2025年6月1日更新.2,485記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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ザイティガとイクスタンジの違い

ザイティガとイクスタンジ

前立腺がんの治療において、ホルモン療法は中心的な役割を果たします。特に「去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)」の進行を抑えるために、内服のホルモン療法薬として使用されるのが、「イクスタンジ(一般名:エンザルタミド)」と「ザイティガ(一般名:アビラテロン酢酸エステル)」です。

イクスタンジ(エンザルタミド)の作用機序

・アンドロゲン受容体(AR)に強力に結合し、アンドロゲンの作用を遮断。
・ARの核内移行やDNA結合まで阻害し、多段階でARシグナル伝達をブロック。
・「アンドロゲンの“働き”を止める薬」。

イクスタンジの薬効分類は、ARシグナル伝達阻害薬(次世代抗アンドロゲン薬)であり、抗アンドロゲン薬としては、第一世代(例:ビカルタミド)に対する第二世代に分類されます。
アパルタミド(アーリーダ)、ダロルタミド(ニュベクオ)も「アンドロゲンの作用を阻害」する薬であり、AR(アンドロゲン受容体)を標的とする点で共通しますが、薬剤ごとの受容体結合力・中枢移行性・副作用プロファイルに違いがあります。

前立腺がん細胞は、テストステロンやDHT(ジヒドロテストステロン)という男性ホルモンに刺激されて増殖します。このホルモンは、前立腺がん細胞内のアンドロゲン受容体(AR)に結合し、ARが核内へ移動し、DNAと結合して「がん細胞の増殖指令」を出す、という一連の流れがあります。

イクスタンジは、このARを介したシグナル伝達を3段階でブロックします。

①ARへのアンドロゲン結合を阻止
→ テストステロンなどがARに結合するのを競合的に阻害。

②ARの核内移行を阻害
→ ARが核内に移動してDNAを活性化する過程をブロック。

③ARがDNAに結合するのを阻止
→ 最終的な遺伝子発現のスイッチをオフにします。

これにより、たとえ体内にアンドロゲンが存在していても、その作用が細胞に伝わらなくなり、がん細胞は増殖できなくなります。

従来のビカルタミドなどは、ARへの結合阻害にとどまっていたため、ARの変異や活性化によって耐性が出やすいという課題がありました。
イクスタンジは多段階阻害のため、より強力かつ持続的な治療効果が期待できます。

ザイティガ(アビラテロン)の作用機序

・CYP17A1という酵素を阻害し、副腎や腫瘍細胞におけるアンドロゲンの合成を抑制。
・アンドロゲン受容体には関与せず、「体内でアンドロゲンを“作らせない薬”」。

ザイティガの薬効分類は、CYP17阻害薬(ステロイド合成酵素阻害薬)です。
ステロイドホルモンの合成経路のうち、「アンドロゲンを作る段階」をブロックする薬です。
現時点で国内ではザイティガが唯一のCYP17阻害薬ですが、海外ではオダラテロン(ODM-204)などの開発も進行中です。

テストステロンやDHTは、以下のようなステップで合成されます:
コレステロール → プロゲステロン → プレグネノロン → CYP17酵素(17α-ヒドロキシラーゼ/17,20-リアーゼ)による変換 → アンドロゲン
このCYP17という酵素は、アンドロゲンの合成において極めて重要な分岐点にあたります。

ザイティガは、このCYP17A1酵素を選択的に阻害します。その結果:
・副腎由来のアンドロゲン産生が低下
・腫瘍細胞自体が作り出すアンドロゲンも抑制
となり、体内のアンドロゲン濃度が大幅に低下します。

CYP17を阻害すると、副腎ホルモンの経路全体にも影響が出てしまい、コルチゾールの産生も低下します。これにより、負のフィードバックでACTHが過剰分泌され、ミネラルコルチコイド(アルドステロン)増加 → 高血圧や低K血症のリスクが高まるため、それを防ぐ目的でステロイド(プレドニゾロン)を併用します。

用法の違い

項目イクスタンジザイティガ
服用回数1日1回1日1回
食事の影響なし(いつでも可)空腹時必須(食前1時間/食後2時間以降)
併用薬不要プレドニゾロン併用必須
剤形カプセル/錠剤錠剤(250mg)

イクスタンジは服薬の自由度が高く、ザイティガは服用タイミングや併用薬の管理が重要です。

副作用の違い

イクスタンジの副作用:
・けいれん(稀だが注意)、疲労、眠気、認知機能の低下、高血圧
・中枢神経系に作用する可能性があり、運転や高齢者の転倒リスクに注意

ザイティガの副作用:
・高血圧、低カリウム血症、肝障害、浮腫
・副腎皮質機能低下を防ぐためにステロイド(プレドニゾロン)併用が必要

ザイティガはステロイドに起因する副作用や、肝機能・電解質の管理が重要です。

観点イクスタンジザイティガ
作用点AR(アンドロゲン受容体)アンドロゲン合成酵素(CYP17)
機序の特徴受容体の多段階阻害アンドロゲンの合成抑制
食事の制限なしあり(空腹時服用)
併用薬なしプレドニゾロンが必須
主な副作用疲労、けいれん、中枢症状高血圧、低K血症、肝障害

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