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インフルエンザ治療薬の一覧とその特徴
公開. 更新. 投稿者:風邪/インフルエンザ. タグ:薬の一覧. この記事は約5分40秒で読めます.
4,012 ビュー. カテゴリ:インフルエンザ治療薬の一覧
分類 | 商品名 | 一般名 | 剤形・規格 |
---|---|---|---|
ノイラミニダーゼ阻害薬 | タミフル | オセルタミビルリン酸塩 | カプセル(75㎎)、ドライシロップ(3%) |
リレンザ | ザナミビル水和物 | 吸入(5mg/ブリスター) | |
イナビル | ラニナミビルオクタン酸エステル水和物 | 吸入粉末剤(20㎎) | |
RNAポリメラーゼ阻害薬 | アビガン | ファビピラビル | 錠(200㎎) |
キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬 | ゾフルーザ | バロキサビル マルボキシル | 錠(10㎎、20㎎)、顆粒分包(2%) |
M2蛋白阻害薬 | シンメトレル | アマンタジン塩酸塩 | 錠(50㎎、100㎎)、細粒(10%) |
インフルエンザ治療薬の分類
インフルエンザウイルスの増殖は、①吸着→②侵入→③脱穀→④複製→⑤放出という流れで行われます。インフルエンザウイルス治療薬はこの過程のいずれかを邪魔する薬です。
①吸着:インフルエンザウイルスの外殻と親和性のある分子(受容体)が細胞膜上に存在すると、ウイルスが吸着します。
②侵入:ウイルスが細胞内に取り込まれます。
③脱殻:ウイルスが被っていたタンパク質の殻を脱ぎ捨てます。
④複製:ウイルスの遺伝子情報が細胞の核に送り込まれ、転写・複製(コピー)されます。
⑤放出:複製が終了したウイルスが細胞の中から外へ飛び出し、他の細胞に侵入して増殖します。
インフルエンザウイルスの表面には2つの重要なスパイクタンパクがあります:
・ヘマグルチニン(HA):ウイルスが標的細胞の受容体に結合するために必要
・ノイラミニダーゼ(NA):増殖したウイルスが細胞から離脱する際に必要
インフルエンザ治療薬には、ノイラミニダーゼ阻害薬、RNAポリメラーゼ阻害薬、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬、M2蛋白阻害薬の4種類がある。
ノイラミニダーゼ阻害薬

作用機序:
・ウイルス表面のノイラミニダーゼ(NA)を阻害
・感染細胞からのウイルス放出を妨げる
・ウイルスの細胞間拡散を抑制
ノイラミニダーゼ阻害薬は、インフルエンザウイルスの表面にあるノイラミニダーゼ(NA)という酵素の働きを阻害します。ノイラミニダーゼは、感染した細胞の表面に残るシアル酸残基を切断することで、新たに複製されたウイルスが細胞外に放出されるのを助けています。この酵素を阻害することで、ウイルスが細胞から離脱できず、感染の拡大を防ぐことができます。
特徴:
・A型・B型インフルエンザにともに有効。
・発症から48時間以内の投与が基本とされる。
・吸入や経口が困難なケースでは点滴静注薬であるラピアクタを選択。
・小児・高齢者では吸入がうまくできない可能性があり、イナビルやリレンザは慎重に使う。
・妊婦への使用も比較的安全性が高いとされる。
この薬剤群は、A型およびB型インフルエンザの両方に有効で、比較的耐性ウイルスが少ないという利点があります。経口(タミフル)、吸入(リレンザ、イナビル)、静注(ラピアクタ)といった複数の剤形があり、患者の年齢や症状、服薬状況に応じた柔軟な対応が可能です。特に、イナビルは1回吸入で治療が完了するという利便性から、通院が難しい患者にも適しています。
C型インフルエンザウイルスにはヘマグルチニンエステラーゼ(HE)しか存在しないのでノイラミニダーゼ阻害薬は効かない。
