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肝排泄型薬物って何?
公開. 更新. 投稿者:相互作用/薬物動態.この記事は約8分41秒で読めます.
4,755 ビュー. カテゴリ:薬が体から出ていくメカニズム
薬が消失していくメカニズムについては、基礎的なことで理解しているつもりですが、添付文書上誤解されそうな文言で表記されているものもあり、私の理解も浅いので、学び直す。
最近は処方箋に検査値が記載されてくることも増えましたが、高齢患者のeGFRをみると、ほぼ腎機能は低下しているので、以前より腎排泄型薬物に対する意識が高まりました。
基本的に、食べ物でもそうですが、薬も、口から入れたものは、「うんこ」か「おしっこ」として体から出ていきます。
単純に言ってしまうと、「うんこ」が肝排泄型薬物、「おしっこ」が腎排泄型薬物というイメージです。
そして、水に溶ける薬(水溶性薬物)は「おしっこ」の中に溶けて流れて、油に溶ける薬(脂溶性薬物)はなんとなく「うんこ」の中に出されるイメージです。
色々と間違っていますが、そういうイメージはあります。薬を開発する段階では、そのような推測も大事でしょう。
肝排泄型薬物と腎排泄型薬物の違い
まず、一般的な「肝排泄型薬物」と「腎排泄型薬物」の違いについて説明します。
薬は尿中未変化体排泄率によって肝排泄型薬物と腎排泄型薬物にわけられます。
薬には主に肝臓で代謝される薬(肝排泄型薬物)と、腎臓で排泄される薬(腎排泄型薬物)に分けられます。
尿中未変化体排泄率が1(100%)に近い場合を腎排泄型、0(0%)に近い場合を肝排泄型、中間の0.5(50%)に近い場合は肝・腎排泄型という。
細かく分類すると、尿中未変化体排泄率が1に近い場合(0.7以上)の腎排泄型(アテノロール、シメチジン、メトホルミン、ACE阻害薬)、中間(0.5)に近い場合、肝・腎排泄型、0に近い場合(0.3以下)肝排泄型(デシプラミン、プロプラノロール、メトプロロール、アミオダロン、カルバマゼピン、モルヒネ、ARB)などがある。
また、肝臓で代謝されて薬効を失い、尿中に排泄される未変化体の割合が大体40%以下の場合を肝排泄型、肝臓で代謝されにくく未変化体のまま腎臓を通過する割合が60%以上のものを腎排泄型、中間の40%~60%を肝・腎排泄型と呼ぶ場合もあります。
腎排泄型薬物…尿中未変化体排泄率 60%以上
肝排泄型薬物…尿中未変化体排泄率 40%以下
肝・腎排泄型…中間の40%から60%のものをいう
ここらへんのパーセンテージはだいたいなので、教科書によって異なる。
肝排泄型薬物は肝機能低下時に投与すると肝臓に負荷を与える可能性はあるが、血中濃度が必ずしも上昇するとは限らない。
一方、腎排泄型薬物は腎機能低下時に投与すると血中濃度が上昇し、薬理作用が過剰に発現したり、薬理作用に基づく副作用があらわれる可能性が考えられる。
項目 | 腎排泄型薬物 | 肝排泄型薬物 |
---|---|---|
消化管吸収 | 低いが一定 | 高いがばらつく |
初回通過効果 | 受けにくい | 受けやすい |
肝臓への負荷 | 少ない | あり |
肝疾患血中濃度 | 変化なし | 不明 |
腎臓への負荷 | あり | 少ない |
腎疾患時血中濃度 | 上昇 | 変化は少ない |
酵素阻害・誘導 | 影響が少ない | 影響が多い |
尿中未変化体排泄率
肝排泄型と腎排泄型は「排泄」という部分に着目した分類であるが、薬が口の中に入って排泄されるに至るまでの薬物動態は、ADME、吸収・分布・代謝・排泄で構成されている。
経口投与した薬に対する尿中排泄の割合が低いとしても、吸収が悪いだけで、肝排泄型の薬物であるとは言いきれない。
薬の排泄経路を考えるときに、口から入る段階をスタートと考えるか、血液中にある状態をスタートと考えるかで考え方が異なる。
【ウブレチドの尿中排泄率】
ウブレチド(臭化ジスチグミン)の薬物動態の排泄に関する項目をみると、以下のように書かれている。
