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前立腺がん治療薬の一覧
公開. 更新. 投稿者:癌/抗癌剤. タグ:薬の一覧. この記事は約3分20秒で読めます.
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前立腺がん治療薬の一覧
分類 | 商品名 | 一般名 | |
---|---|---|---|
エストロゲン製剤 | エストラサイト | エストラムチンリン酸エステルナトリウム水和物 | |
プロセキソール | エチニルエストラジオール | ||
抗アンドロゲン薬 | 第一世代 | オダイン | フルタミド |
プロスタール | クロルマジノン酢酸エステル | ||
カソデックス | ビカルタミド | ||
第二世代(アンドロゲン受容体シグナル阻害薬) | イクスタンジ | エンザルタミド | |
アーリーダ | アパルタミド | ||
ニュベクオ | ダロルタミド | ||
CYP17阻害薬 | ザイティガ | アビラテロン酢酸エステル | |
GnRHアゴニスト | ゾラデックス | ゴセレリン酢酸塩 | |
リュープリン | リュープロレリン酢酸鉛 | ||
GnRHアンタゴニスト | ゴナックス | デガレリクス酢酸塩 |
前立腺がん治療薬の分類
前立腺がんの多くはアンドロゲン(男性ホルモン)依存性であり、テストステロンやその活性代謝物であるジヒドロテストステロン(DHT)が、前立腺がん細胞の増殖・進展に深く関与しています。
ちなみにアンドロゲンの代表物質がテストステロンという物質です。
このため治療の第一選択としては、ホルモン療法(アンドロゲン除去療法, Androgen Deprivation Therapy: ADT)が行われ、主に以下の2つの経路でアンドロゲン作用の遮断を目指します。
①アンドロゲンの「産生」を抑える薬剤群
GnRHアゴニスト(LH-RHアゴニスト)
GnRHアンタゴニスト(LH-RHアンタゴニスト)
CYP17阻害薬(ステロイド合成酵素阻害薬)
②アンドロゲンの「作用」を遮断する薬剤群
抗アンドロゲン薬(第一世代)
次世代ARシグナル伝達阻害薬(第二世代抗アンドロゲン薬)
GnRHアゴニスト(LH-RHアゴニスト)
代表薬:リュープロレリン(リュープリン®)、ゴセレリン(ゾラデックス®)など
発売時期:1980年代後半~1990年代初頭(リュープリンは1989年に国内承認)
作用機序:
・視床下部-下垂体-精巣軸を介して、LH・FSHの分泌を制御
・初期にはテストステロンの一過性上昇(flare現象)
・持続投与でGnRH受容体が脱感作 → LH・FSH分泌が抑制 → 精巣でのテストステロン産生低下
特徴:
・flare現象対策として、投与初期に抗アンドロゲン薬を併用
・徐放製剤により1か月・3か月・6か月製剤あり
・注射製剤のためコンプライアンスは良好
GnRHアンタゴニスト(LH-RHアンタゴニスト)
代表薬:デガレリクス(ゴナックス®)、レルゴリクス(オルゴビクス®)
発売時期:デガレリクスは2012年、レルゴリクスは2022年に経口剤として登場
作用機序:
・GnRH受容体に直接結合して遮断
・LH・FSH分泌を即時かつ持続的に抑制
特徴:
・flare現象がない
・効果発現が速やか(数日以内にテストステロンが去勢レベルへ)
・レルゴリクスは初の経口GnRHアンタゴニストとして、注射が困難な患者への新たな選択肢
CYP17阻害薬(ステロイド合成酵素阻害薬)
代表薬:アビラテロン(ザイティガ®)
発売時期:2014年に日本で承認(去勢抵抗性前立腺がん)
作用機序:
・ステロイドホルモン合成の鍵酵素であるCYP17A1を阻害
・副腎・腫瘍細胞でのアンドロゲン産生を抑制
特徴:
・副腎皮質ホルモン産生も抑えるため、プレドニゾロン併用が必須
・高血圧、低カリウム血症、肝障害などの副作用に注意
・去勢抵抗性だけでなく、転移性ホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)にも適応拡大
抗アンドロゲン薬(第一世代)

代表薬:ビカルタミド(カソデックス®)
発売時期:1990年代
作用機序:
・アンドロゲン受容体(AR)に拮抗し、テストステロンの作用をブロック
特徴:
・単剤では効果が弱いため、GnRHアゴニストとの併用(CAB療法)が一般的
・肝障害や乳房圧痛などの副作用あり
・長期使用でARの変異や脱抑制(アンチアンドロゲン撤退症候群)が起こることも
次世代ARシグナル伝達阻害薬(第二世代抗アンドロゲン薬)
代表薬:
アパルタミド(アーリーダ®):2019年承認
エンザルタミド(イクスタンジ®):2014年承認
ダロルタミド(ニュベクオ®):2021年承認
作用機序:
・ARへの結合阻害
・ARの核内移行阻止
・AR-DNA結合阻害 → 多段階でARシグナル遮断
特徴:
・高いAR遮断力と長期効果で、去勢抵抗性前立腺がんに対して有効
・アーリーダ:皮膚障害、甲状腺機能異常に注意(日本人で高頻度)
・イクスタンジ:中枢系副作用(けいれん、疲労、認知障害)
・ニュベクオ:中枢移行性が低く、安全性に優れる(高齢者に向く)
前立腺がん治療薬の歴史
年代 | 出来事・薬剤 | 意義 |
---|---|---|
1940年代 | 外科的去勢 | アンドロゲン依存性の発見 |
1980年代 | GnRHアゴニスト登場(リュープリンなど) | 化学的去勢によるホルモン療法開始 |
1990年代 | 第一世代抗アンドロゲン(ビカルタミド) | CAB療法の定着 |
2012年 | GnRHアンタゴニスト(デガレリクス) | flare現象なしの新機序 |
2014年 | CYP17阻害薬(アビラテロン)、エンザルタミド | 去勢抵抗性がんへの対応 |
2019年~ | アパルタミド、ダロルタミド | 非転移CRPCやmHSPCへの適応拡大 |
前立腺がん治療は、単なる「アンドロゲン遮断」から「ARシグナルの多段階遮断」へと進化してきました。現在では、去勢感受性の初期段階から、転移を伴うホルモン感受性がん(mHSPC)、非転移CRPC、そして進行した去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)まで、病期や病態に応じた個別化治療が進んでいます。
高齢化社会において前立腺がんの患者数は増加の一途をたどっており、安全性と有効性の両立がより求められる時代です。今後は、AR標的以外の分子や、がん免疫、DNA修復機構を狙った新たな治療薬の登場にも期待がかかります。