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眠気覚ましに目薬が効く?
公開. 更新. 投稿者:眼/目薬/メガネ.この記事は約4分47秒で読めます.
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眠気覚ましに目薬は効果的?

受験勉強中の学生や、深夜の車の運転をするドライバーが「眠気覚ましに目薬を使う」という話は、薬局やドラッグストアでもよく耳にします。「目がスーッとして気持ちいい」「少し頭が冴えるような気がする」といった感覚は、実際のところどのような生理的・薬理的反応によるものなのでしょうか。
◆ なぜ目薬で眠気が覚めるのか? ─涙と覚醒の関係
「涙=眠い」ではなく、実は涙=覚醒のサインという見方ができます。
人間の体には、日中の活動と夜間の休息を司る概日リズム(サーカディアンリズム)があります。このリズムにより、以下のような目の変化が自然に起こります。
・日中:涙の分泌量が多い(目が潤っている)
・夕方以降:涙の分泌が減少し、目がしょぼしょぼしてくる
この「目の乾き」や「しょぼつき」が、眠気の前兆として知覚されやすいのです。そして眠くなると自然に「まばたき」が深くなり、涙を分泌しようとする反応が起こります。
◆目薬で涙の代わりを補うと脳が「覚醒」と認識
こうした自然の涙に代わって目薬を点眼すると、以下のような現象が起こります。
・一時的に涙液層が安定し、眼球が潤う
・視界がクリアになり、目の疲れや乾きが軽減
・スーッとする清涼感(メントールなど)で感覚神経が刺激される
・それが「覚醒反応」に近い信号として中枢に届く
つまり、目薬によって一時的な「覚醒の錯覚」を脳が受け取ることで、眠気がやわらぐように感じるのです。
メントール成分がもたらす「刺激」と「目覚まし効果」
多くの市販の目薬には、清涼感を得るためにメントールやカンフルなどの成分が配合されています。これらは「覚醒作用」を持っているわけではありませんが、冷感受容体(TRPM8)を刺激することで、スーッとした感覚を与えます。
◆TRPM8の役割とは?
・TRPM8は「冷たい」と感じる感覚をつかさどるイオンチャネル
・メントールや低温によって活性化され、「ひんやり感覚」を生じる
・目薬に含まれるメントールはこの受容体を刺激して脳をシャキッとさせる
◆眠気覚ましというより「感覚のシャープ化」
メントール成分の作用で、あたかも涼しい風に吹かれたような清涼感が得られます。これにより、一時的に眠気が紛れたり、意識が冴えたりする感覚が得られます。
ただし、これは中枢神経刺激作用ではなく、末梢神経刺激に近いもの。コーヒーのカフェインとは全く異なるメカニズムです。
実際に「眠気覚まし」に使われやすい市販目薬の特徴
以下のような特徴を持つ目薬が、眠気覚ましとして好まれる傾向があります。
・清涼感強め:メントールやカンフルを高濃度で配合
・抗ヒスタミン成分配合:かゆみ・炎症を抑えて目の疲れも軽減
・血管収縮成分入り:結膜充血を抑え、見た目もスッキリ
主な有効成分の例:
・l-メントール:冷感作用
・カンフル:清涼感、感覚刺激
・ナファゾリン塩酸塩:血管収縮作用(結膜充血の除去)
・クロルフェニラミンマレイン酸塩:抗ヒスタミン作用
清涼感レベルの表示
市販目薬では「清涼感レベル○段階」などと記載されていることが多く、ユーザーが清涼感の強さで選ぶことが一般的です。
メリットとリスク ─ 眠気覚まし使用の注意点
◆メリット:
・一時的に目が覚めたように感じる
・視界がクリアになり、集中力が高まることがある
・夜間運転や勉強中に気分転換として活用できる
◆デメリット・リスク:
・根本的な眠気の解消にはならない(睡眠不足の改善にはならない)
・ドライアイ時には逆効果:涙の蒸発が進み、刺激成分が濃縮されてしまう
・清涼感成分による眼表面の刺激・角膜障害のリスク
・頻用・依存的使用につながりやすい
特に注意:
・ナファゾリンなどの血管収縮成分は、長期使用で「リバウンド充血」や角膜栄養障害のリスクも
・清涼感が強い=効果が強いと誤解されやすく、頻回使用につながる恐れあり
薬剤師が伝えるべきアドバイス:使用目的を明確に
薬局・薬店で相談を受けた際には、「眠気覚まし」として目薬を使いたいという利用者に対して、以下のような説明が有効です。
説明ポイント:
「目がスッキリするのは一時的な感覚で、眠気を本質的に取る作用ではありません」
「清涼感が強いほど、ドライアイや眼精疲労の悪化につながることもあります」
「使いすぎると、逆に目の不快感が増すこともありますので、適切な使用回数を守りましょう」
「夜間運転での一時的な覚醒には有用ですが、眠気が強いときは無理をせず休憩も重要です」
まとめ
眠気覚ましに目薬を使う行動は、涙の代用や感覚神経の刺激による「一時的な覚醒感」を得るという点で理にかなっています。しかしながら、それは眠気そのものを取り除く根本的な対処ではないことも理解する必要があります。
薬剤師としては、以下のような視点を持って対応することが重要です:
・使用目的と使用頻度を把握する
・清涼感=効果ではないことを説明する
・ドライアイや長時間作業による眼精疲労の相談にもつなげる
・「一時的な覚醒の補助」としての役割を適切に位置づける
眠気対策は本来、睡眠や生活リズムの改善が本質的な対処です。目薬を補助的に使う際も、その特性と限界を理解し、安全かつ適切に活用するよう、薬剤師として的確なアドバイスを心がけましょう。