記事
ザイティガとイクスタンジの違い
公開. 更新. 投稿者:前立腺肥大症/過活動膀胱.この記事は約3分12秒で読めます.
6,127 ビュー. カテゴリ:ザイティガとイクスタンジ

前立腺がんの治療において、ホルモン療法は中心的な役割を果たします。特に「去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)」の進行を抑えるために、内服のホルモン療法薬として使用されるのが、「イクスタンジ(一般名:エンザルタミド)」と「ザイティガ(一般名:アビラテロン酢酸エステル)」です。
イクスタンジ(エンザルタミド)の作用機序
・アンドロゲン受容体(AR)に強力に結合し、アンドロゲンの作用を遮断。
・ARの核内移行やDNA結合まで阻害し、多段階でARシグナル伝達をブロック。
・「アンドロゲンの“働き”を止める薬」。
イクスタンジの薬効分類は、ARシグナル伝達阻害薬(次世代抗アンドロゲン薬)であり、抗アンドロゲン薬としては、第一世代(例:ビカルタミド)に対する第二世代に分類されます。
アパルタミド(アーリーダ)、ダロルタミド(ニュベクオ)も「アンドロゲンの作用を阻害」する薬であり、AR(アンドロゲン受容体)を標的とする点で共通しますが、薬剤ごとの受容体結合力・中枢移行性・副作用プロファイルに違いがあります。
前立腺がん細胞は、テストステロンやDHT(ジヒドロテストステロン)という男性ホルモンに刺激されて増殖します。このホルモンは、前立腺がん細胞内のアンドロゲン受容体(AR)に結合し、ARが核内へ移動し、DNAと結合して「がん細胞の増殖指令」を出す、という一連の流れがあります。
イクスタンジは、このARを介したシグナル伝達を3段階でブロックします。
①ARへのアンドロゲン結合を阻止
→ テストステロンなどがARに結合するのを競合的に阻害。
②ARの核内移行を阻害
→ ARが核内に移動してDNAを活性化する過程をブロック。
③ARがDNAに結合するのを阻止
→ 最終的な遺伝子発現のスイッチをオフにします。
これにより、たとえ体内にアンドロゲンが存在していても、その作用が細胞に伝わらなくなり、がん細胞は増殖できなくなります。
従来のビカルタミドなどは、ARへの結合阻害にとどまっていたため、ARの変異や活性化によって耐性が出やすいという課題がありました。
イクスタンジは多段階阻害のため、より強力かつ持続的な治療効果が期待できます。
ザイティガ(アビラテロン)の作用機序
・CYP17A1という酵素を阻害し、副腎や腫瘍細胞におけるアンドロゲンの合成を抑制。
・アンドロゲン受容体には関与せず、「体内でアンドロゲンを“作らせない薬”」。
ザイティガの薬効分類は、CYP17阻害薬(ステロイド合成酵素阻害薬)です。
ステロイドホルモンの合成経路のうち、「アンドロゲンを作る段階」をブロックする薬です。
現時点で国内ではザイティガが唯一のCYP17阻害薬ですが、海外ではオダラテロン(ODM-204)などの開発も進行中です。
テストステロンやDHTは、以下のようなステップで合成されます:
コレステロール → プロゲステロン → プレグネノロン → CYP17酵素(17α-ヒドロキシラーゼ/17,20-リアーゼ)による変換 → アンドロゲン
このCYP17という酵素は、アンドロゲンの合成において極めて重要な分岐点にあたります。
ザイティガは、このCYP17A1酵素を選択的に阻害します。その結果:
・副腎由来のアンドロゲン産生が低下
・腫瘍細胞自体が作り出すアンドロゲンも抑制
となり、体内のアンドロゲン濃度が大幅に低下します。
CYP17を阻害すると、副腎ホルモンの経路全体にも影響が出てしまい、コルチゾールの産生も低下します。これにより、負のフィードバックでACTHが過剰分泌され、ミネラルコルチコイド(アルドステロン)増加 → 高血圧や低K血症のリスクが高まるため、それを防ぐ目的でステロイド(プレドニゾロン)を併用します。
用法の違い
項目 | イクスタンジ | ザイティガ |
---|---|---|
服用回数 | 1日1回 | 1日1回 |
食事の影響 | なし(いつでも可) | 空腹時必須(食前1時間/食後2時間以降) |
併用薬 | 不要 | プレドニゾロン併用必須 |
剤形 | カプセル/錠剤 | 錠剤(250mg) |
イクスタンジは服薬の自由度が高く、ザイティガは服用タイミングや併用薬の管理が重要です。
副作用の違い
イクスタンジの副作用:
・けいれん(稀だが注意)、疲労、眠気、認知機能の低下、高血圧
・中枢神経系に作用する可能性があり、運転や高齢者の転倒リスクに注意
ザイティガの副作用:
・高血圧、低カリウム血症、肝障害、浮腫
・副腎皮質機能低下を防ぐためにステロイド(プレドニゾロン)併用が必要
ザイティガはステロイドに起因する副作用や、肝機能・電解質の管理が重要です。
観点 | イクスタンジ | ザイティガ |
---|---|---|
作用点 | AR(アンドロゲン受容体) | アンドロゲン合成酵素(CYP17) |
機序の特徴 | 受容体の多段階阻害 | アンドロゲンの合成抑制 |
食事の制限 | なし | あり(空腹時服用) |
併用薬 | なし | プレドニゾロンが必須 |
主な副作用 | 疲労、けいれん、中枢症状 | 高血圧、低K血症、肝障害 |