2025年7月26日更新.2,545記事.

調剤薬局で働く薬剤師のブログ。薬や医療の情報をわかりやすく伝えたいなと。あと、自分の勉強のため。日々の気になったニュース、勉強した内容の備忘録。

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「お大事にどうぞ」ってどういう意味?

「お大事にどうぞ」の語源と意味を考える

薬局で薬を受け取り、帰り際に言われる「お大事にどうぞ」という一言。
私たち薬剤師は日常的に口にする表現ですが、改めて考えてみると、ちょっと不思議な言い回しだと思いませんか?

「お大事に」はよく使うが、

「どうぞ」がつくと、なんだか変な感じ?

「お大事に」はどこから来たのか?

「お大事に」という言葉は、病気やケガをした人に対して、体調の回復を願う気持ちを込めてかける言葉です。

● 「大事」の意味
「大事(だいじ)」という語は、現代語では「重要なこと」「大切なもの」を意味しますが、元をたどれば平安時代から用例があります。
仏教用語では「だいじ(大事)」は「もっとも大切なこと(=本質)」という意味で使われ、
そこから転じて「大切にすること」「健康を損なわないように注意すること」という意味に派生しました。

● 使い方の変遷:
「お大事に」は、もともと
「お身体を大事になさってください」
という省略形。口語的な配慮や短縮により、敬意を残しつつも親しみやすく表現されたものです。

「どうぞ」の語感がもたらす違和感?

さて、ここで問題になるのが「お大事にどうぞ」という言い回しです。

「お大事に」だけで意味が完結しているのに、なぜ「どうぞ」を付けたくなるのでしょうか?

● 「どうぞ」は依頼・勧誘・提供の表現
「どうぞ」は基本的に、「相手に何かをすすめる」または「自由にしてよいことを促す」ための言葉です。

「どうぞ、お入りください」
「どうぞ召し上がってください」
「どうぞ、お気をつけて」

これらはすべて相手の行動を後押しする言い回し。そのため、「お大事にどうぞ」となると、あたかも

「お大事にするという行為を、どうぞご自由にお取りください」

といった、どこかおかしな言い回しになってしまう印象があります。

「お大事にどうぞ」は誤用なのか?

ここで疑問になるのが、「お大事にどうぞ」は言葉として正しいのか?という問題です。

◎ 結論:文法的にはやや不自然、でも接客用語として定着
文法的には、「お大事に」と「どうぞ」はそれぞれ目的・役割が異なるため、文構造として見ると少々無理があります。

しかし、接客語法・慣用表現としてはすでに市民権を得ているとも言えます。たとえば:
「ごゆっくりどうぞ」
「お気をつけてどうぞ」
「お好きなようにどうぞ」

などと同様に、「お大事にどうぞ」も、「お大事にしてください」という願いに、「どうぞ」という丁寧な響きを添えた、気持ちをやわらげるための装飾表現と捉えることができます。

「お大事に」と「ありがとうございます」の違い

薬局で患者さんに対してどんな言葉をかけるべきか、という議論の中でよく出てくるのが、「お大事に」ではなく「ありがとうございました」という表現です。

しかし、患者さんの立場からすると、

「病気になって来たのに『ありがとうございました』って…?」
「なんか変じゃない?」

という印象を持たれることがあります。

● 薬局は「商店」であり「医療機関」でもある
この表現の違和感は、薬局がもつ二重性に関係しています。

・小売業:来店者=お客様 →「ご利用ありがとうございました」
・医療従事者:来局者=患者さん →「早く良くなってください」

薬局はサービス提供の場であると同時に、医療の最前線でもあります。そのため、感謝の言葉と配慮の言葉の使い分けが求められるのです。

「お大事に」は医療職の共通文化

「お大事に」は薬局だけでなく、病院やクリニックなどでもよく使われる言葉です。

◎ 医療者同士でも
看護師が患者を見送るとき、医師が診察後に声をかけるときも、「お大事に」と言う場面があります。

これは単なる挨拶ではなく、治療の延長線上にある心遣いと考えられます。

◎ 心理的ケアとしての意味
体調を崩している患者に対し、「お大事に」という一言は、

・あなたの身体を気遣っています
・これからも健康を願っています

という、非言語的な優しさを伝える力を持っています。

■ 海外ではどう表現する?
「お大事に」に相当する英語表現には、以下のようなものがあります。

“Take care.”(気をつけてね)

“I hope you feel better soon.”(早くよくなりますように)

“Get well soon.”(お大事に)

特に“Get well soon.”は、お見舞いのカードなどにも使われる定番フレーズです。

しかし、“Please take care.”のように、“Please”をつけるとやや不自然なこともあるため、「どうぞ」のような語感をつけるかどうかは、英語でも微妙な問題といえます。

結局、何て言うのが正しいのか?

薬局や医療機関での締めくくりの言葉として、以下の選択肢があります:

・お大事に:定番表現 丁寧・安心感 若干短くそっけないと感じる人も
・お大事にどうぞ:接客感を強めた言い回し 丁寧・やさしい印象 文法的にはやや不自然
・ありがとうございました:買い物や調剤を終えた場面 感謝を伝えられる 病気に「ありがとう」は避けたい患者も
・ご利用ありがとうございました:事務的・チェーン薬局などで 形式的には正確 患者によっては冷たい印象

まとめ:「お大事にどうぞ」は言葉の“まごころ”

「お大事にどうぞ」という言葉は、文法的に完璧でなくても、それを口にする人の優しさや心遣いが伝わるからこそ、長年愛用されているのだと思います。

言葉というのは、正しさよりも伝わり方が大切なときがあります。

薬局で、体調が悪くて不安な気持ちを抱えている患者さんに、「お大事にどうぞ」とそっと声をかける。その一言が、患者さんの心に安心を届けるかもしれません。

今日、あなたはどんな気持ちで「お大事にどうぞ」と言いましたか?

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職業:薬剤師
出身大学:ケツメイシと同じ
生息地:雪国
著書: 薬局ですぐに役立つ薬剤一覧ポケットブック薬局ですぐに役立つ薬剤一覧ポケットブックの表紙
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