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チャンピックスを12週間以上処方しちゃダメ?
公開. 更新. 投稿者:喘息/COPD/喫煙.この記事は約4分10秒で読めます.
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チャンピックスの処方、12週間超えたら保険が効かない?

禁煙治療薬「チャンピックス(一般名:バレニクリン)」は、禁煙補助薬として非常に効果が高く、医療機関での禁煙外来などでも広く使われています。しかし、その処方には「12週間」という大きな壁があることをご存じでしょうか?
実は、チャンピックスを13週目以降も保険で処方することは原則できません。その理由や制度上の制限、患者負担額の実際、薬剤師としての対応ポイントを勉強します。
チャンピックスの保険適用は「12週間まで」が基本
添付文書に記載された「保険算定不可」の条件とは?
チャンピックスの添付文書には、以下のような記載があります:
本製剤の薬剤料については、ニコチン依存症管理料の算定に伴って処方された場合に限り算定できることとする。…処方せんによる投薬の場合においては、備考欄に「ニコチン依存症管理料の算定に伴う処方である。」と記載すること。
さらに、
[用法・用量に関連する使用上の注意]3.または4.の処方に係る投与については、算定することはできない。
この「3.」「4.」に該当するのが、12週を超えた処方や、再チャレンジの場合です。
添付文書の「用法・用量に関連する使用上の注意」第3・4項の内容
3.延長投与:最初の12週間で禁煙に成功した場合に限り、必要に応じてさらに12週間の投与を延長可能(ただし自費)。
4.再喫煙・再治療:禁煙に失敗した場合は、再チャレンジ可能。ただし、失敗の原因分析と対応策を講じた後でなければ再処方できない。
つまり、チャンピックスは12週以上使っても良いのですが、「13週目以降は保険の対象外」というのが原則です。
実際の自己負担額は?~13週目以降は全額自己負担~
チャンピックスを12週分(標準的な投与スケジュール)自費で購入すると、以下のようになります:
チャンピックス錠0.5mg(単価:132.6円)計10回程度➡約1,326円
チャンピックス錠1mg(単価:237.4円)計154回(1日2回×11週間)➡約36,589円
合計:約38,000円以上
これに診察料や再診料などを加えると、4万円を超えることも珍しくありません。
処方箋には「備考欄」の記載が必須
チャンピックスが保険で調剤できるのは、以下の条件を満たす処方のみです:
・処方箋の備考欄に「ニコチン依存症管理料の算定に伴う処方である」と明記
・ニコチン依存症管理料を算定できる医療機関からの処方であること
この記載がなければ、保険請求は認められず、疑義照会が必要になります。
「ニコチン依存症管理料」とは?~算定要件を確認~
保険診療で禁煙治療を行うには、「ニコチン依存症管理料」が算定されていなければなりません。その要件は以下の通り:
患者の条件(全てを満たす必要あり)
・TDSテストでニコチン依存症と診断されている
・ブリンクマン指数が200以上(1日20本×10年以上など)
・直ちに禁煙したい意思がある
・文書で同意している
・過去1年以内に同様の治療で保険を使っていない
医療機関の施設基準
・敷地内禁煙
・禁煙治療経験のある医師
・呼気COモニターの設置
・治療結果を行政に報告 など
若年層はブリンクマン指数の壁に注意
例えば20代で喫煙歴5年の人では、1日20本でもブリンクマン指数は100にしかなりません。
その場合、保険適用外=自費治療になります。
実際には喫煙歴の申告は自己申告制のため、「1日40本吸ってました」と言えば通るケースもありますが、医療者としては本来のルールに則った対応が望ましいところです。
チャンピックスはなぜ「食後服用」?
チャンピックスの服用スケジュールは、添付文書に次のように定められています:
・第1~3日目:0.5mgを1日1回(食後)
・第4~7日目:0.5mgを1日2回(朝夕食後)
・第8日目以降:1mgを1日2回(朝夕食後)
この「食後」という指定には理由があります。
食後服用の理由:消化器系副作用の軽減
チャンピックスは比較的多くの患者で以下のような消化器系副作用が報告されています:
・嘔気(吐き気)
・腹部膨満感
・上腹部痛
・便秘
特に服用初期や用量変更時に副作用が出やすく、空腹時の服用で悪化する可能性があるため、食後服用が推奨されています。
チャンピックスだけじゃない!ニコチンパッチの保険適用にも注意点
ニコチン貼付剤「ニコチネルTTS」も、チャンピックスと同様に「ニコチン依存症管理料に基づく処方」でなければ保険は効きません。
処方箋に備考記載がない場合、こちらも疑義照会が必要になります。
OTCのニコチンパッチと医療用の違い
OTC(一般用医薬品)では、「ニコチネル」「シガノン」「ニコレット」などの製品があります。これらは保険適用外ですが、購入は自由です。
OTCでは、以下のようなステップ式で使用されます:
・ステップ1(強):6週間
・ステップ2(弱):2週間(または不要)
メーカー説明文では、ステップ1の6週間だけでもOKと書かれていますが、本気で禁煙したいなら指導付きの医療用が効果的です。
まとめ:12週超えたら原則「自費」!保険を使うにはルールを守ること
チャンピックスは、非常に優れた禁煙補助薬です。しかし保険適用には厳格なルールがあり、
・12週間を超えると保険対象外
・処方箋には「ニコチン依存症管理料に基づく」と記載必須
・再治療には1年以上のインターバルが必要
・対象外患者(若年・ブリンクマン指数不足)は自費対応
という点を押さえる必要があります。
薬剤師としては、処方内容と処方箋の記載を確認し、不適切な保険請求にならないよう疑義照会を徹底することが求められます。