健常成人に14Cジスチグミン臭化物5mgを単回経口投与した結果、投与216時間後までの尿及び糞中への累積排泄率は、それぞれ6.5%及び88.0%であった。0.5mgを単回静脈内投与した結果、尿及び糞中への累積排泄率は、それぞれ 85.3%及び3.9%であった。
これらのことから、主な排泄部位は腎である。
この尿中排泄率6.5%だけを指標に薬物動態を考えると、尿中排泄の少ない薬剤と捉えてしまいがちである。
しかし、インタビューフォーム記載のバイオアベイラビリティ(4.65%)を考慮すると、吸収された臭化ジスチグミンは216時間後には100%排泄されることになり尿中排泄率の高い薬剤といえる。
臭化ジスチグミンの添付文書では、腎機能障害のある患者は慎重投与とされているが、明確な減量基準は示されていない。
腎機能が低下傾向にある高齢者では、意識障害を伴うコリン作動性クリーゼ(【初期症状】悪心・嘔吐、腹痛、下痢、唾液分泌過多、気道分泌過多、発汗、徐脈、縮瞳、呼吸困難など、【臨床検査】血清コリンエステラーゼ低下)が現れる危険性が報告されている。
【ゾビラックスの尿中排泄率】
ゾビラックス錠の添付文書の薬物動態の項目をみると、
健康成人にアシクロビル200mg及び800mgを単回経口投与した場合、48時間以内にそれぞれ投与量の25.0%及び12.0%が未変化体として尿中に排泄された。
と尿中未変化体排泄率をみると低くなっており、まるで肝排泄型薬物のように感じてしまう。
しかし、ゾビラックス点滴静注用の添付文書の薬物動態の項目をみると、
健康成人へ5又は10mg/kgを1時間点滴静注した時、48時間以内にそれぞれ68.6%又は76.0%が未変化体として尿中排泄された。
と書かれている。
同じ薬物でも経口剤と注射剤では尿中未変化体排泄率が違うのか?と疑問を感じる人もいるかもしれないが、そんなはずはない。
尿中未変化体排泄率は静注投与した場合のデータを採用するのが当然なのに、生体内利用率(バイオアベイラビリティ:ゾビラックス錠の場合、経口投与量のうち何%が血中に移行したか)を記載せずに尿中未変化体排泄率のデータを書いていることが問題である。
ちなみに文献データによるとアシクロビル錠のバイオアベイラビリティは15~30%と記載されているため、そのうち12~25%が排泄されるということは完全な腎排泄性薬物である。
しかし添付文書の「投与量の25.0%及び12.0%が未変化体として尿中に排泄された」という表現は投与設計に全く役に立たないばかりか、かえって誤解を生じることが危惧される。
ちなみにアシクロビルの投与量が高くなればなるほど吸収率が低下するため、小腸におけるアシクロビルの吸収は受動拡散ではなく何らかのトランスポータを介して吸収されるものと考えられる(トランスポータによる吸収は飽和過程がある)。
肝代謝型と肝排泄型
「うんこ」からの排泄経路を考えたとき、前述のADMEで吸収されなかった薬のパターンと、1回吸収されて肝臓で代謝されて胆汁中から排泄されるパターン、または肝臓で代謝も受けずそのまま未変化体として胆汁中に排泄されるパターンがある。
そのまま胆汁で排泄される薬は胆汁排泄型。
肝排泄型というワードは本当は正しくなくて「肝代謝型」が正しくて肝臓で無毒化、分解され消失する代謝経路。
あとは、尿から出される腎排泄型に分けられる。
しかし、この「肝代謝型」というワードも、誤解を生むわかりにくいワードであると思っている。
なぜなら、代謝されて無毒化される薬ばかりではないからだ。
プロドラッグを含め、活性代謝物に毒性があるものも多く存在する。
肝臓で代謝を受けて活性代謝物となり、血液中を流れ、腎臓から排泄される。これは腎排泄型薬物ということになる。
分類したいのであれば、問題となるケースの多くが腎機能低下患者に対する投与量、禁忌などであるので、「腎排泄型」と「それ以外」でいいような気がする。
あるいは「腎臓型」と「肝臓型」とすればイチャモンつけられないかな。
油水分配係数で肝排泄か腎排泄かわかるか?
