノバール):CYP2C9・CYP3A誘導。抗てんかん薬との併用注意
・プリミドン:抗てんかん剤。
・モダフィニル(モディオダール):覚醒維持薬。経口避妊薬の効果減弱報告あり
・エトラビリン(インテレンス):抗HIV薬。リトナビル併用で誘導抑制のバランス変動
・ボセンタン(トラクリア):エンドセリン受容体拮抗薬。CYP3Aを中等度に誘導

△ 弱いCYP3A誘導薬(Weak Inducers)
・プレドニゾロン(プレドニン):軽度のCYP3A誘導作用あり(高用量時)
・デキサメタゾン(デカドロン):抗がん剤などの血中濃度を下げる可能性あり
・モダフィニル(モディオダール):ナルコレプシー治療薬。
・ルフィナミド(イノベロン):抗てんかん剤。

CYP3A誘導のメカニズム

誘導作用は、主に核内受容体 PXR(Pregnane X Receptor) や CAR(Constitutive Androstane Receptor) を介して起こります。
薬がこれらの受容体に結合すると、CYP3Aの遺伝子転写が促進され、酵素量が増加します。

このため、誘導は服用してすぐには起こらず、数日〜1週間後に発現します。
また、中止しても効果がすぐには消えず、酵素が元に戻るまで1〜2週間かかります。

CYP3A阻害・誘導の臨床的影響の比較

作用結果発現までの時間消失までの時間主な例
阻害血中濃度上昇(副作用リスク)数時間〜数日比較的早く消失ケトコナゾール、クラリスロマイシン
誘導血中濃度低下(効果減弱)3〜7日1〜2週間リファンピシン、カルバマゼピン

→ 阻害は即効性、誘導は遅効性。
これを理解しておくと、相互作用の時期を予測できます。

臨床で特に問題となる併用例

組み合わせと臨床上の問題
・リファンピシン × 経口避妊薬:効果消失 → 予期せぬ妊娠
・カルバマゼピン × タクロリムス:トラフ値著減 → 拒絶反応リスク
・フェニトイン × ダビガトラン:抗凝固効果消失 → 血栓症リスク
・クラリスロマイシン × スタチン:横紋筋融解症リスク上昇
・ジルチアゼム × シンバスタチン:スタチン血中濃度上昇
・パキロビッド(リトナビル含) × 抗不整脈薬:重度のQT延長や徐脈

まとめ:CYP3A阻害薬・誘導薬の一覧と対応方針

分類 強度 代表薬 主な臨床対応
阻害薬 強力 ケトコナゾール、イトラコナゾール、リトナビル 併用禁忌・用量調整必須
中等度 クラリスロマイシン、ジルチアゼム、ベラパミル 経過観察・CK測定
弱い シメチジン、グレープフルーツジュース 経過観察で十分な場合も
誘導薬 強力 リファンピシン、フェノバルビタール、カルバマゼピン 併用薬の効果減弱注意
中等度 モダフィニル、ボセンタン 経口避妊薬・抗てんかん薬など注意
弱い セントジョーンズワート、デキサメタゾン OTCやサプリ指導を徹底

結語:薬剤師が注意すべきCYP3Aの落とし穴

CYP3Aの阻害・誘導は、臨床上最も多く、かつ最も重大な薬物相互作用です。
とくに、多剤併用の高齢者・免疫抑制剤・スタチン・抗てんかん薬を扱う場面では注意が必要です。

阻害・誘導のどちらも、「酵素量の変化」という生理的現象を通じて薬効を変動させるため、検査値では把握しにくいのが特徴です。
最終的には薬剤師が、
「どの薬がCYP3Aの基質なのか」
「どの薬がCYP3Aを阻害/誘導するのか」
を体系的に理解しておくことが、最も確実な安全対策です。

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