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メプチン吸入液は希釈すべき?インタールとの混合、浸透圧と喘息発作誘発リスク
公開. 更新. 投稿者: 29,254 ビュー. カテゴリ:喘息/COPD/喫煙.この記事は約4分38秒で読めます.
目次
メプチン吸入液は希釈すべき?インタールとの混合、浸透圧と喘息発作誘発リスク

吸入治療は、特に小児や高齢者において治療効果と安全性が大きく左右される医療行為です。そのなかで、メプチン吸入液(プロカテロール)について、薬局現場では次のような疑問を耳にすることがあります。
・メプチン吸入液は希釈しなければならないの?
・インタール(DSCG)と混ぜても大丈夫?
・メプチン単独吸入は発作を誘発する?
添付文書に明確には書かれていない実務ポイントを、浸透圧・混合安定性・小児使用・ジェネリック問題の観点から整理し、薬剤師に求められる指導と調剤の注意点を勉強していきます。
メプチン吸入液は「低張液」― そのまま吸うと喘息発作を誘発する?
● 理由:浸透圧が低いと気道刺激を起こす
・ベネトリン吸入液・メプチン吸入液などβ2刺激薬は、「低張液」として設計されている
低浸透圧液(低張液)を気道に直接噴霧すると、以下の反応を引き起こすことがあると知られています。
| 低張液吸入による反応 | 結果 |
|---|---|
| 水分が気道上皮細胞内に移動 | 浮腫・刺激 |
| 気道反射が亢進 | 咳嗽・気道攣縮 |
| 毛細血管浸透圧変化 | 炎症促進 |
→ 低張液は、気管支ぜんそくを誘発する可能性がある。
この現象は水道水や精製水の吸入でも同じです。つまり、
「低張液=そのまま吸わせると危険な場合がある」
という性質を理解する必要があります。
では、なぜメプチンは希釈なしで使用されるのか?
添付文書には「必ず希釈せよ」とは書かれていません。実は以下の理由で、無希釈使用が可能になっている製剤があります。
● ユニット製剤は「少量・高濃度・使い切り」を前提にしている
・メプチン吸入液ユニット(0.3mL/0.5mL)
・患者が勝手に用量調節しないようにするための設計
・そのままでも一定の臨床効果と安全性が得られる量に調整されている
特に吸入器に一定量の薬液が入らなければ霧化できないため、器具によっては希釈する必要があるとメーカーも回答しています。
「生理食塩水での希釈を推奨」
※注射用水では刺激あり、水道水では有効成分低下
なぜインタールと混ぜるのか?
● インタール(DSCG吸入液)は「等張液」
等張液とは、生体組織と同じ浸透圧の液体のこと。
| 溶液 | 浸透圧 | 特徴 |
|---|---|---|
| 生理食塩水 | 等張 | 刺激少ない |
| インタール吸入液(先発品) | 等張 | 低刺激・安全性高い |
| メプチン吸入液 | 低張 | 刺激性あり |
つまり、
「低張のメプチン + 等張のインタール → 刺激軽減」
だから、インタールと混ぜるのは、単なる混合ではなく
「メプチンの副作用(攣縮誘発)を予防する目的」
という臨床的意義があるのです。
ジェネリックインタールの「低張性」に注意
先発のインタール(DSCG)は等張液ですが、ジェネリックでは低張製剤が多く報告されています。
つまり、ジェネリックのDSCG吸入液は、メプチンと同様に気道刺激を起こす可能性がある
| 製品 | 浸透圧 | 安全性 |
|---|---|---|
| 先発インタール | 等張 | 安定 |
| ジェネリックDSCG | 低張のものが多い | 攣縮リスクあり |
→ 小児で特に注意!
乳幼児の吸入はインタールが最頻使用薬剤ですが、等張性が保たれないと安全性が損なわれる可能性があるため、
ジェネリック切替時はメーカーに浸透圧情報の確認が必須
薬局での安易な変更は避けるべきです。
小児のメプチン容量はどうする?0.1mL/0.3mLの根拠のなさ
小児吸入量に「明確な根拠はない」
一般的に、
・0.1mL(乳幼児)
・0.2mL(幼児)
・0.3mL(学童)
のように使い分けられていますが、実は、
「臨床データはほとんど成人をもとにしている」
さらに、
「吸入効率は年齢差より器具の性能差による影響が大きい」
という指摘もあるため、単純に容量差をつける根拠は乏しいのです。
● 重要なのは「投与量」ではなく「吸入効率」
小児では、以下の要素が薬効を大きく左右します。
要因と影響
・マスクかチャンバーか:吸入効率の差
・啼泣・過呼吸:吸入失敗
・ネブライザー性能:粒子径・噴霧量の違い
つまり、薬剤量よりも器具の指導の方が臨床上重要になります。
薬局での指導ポイントまとめ
| 指導項目 | 内容 |
|---|---|
| 希釈液 | 生理食塩水を使用、注射用水・水道水はNG |
| 混合順序 | インタール → メプチン |
| 吸入器具 | 指定されたものを使用、代替不可の場合あり |
| ミス防止 | 使い残し・分割使用は禁止 |
| 小児 | 量より器具と方法が重要 |
メプチンは「そのままでも吸入できる」が、臨床的には「希釈・混合」が理にかなっている
観点
・製剤設計:ユニットは無希釈使用が可能
・浸透圧:低張なので喘息発作誘発の可能性
・インタール混合:等張液として刺激緩和、臨床的に意義あり
・ジェネリック:低張性に注意、乳幼児は特に慎重に
・小児容量:容量より吸入効率・器具が重要
吸入治療は、薬の知識だけではなく 物性・器具・患者状況 の総合理解が必要です。
「希釈するべきか?」ではなく、
「この患者にとって最も安全で効果的か?」
という視点で判断する薬剤師こそ、臨床で信頼される薬剤師です。