水溶性薬物は腎排泄型薬物で、脂溶性薬物は肝排泄型薬物という話。
水溶性の薬物は、肝臓での代謝を受けず、そのままの形(未変化体)で腎から排泄される。
未変化体のまま腎から排泄される薬剤を腎排泄型薬剤という。
腎機能が低下したとき、薬物の消失を腎臓に頼る腎排泄型薬剤は、半減期が延長する、副作用や毒性が増幅するなどが現れる。
薬剤(物質)の水溶性及び脂溶性の物性を示す基準としてO/W比:n-オクタノール/水分配係数がある。
薬がn-オクタノールに溶ける割合が多い場合は、油水分配係数は1より大きい正の数をもち、脂溶性を示します。
薬が水に溶ける割合が多い場合は1に満たない正の数をもち、水溶性を示します。
通常、脂溶性の薬は肝排泄型薬物の性格をもち、水溶性の薬は腎排泄型薬物の性格をもちます。
油水分配係数はlogPとして対数で表されることが多く、脂溶性であれば正の数であり、水溶性であれば負の数になります。
油水分配係数は脂溶性の程度を推測するには便利ですし、尿中未変化体肺排泄率の値の記載がない時には、薬の性格の判断に使えます。
しかし、油水分配係数は in vitro の値でpHにより異なります。
In vivo の値である尿中未変化体排泄率は腎機能低下者の薬物投与量を決める時に使いますが、油水分配係数は薬物動態値ではありませんので、尿中未変化体排泄率とは性格が異なり、比較できないのです。
腎排泄か肝代謝かを区別する方法として、通常は未変化体(薬効本体)の主消失経路で判断します。経口薬の場合は、ヒトでの経口投与後あるいは静脈内投与後の未変化体尿中排泄率が50%ないし60%以上あれば、腎排泄型の薬物と見なしてほぼ間違いありません。加えて、腎排泄型の薬物には、そもそも親水性という特徴があります。構造式を見ただけでもある程度判断が付きますし、多くの静脈内投与の薬は一般に水によく溶けます。したがって、静脈内投与される多くの抗菌薬をはじめ、静脈内投与の薬は腎排泄型であることが多いということになります。
ただし、経口薬で未変化体尿中排泄率が低い場合に気を付けなければならないのは、生物学的利用率が低い可能性を考えなければならない点です。したがって、静脈内投与時の尿中排泄率を調べて判断することが望ましいですが、その数値がない場合には経口投与時の尿中排泄率を生物学的利用率で除して、その値が50%ないし60%以上あるかで判断することが必要になります。
なお添付文書の尿中排泄率は、放射性標識体投与時の放射能値の場合があり、代謝物を含むこともあるので判断には使えません。十分に注意が必要です。
プロドラッグの場合は、未変化体ではなく薬効本体で評価します。何が薬効を決めているのかを、十分考慮して肝代謝型か腎排泄型かを判断することが必要です。
肝疾患患者に肝排泄型薬物投与時減量すべきか?
腎臓病患者に腎排泄型薬物を投与するとき、減量します。
減量しなければ、確実に血中濃度が上がります。
しかし、肝疾患時に肝排泄型薬物を投与しても直接血中濃度の上昇につながるかどうかはわからない。
なぜなら、肝臓は代償性が大きな臓器で、肝臓のダメージが直接薬の排泄に影響しない場合もあるからです。
勉強ってつまらないなぁ。楽しみながら勉強できるクイズ形式の勉強法とかがあればなぁ。
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