RNAポリメラーゼ阻害薬
作用機序:
・RNA依存性RNAポリメラーゼを阻害
・RNA鎖の伸長を阻止
・ウイルスゲノムの複製を阻害
RNAポリメラーゼ阻害薬は、RNAポリメラーゼによるウイルスゲノムRNAの複製を阻害することによりウイルス増殖を抑制する。
ウイルスRNAポリメラーゼは、生体内で代謝されて活性化したファビピラビルをヌクレオチドと誤認識し、RNA鎖に取り込む。ファビピラビル活性体が取り込まれた後は、RNA鎖を伸長できなくなり、その結果ウイルスゲノムRNAやmRNAを複製できなくなり、ウイルスの増殖が抑制される。
ノイラミニダーゼ阻害薬はウイルスの細胞内での増殖を抑制しないが、ファビピラビルはウイルスの増殖そのものを阻害するため、発症から48時間を超えていても効果が期待できる。また、耐性獲得の原因となるウイルスゲノムRNAの生成を阻害するので、耐性が生じにくいと考えられている。
特徴:
・発症から時間が経過していても効果が期待できる
・耐性ウイルスが出にくい
・催奇形性のため妊婦・妊娠可能女性は禁忌
・国内では原則使用されず、備蓄薬扱い
この薬剤は、他の抗ウイルス薬と異なり、ウイルスの複製そのものを阻害するというユニークな作用を持ちます。通常の季節性インフルエンザでは用いられませんが、新型インフルエンザやパンデミック時など、特別な状況下での使用が想定されています。安全性に関しては、特に妊娠中の使用には厳格な管理が求められます。
キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬
作用機序
・キャップ依存性エンドヌクレアーゼを阻害
・キャップスナッチングを妨害
・ウイルスmRNAの合成を抑制
インフルエンザウイルスは、自身のmRNAを作る際に宿主細胞のmRNA前駆体から「キャップ構造」を切り取って利用する“キャップスナッチング”という機構を用います。ゾフルーザはこの過程に関与するキャップ依存性エンドヌクレアーゼを阻害し、mRNA合成を止めることでウイルスのタンパク質合成と増殖を抑制します。
特徴:
・経口1回投与で治療完結
・A型・B型インフルエンザにともに有効。
・迅速にウイルス量を減少させる
・耐性ウイルスの出現に注意(特に小児)
・12歳未満は原則使用不可
ゾフルーザは、従来の治療薬と異なり、1回の服用で治療が終了する利便性が最大の魅力です。投与後すぐにウイルスの排出量が減少するため、感染拡大防止の観点でも評価されています。一方で、小児を中心に耐性株の出現が報告されており、年齢や免疫状態を考慮した慎重な使用が求められます。
M2蛋白阻害薬
M2蛋白阻害薬には、パーキンソン病治療薬としても用いられるシンメトレル(アマンタジン)がある。
作用機序
・A型ウイルスのM2タンパクを阻害
・脱殻(アンコーティング)を阻止
・ウイルスRNAの細胞内放出を阻止
インフルエンザA型ウイルスは、感染した細胞内でpH変化に応じてウイルス殻を脱ぎ、中のRNAを放出する必要があります。M2タンパクはそのプロセスに関与するイオンチャネルであり、アマンタジンはこの機能を阻害することでウイルスの複製サイクルを初期で断ち切ります。
A型インフルエンザウイルスのM2蛋白を阻害し、脱穀を阻害する。
B型インフルエンザのM2蛋白(BM2蛋白)はA型のM2蛋白と構造が大きく異るため効かない。
特徴
・A型インフルエンザにのみ有効
・耐性ウイルスが世界的に蔓延
・中枢神経系副作用に注意(せん妄・振戦など)
・現在はほぼ使用されていない
M2タンパク阻害薬は、かつてインフルエンザ治療に使用されていましたが、耐性の蔓延と副作用のリスクから、現在では臨床での使用はほとんど見られません。特に高齢者では中枢刺激による副作用が問題となりやすく、現在は主にパーキンソン病の治療薬としての用途で見かけることが多くなっています。